えふえふ | ナノ



*傷ナの跡

カァン、キィン
高い音が鍛錬場に響く。磨き上げられた鉄と鉄通しがぶつかり合い、軽快なリズムを生み出している。実力は全くの互角。かと思いきや。今リズムが激しく狂う。
勝負は一瞬でついた。

「俺の、勝ちだ。」

「はぁ、へいへい降参降参。」

息切れをしながら白旗を上げたのは、ナインだった。


「ナイン、本気でやれよ。」

ぶっきらぼうに投げつけられたタオルをナインは顔で受け止める。いつになくマキナは不機嫌で、ナインを恨みがましく睨みつけている。

「あぁん?俺はいつでも本気だコラァ!」

「本当に?」

「ああ。」

「嘘だったら報告書手伝ってやらないからな。」

「それは勘弁してくれよ!!」

やっぱり嘘じゃないか、一人ごちたマキナを余所にナインはまだ見ぬ未来に慌てふためいている。わかりやすい。

「なんで本気を出してくれないんだ。鍛錬にならないだろ?」

「俺が本気だしたら、し、勝負にならねえだろ、コラ。」

「それは俺が弱いってことか?」

「ち、ちげーよ!」

睨みつければ面白いほどに慌てる彼。普段なら笑って許してやるが、今日は引くことはできない。

「…お前に、本気だせるかよ……」

「だから何故。」

「傷、つけたくねえよ。」

過去に、ナインはマキナを傷つけた。鍛錬だが一度武器を持てばそこは戦場。
ナインのように論理的に動かない人間ほど、反射や勘が発達する。要するに、戦闘反射が生まれる。そして、マキナも弱くはない。敵の隙をつくのが上手いことが仇となり、大量出血の大怪我になりかけたのだ。
それ以来、ナインは本気を出さない。意識的にセーブした力は体力に響かせる。

「別に、いい。」

ポツリと言葉が吐き出される。

「早く、お前の隣を歩きたいから。」

「…ケッ」

「それに…」

まくった袖から、茶色い線が現れた。白い肌を駆ける線は、痛々しくもあり美しく映え、存在感をアピールする。

「お前の、証だからさ。」

もしも、キミがいなくなっても一緒にいられるように
もしも、キミを忘れても思い出せるように
もしも、俺が死んでもこの跡は消させはしない

「…まだ痛いか?」

舌が傷を労るように包み込む。もうしみはしないが、擽ったさは伝わってくる。

「ナインは、バカだな。」

マキナの目は赤かった。

++++
ま さ か の シ リ ア ス

12.1.19

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