雑多 | ナノ



知らぬが仏

※女体

ある昼下がりの出来事。
まさかこれが俺の人生を変えるなんて、思ってもみなかった。

「ちょっと大、止めなさいよ!」

「うるせえ!これは男と男の真剣勝負なんた!」

トーマ・H・ノルシュタイン。
本日漬けでDAT日本支部に配属、いや帰還することとなった自称天才のデジモン使い。
そんな奴がどうしたって?今現在進行形で喧嘩を売られてるんだよ!

「でかい口たたくくらいなら、実力はあるんだろ!?」

「力任せな君よりは、マシだろうね。」

「おっもしれえ!!」

「ち、ちょっと大!」

淑乃の静止の声など知ったことではない。
胸ぐらをつかむと、一気に殴り倒…せなかった。勢いよくぶつかり合った手と手。油断した一瞬からの溝への一撃。殴られた、それを理解させたのは淑乃の呼ぶ声と背中への衝撃だった。

「止めなさいよ二人とも!」

「そうよ!そんな野蛮なことをトーマにさせちゃダメ!」

オペレーターの二人にも止められようが、関係ない。素早く復帰すると、勢いと感情のまま殴りかかった。まさかここまで早く対処されるとは思わなかったらしい。ガツン、と鈍い音が響きトーマがバランスを崩した。
女性陣から、悲鳴が聞こえた。

「なんてことをしたのよ大!」

「大丈夫?トーマ。」

面白くない。ちやほやと庇われる姿がまたカンに触る。
殴られたのは俺も同じだろうがよ。
睨んでやれば、逆に睨み返された。ケッ、可愛くねえ。

「…単細胞には何を言っても無駄だよ。」

「ンだとコラァ!?」

負け犬の遠吠えというか捨て台詞というか。女に取り押さえられているうちに、奴は部屋から消えてしまった。やっぱり可愛くねえ。

「謝りなさいよ!」

「ハンっ、知るかよ。」

「アンタ、男でしょ!?」

「そうよ、トーマは女の子なんだから!」

言われた瞬間、頭が真っ白になった。

トーマが、女?

確かに色素は全体的に薄いし、目もパッチリとして大きい。だが負けん気はあるし意地ははるし、可愛げなんて男女どっちにしろあったものじゃない。

「…ッチ。」

なんていくら言い訳を並べたところで、過ぎてしまったことをナシには出来ない。勘違いと言えども、女を殴ってしまったのは事実。胸糞の悪さは今までの非ではない。
謝ろう
慌てて彼女の背中を追うために走り出した。
背中は、すぐ見つけることが出来た。

「トーマ!」

返事はない。ただ、赤く腫れた頬を覆う手が痛々しい。

「わりい………顔、殴っちまって。」

「構わない。油断したボクが悪いんだ。」

相変わらずすまし顔なトーマに、苛立ちより罪悪感を覚えた。
我慢しているのではないか、耐えているのではないか。慣れてしまい、表現することを忘れた、そんな気がしてしまう。

「痛くねえか?」

「余計は心配はしなくていい。」

「でもよ…」

「しつこいよ。」

「トーマ。」

少々荒々しく腕を掴み、水場へと引きずってやった。無理矢理母さんに持たされたハンカチを、無理矢理傷に押し付け、湿らせ、また押し付ける。
染みるのか、浮かんだ涙もまとめて拭き取り熱が引くまで繰り返す。

「責任はとるからよ。」

「せっ責任?」

「おう。男に二言はねえ。」

初めて、トーマの"表情"を見た気がする。赤くなるわ、視線は泳ぐわ、言葉は聞き取れないほど動揺してる。

「名前、まだ聞いてなかった、ね。」

「大門大。よろしくな、トーマ。」

「あぁ…ふ、不束者ですが、よ、よろしくお願いします…」

「?おう。」

妙に改まった挨拶に、疑問を感じざるを得なかった。
この時に、トーマの真意を見抜いていれば、誤解を招かなければこんな幸せな未来はなかっただろう。

知らぬが仏。

++++
アグ・ガオ「解せぬ」

12.5.7

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