*虹
※現パロ
「あははは、トレイの眼鏡ってへーん!」
「シンク。真面目にしないなら置いていきますよ。」
「やだぁ〜っ!」
今、私は脅されている。
夕日を浴び変わり果てた教室。私の机にも朱が差し込み机上の紙切れを美しく照らす。
あぁ、いっそ赤いだけの紙だったらよかったのに。紙には自分の汚い字でうっすら『レポート』と書かれていた。
「おっと。こんなことをしてる間にも、残りは1時間30分ですね。」
「うわーん!!」
彼が、指の間で紙を踊らせながら笑う。そう、脅しの道具は締め切りの過ぎたレポートではない。トレイが手にした紙なのだ。
こちらは規則のある綺麗な字で書かれており、細長い。指で擦ればあら不思議。紙は二枚に増えた。
「『虹空』見に行きたかったのに…」
「チケットは買ってあるんです。間に合うかは貴女次第ですね。」
レポートの再提出も、手伝ってくれるトレイもいつも通り。だが今日はごねるシンクへの秘密兵器、映画のチケットが現れたのだ。
足を組み換え、ペンを走らせるトレイ。知的な彼を一層際だたせる眼鏡のせいか、いつもまとう雰囲気と違う。眼鏡をかけ直す仕草に、ドキドキする。
「…シンク?」
「へ?っひゃあ!」
顔が近い、近い。勢いに任せて椅子ごと床に体当たりするところだった。
「全く…なんで手伝ってる私がこんなに必死なのでしょう…」
悪夢を覆い隠すように置かれた紙には、達筆な字の羅列が整列していた。
「レポートのまとめです。わかりやすくしましたから、あとは自分で書き直しなさい。」
「ありがとう!トレイ大好き〜っ」
「…、途中放棄は自分のポリシーに反するだけです。」
朱い光は一層強くなり、闇が落ちる。野球部たちの声援雑談に変わり、慌てて手を動かした。
「シンクは見てあきないです。」
「ふえ?」
「私にも思いつかないことをしでかしてくれますから。」
「それ、褒めてる〜…?」
「勿論。」
耳から落ちた揉み上げを優しく耳にかける彼の熱て微笑みに、シャーペンが音を立てて折れた。普段は口うるさいだけ、物静かな彼に動揺がうまれる。
「ホラ、手が止まってますよ。」
「えっ…あ、虹!」
夕闇へ染まる空を指差し、シンクは笑う。虹なんてどこにも見えない…わけではなかった。淡く空にかかった虹。ぼんやりしていては気付かなかっただろう。
「やっぱりシンクは面白いです。」
虹なんかより、魅力的なものからトレイは目が離せなかった。
++++
お互いにタイプが違うこそ、惹かれあう
夕方の虹って、本当に綺麗ですよね
12.1.23
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