*戻れない
※ネタバレ
「おい、お前。」
兵士たちがせわしなく走り回る中、背中から声をかけられた。億劫な気持ちは面に出さず、いや表情すらわからない仮面で振り返ると、見慣れた顔。かつては宿敵だったカトル―――今回作戦を共にする男だ。
「なんだ。」
「……ちょっと話がある。こい。」
兵士の怒声とカトルの声が山彦のように響く。爆撃音が遠くから聞こえる。悲鳴や叫声も、まるで別世界の出来事のようだ。
自分はどこにいるのだろう?何故ここに来たのだろう?どうやって?なんのために?ここはどこだ?
(俺は、誰だ?)
ぐるぐると思考が回る、思惑が交錯する。答えなんて出るわけがない、出せるわけもない。また、山彦が呼ぶ声がうるさい。仕方ないから、ついていってやることにした。
あぁ、うるさい。
次に我に返った時は、背中から冷たい無機物を感じた時だった。
目の前に、大人の男の顔。真っ直ぐ見つめてくる瞳は、気持ちいいものではないのだけは確か。それ以上も、それ以下のものも感じなくなっていた。
「お前は、朱雀の小僧だろう?」
「だったらなんだ。」
「国のことで思い悩んでいるのだろう。」
厚い仮面が取り払われたことで、髪が左右に広がる。広がる世界は、見慣れぬ世界。無意識に目は、見慣れたものを探そうとしてしまう。
「何故目を合わせない?」
「関係ない。」
「まあいい。お前はもうルシだ。白虎のルシなのだ。」
壁に手をつかれた。もう、逃げ場はない。だが、視線は未だにナニかを探し続け、現実から目を逸らそうと励む。
「まだ逃げるつもりか?受け入れろ。身も心も白虎に捧げるがいい。」
顎を掴まれ、重なる視線。カトルの声がやけにはっきり頭に響く。
「敵は倒す。…それでいいだろう。」
重なるかと思われた唇は、手で制す。身をよじらせ抜け出すとマントを翻し元きた道を目指す。
「…いいだろう。だが、いずれにせよお前は逃げられん。」
進めども進めども、カトルの声は大きく響く。
ざわめきも人も減り、やけに静かになってきた。元の場所に戻ったはずなのに、そこはすっかり変わり果て荒廃していた。
++++
謎のルシが白虎の技術で蘇ったイザナだと思ってたのはいい思い出。
そのほうがマキナを追い詰められるし、エースと和解出来て綺麗にまとまる…と思ったけど無理があった(^p^)
12.1.20
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