雑多 | ナノ



Happy family.

「頼む!今日だけでも『俺たちの家族』になってくれ!」





「というわけだ知香!今日一日コイツがお前と遊んでくれるからな。」

「よろしく。トーマお兄ちゃん!」

大に言いくるめられたと思ったら、目の前には少女特有の無邪気な笑顔と、飛びついてくる小さな体。
確か、今日は彼の妹の誕生日であるが、大の日頃の行いの悪さにより補習に捕まってしまった、と聞いたような。

「よろしくね。知香ちゃん。」

「よろしく、トーマ君。」

温かい家族と、小百合の優しい瞳がこっちを見ている。こんな暖かさに触れていては、意味もなく恥ずかしくなってしまう。優しかった母を思い出し、赤くなる顔を逸らした。

(居心地は悪い、けど…)

「お任せください。このトーマ・H・ノルシュタインが素敵な誕生日をエスコートしますよ。」

二人を悲しませることなんて出来るわけもない。笑顔で手を差し出せば、智香も気に入ってくれたようだ。満面の笑みがそこにある。
これならつかみもOK、印象もバッチリ、予定も完璧、あとは実行をするだけだったのだ。
が。
さすが大の兄弟というか、なんというか。最初から予定は崩されてしまった。イメージしていた高級感溢れる店ではなく、古びた民家を彷彿とさせるちっぽけな家屋。なんだか拍子抜けしてしまう。
いつも彼に振り回されているから慣れてはいるが、強く言えない分彼女の方が質が悪いものであるのは確か。
いつも、自分はどう対処していたであろうか。
大には、大になら、大なら、大は――――――

(大は、真面目にやってるんだろうか)

こんな、不確定要素があればいつも思い出す。トラブルメーカーの彼の事を。
バカで、無鉄砲で人の話を聞かなくて。でも自由で真っ直ぐな大を。

「トーマお兄ちゃん、楽しくないの?」

ボーっとしていたことを不審に思ったのであろう。智香が心配そうに覗き込んで、こちらを見ている。まさかこの至近距離でも気付かないとは。

「そんなことないよ。」

「わかったー。大兄ちゃんのこと考えてたんでしょ〜」

図星をつかれたことか、それとも後ろめたいことでもあったのだろうか。大きく心臓が跳ねたのがわかった。

「も〜兄ちゃんはしょうがないなー……こんなに心配かけるなんて…。」

「え、あ、そうだな。」

拍子抜け、とはこの事だった。

(僕は、何を考えていたんだ……)

そうだ、変な意味なんてあるはずないのに。今"何"を考えていた?
大の事は大の事。だが知香のいうこととはまた違った意味だということは確か。

(…参った、な)

今日の予定もそうだが、大門家族には全てが狂わされる。常識も、予定も、感情も。

「トーマお兄ちゃん、顔が赤いよ?」

「な、なんでもないよ!」

「あらあら、風邪をひいてなきゃきゃいいけど。」

きっとわかっているのだろう。優しい笑顔でからかわれては、居心地も悪くなるというものだ。
知香は本気にしたようで、「大丈夫?」と熱を測ろうと手を伸ばしてきたが、勿論やんわりと拒否する。今、体は火照りきっている。額に触られては確実に勘違いが大きくなってしまう。そんなところを

「大兄ちゃん!」

そう、大に喋られては…

「…え?」

(今の声、まさか…)

「ただいま!楽しかったか知香。」

「うん!」

早めに補習を切り上げてきたのだろう。荒い息と、少し赤くなっている頬。教師に叩かれるような脱出でも試みたのだろうか。

「それより兄ちゃん。トーマお兄ちゃんが風邪かもしれないって……」

「そうなのか?どれどれ…」

予想外に強い力で腕を拘束され、額に手を当てられる。
顔が、近い。大の顔が目の前にある。普段よっくり見ることのない茶色い瞳は、いつものように強い光を帯びている。
この瞳に、負けたんだ。他の何事でも負けないと自負するトーマが。負けの知らない強い瞳に、最初から勝ちめはなかったのだろう。

「そうだな、ちょっとアチイな。」

「大変!早く帰らないと!」

「心配ないよ。じゃあもう執事に連絡して……」

「あ?何言ってんだ。テメエはウチに来るんだろ。」

奇妙な言葉と、浮かぶ体。恥ずかしい体制で抱き上げられているんだ。自覚した瞬間に眩暈すら訪れた。

「離せ!」

「言ったろ?今日一日、俺たちの家族になってくれって。」

「そうは言ったが、知香ちゃんと遊ぶ間、じゃないのか!?」

「一日は一日だろ?」

全く、バカというものは変な気転がきく。反論する気力もなく、脱力感に苛まれてしまった。

「それに。俺を抜いて家族だ、なんて抜かさねえよな?」

「は?」

「俺は『俺たちの』って言ったろ?だから、今からは『俺の家族』になってくれよ。」

どこまで狂わせる気だ。生活も、感情も、人生までも。
嬉しそうな知香の顔に、否定の言葉が出てこない。口ごもっていると、イエスでとられたのだろう、大の憎たらしい笑みがさらに深くなる。

「あらあら、大は大胆ねえ。」

この場合、トーマ君がお嫁さんかしら?沙百合の本気かもわからない言葉に、眩暈がした。

++++
本編見ながらトーマが人妻萌なんだと思ってた

12.5.4
修正:6.5

[ 1/49 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -