人の恋路を邪魔する者は…
※先天的にょた
青い空、白い雲。澄んだ空気に暖かい昼下がり。
可愛らしい小柄な女子とテラスで二人きり。しかも、相手は緊張でか体を堅くし、顔が赤らみ涙まで浮かんでいる。
こんな時にやることは一つだろう。
「あのさ、キング…」
「なんだ。」
「男性って、どんなことされるとドキドキする?」
やることは一つ。そう、恋愛相談。
ちなみに今日が初めてではない。何回も行われる恒例行事なのだがまたか、そう言ってはいけない。だから今日も溜め息で我慢しよう。
「…………恋愛経験どころか、戦場では女性との付き合いすらない。」
「言い方が悪かった。何をしてもらったら嬉しい?」
チラリと周りに目をやるが、特に有益なものは捉えられない。
困った相談だが、相手は必死である。
普段冷静な奴ほど、不確定要素に襲われるとパニックを起こす。その不確定要素で一番有名なもの――恋愛。
「……手作り料理とか。」
「手作、り……。オレ、不器用だ、け、ど……」
「ならばスキンシップ接触はどうだ?」
「それが出来たら苦労は………」
どうやら事態は予想以上に深刻、もとい面倒くさい。そして彼女・マキナは純情乙女であることがわかった。だが、わかったからといって何かするわけではない。もし手を出そうものなら、"彼"に殺されてしまう。
「男、ではなくエースが、と言えばいいだろう遠まわしな。」
「〜〜!だってわからないっていうだろ。」
「俺はエースじゃないから完璧にはわからない、ということだ。」
「喜んでもらわないと意味がない……」
「思慮深すぎる。奴ならなんでも喜ぶ。」
「そうだけどさーっ」
またもや無限ループな突入、というのか。なんとも面倒くさいものだ。
いつもいつも、この流れ。うんざりしてくるが、本人は至って真面目。悪気などさらさらないのだ。
「……傍にいてやればいい。」
「えっ」
「傍にいれば喜ぶ。好きというのは、そんなものだろう。」
「それだけでいいのか?膝枕や恋人繋ぎや、キスや抱き合ったり膝に座ったりはしなくていいのか?」
「臨機応変にしろ。」
事細かにスケジュールを組まれるのは嫌であろうに、この少女はそれを望むというのか。
「でも本当にそれでいいのか…?」
無限ループは本当に怖い。
「そうだ。だから早くエースの元にいってやれ。」
「あ、うん。」
小さな背を押してやれば、花のような笑みを返してくれた。
「聞いてくれてありがとう、キング。やっぱり優しいな。」
この笑顔に惹かれたのだろうか。あの冷静で無愛想に見える彼も、この笑顔に絆されたのだろう。
「俺、頑張ってみる。エースが喜んでくれるようにさ。」
「ああ。」
駆け足で去って行く彼女を見送ると、一難去ったような溜め息。マキナは好きだ。だが彼女に憑く者が問題なのだ。
「エース。出てきたらどうだ。」
殺気だつ樹木に声をかけると、ゆらりと現れた人影。
キングを親の敵のように睨み、隣のベンチにどかりと座り込んだ。
「よく相談されるのか。」
「まあな。」
「あんなに近くまで近寄るのか。」
「ベンチが狭いから仕方ないだろう。」
明らかなる嫉妬に、毎度溜め息をつかざるをえない。
このバカップルはいつもこうだ。お互いを想い合うばかりに、多少、いやかなりの問題事を周囲に持ちかける。だが無意識、及びマキナの場合は純粋な相談により無碍には出来ない。
しかし、問題はエース。マキナに近づくもの全てを睨みつけ、触れようものならカードがナイフのように壁を抉る。勿論、彼女の知らぬところで。
「何もしていない。」
「当たり前だ。触れていたら消毒する。」
この気合いをもっと違うところで生かしてはくれまいか、とつくづく思う。しかし、恋の力は他のものに生かせるほど万能ではない。
「マキナもマキナだよ。無意識に色気振りまいて……そこが可愛いんだけどな。」
「はあ、」
舌なめずりをしそうな勢いな彼に、もはや言うことはない。
恋は盲目、偉大な力。しかし時には困ったものとなる。
「…マキナが探してるだろ。早く行ってやれ。」
「ああ。…ん、でも探し疲れて涙目になるところを待ったほうが可愛いかもしれないな…」
自分勝手なことを言っている気がするが、気にしたら負けだ。ひとまず嵐は去った、とでもいっておくとしよう。
(いっそ、他人を巻き込まずにイチャイチャしてくれればどれだけいいか…)
カップルの悩みが解消されようとも、キングの悩みは増える一方である、昼下がりだった。
+END
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キングは苦労人
12.1.2
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