えふえふ | ナノ



子守唄

※6500hitキリリク

夕方のテラスではいつもプチコンサートが開かれる。知る人ぞ知る知る、魔導院の日常。
エースの歌声はうまいだけではない。人の心に響く歌声は、人々の足を留める力があった。

(エースさん、今日もやってるかな?)

エントランスを駈けるデュースは、息を乱しながら笛を握り直した。
エースの歌に合わせて演奏するのは、いつも間にか交わした約束事のになっていた。心配はいらない事はわかっているが、デュースの楽しみ故、急く気持ちを抑えられない。

「いたいた。」

景色が変わると聞こえ出す、いつものように数小節しか続かない不思議なメロディーが。
デュースもマザーに聞かされたことはあったが、この歌にここまっ固執するのはエースだけ。よっぽど彼の心に響く歌詞だったのか、思い出してはどこでも口ずさんでいるのは知っている。

「エースさ…」

名を呼ぼうとして、やめた。近くに人が見えたから。
前々から仲がよかったのは承知、最近つい合い始めたのはケイトたちから聞いた。冊によりかかっているのはエース。ならばベンチという名の特等席にいるのは、マキナであろう。見なくとも予想はつく。
隠れる必要はないが、なんとなく、普段の二人が見てみたくなった。見つからない程度に顔を覗かせると、やはり癖毛を靡かせながらマキナがエースを眺めているのが見えた。
いつものように、エースは何度も何度も同じ節を歌う。まるで、忘れたことへの歯痒さを悔やむように、何度も何度も。

「エース。その先は、知らないんだよな。」
「何故か……思い出せないんだ。」

再び、同じ場所へと戻ってくる。無くしたものを探すように、グルグル、グルグルと。

「うーん…なんだったかな……」

すっきりしない、と頭をかきむしるエース。デュースも首を捻るが、エースと違い歌詞など意識することが少ない。

「マキナは知らない?」

「知ってたら歌ってるさ。」

「…そういえば、マキナの歌聞いたことない。」

ギクリ、という擬音語がぴったりであろう。静かに目線を逸らすマキナの顎を素早く、だが優しく掴むとゆっくりと目線を合わせようとする。なかなか、珍妙な攻防である。

「聞きたいなー、マキナの歌声。」

「は、ハードル上げても何も出ないからな……」

「マキナの歌が聞けるならなにもいらない。」

誉められて満更ではないのは、誰だってそうであろう。真っ赤になり、顔を背ける彼女の妨げはもうない。

(マキナさんも、女の子らしいところがあるじゃないですか……)

もじもじしている彼女は、おそらく上目遣いであろう。デレデレしすぎなエースを見ればわかる。
微笑ましくなり、小さな笑いが漏れた。

「…う、歌うものないからな!!」

「僕の歌、覚えただろ?マキナは記憶力がいいからなー。」

目を逸らした、ということは図星か。

「い、いいだろ…俺はエースの歌を聞きに来たんだから……」

「僕はマキナの歌が聞きたい。僕ばっかりじゃ不公平だ。」

「うー………」

エースに似合わぬわがままにちょっと驚いてしまった。いつもは大人びて、リーダーとして皆を仕切っているのに、まるで子供のように甘えている。
ね?いいだろう?
まるでマザーにでも甘えているような、柔らかい口調は長年戦場を共にした0組の兄弟たちも知らないだろう。

「ね、デュース?聞きたいよね?」

「へっ?は、はい!…………あ。」

咄嗟に返答を返してしまい、口を抑えるが後の祭り。目を剥きこちらを凝視するマキナの恐ろしいこと恐ろしいこと。しかし、すぐ赤くなった、ということは怒ってはいないようだ。取りあえず一安心である。

「ご、ごめんなさい…その、覗くつもりはなくて…お二人の邪魔しちゃいけないと…。」

「い、いつから……」

「最初からだろ?デュースは遅刻しないからさ。」

「…約束してたのか?」

「約束、というか恒例行事かな?」

何故だろう。睨まれている気がする。覗き見は怒られるのは仕方がない。だが彼女の沸点は、そのことではないのは確か。エースに助けを求めると、マキナの頭を撫で宥めてから楽しそうに耳打ちしてきた。

「結構嫉妬深いんだよ。ツンデレってやつ?」

「エース!聞こえてる!」

余計なことはいうな、と吠える彼女にエースは悪戯に笑う。

「本当にマキナは可愛いなぁ…」

人目もはばからずに軽い口付けを交わすなんて、こっちが恥ずかしくなってきた。真っ赤になるデュースと、負けずに赤くなるマキナ。エースは、クスクス笑うばかり。

「え、ええええエースッ!!!」

「ごめんごめん!じゃあデュース、いつものお願い出来るかな?」

「わかりました!」

うろ覚えなこのメロディー、歌詞も、正しい音程もわからないが一通りなら全て覚えている。
手を取り共に座ると、足で拍子を取り始めるエースに、戸惑いながらもマキナも続く。

「迷子の足音、消えた」
「代わりに祈りの歌を」
「そこで炎になるのだろう」
「続く者の、灯火に」

迷うことなく出てくる歌詞に、心中で感嘆の声を漏らす。それに初めて聞く歌声だったが、エースのアルトとマキナのソプラノが交差し、美しいハーモニーを生み出す。途中で歌声は聞こえなくなるが、口ずさみは聞こえる。
目を閉じ、うっとりと聞いていたが、徐々に声が聞こえなくなる。どうしたのか、なんて目の前に答えがあった。

「いつも、寝ちゃうんだよ。」

しーっと、悪戯に笑うエースの肩によりかかり、しかし絡めた指は放さない。
幼い寝顔を見ながら、デュースも微笑ましく笑った。

「お似合い、ですね。ちょっぴり兄と妹みたいですが。」

「はは、僕も甘えたいんだけど…ね…」

エース、と短く漏らす唇。

共に、見つけられるだろうか。埋められるだろうか。
無くした何かを。

+END

++++
6500hitキリリク「エーマキ♀でほのぼのしてる2人を見守ってる誰か」
ということですが、単なる+、ですね…デュースにしましたが……また女体化する必要が見えませんね……(´・ω・`)

キリリクおめでとうございました、そしてネタ提供ありがとうございました!

12.1.29

[ 678/792 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -