えふえふ | ナノ



愛情表現法

※ヒカ♂ウリ
※蒼天3.0くらい
※ヒカセン(アウラ♂)注意





「アルフィノ、いつもありがとう」
「改めて言われると照れくさいな……」
「アリゼーも、これからもよろしく」
「ふ、フン! せいぜい頑張りなさいよね!」

 まるで流れるような口説き文句で、に口付けを落とす姿も、新しい隊士たちにもすっかり見慣れた光景である。英雄様は皆に平等で、愛情表現も怠らない。いつ、誰がいなくなってもおかしくない時代。まるで生き急ぐかのように感情を表に出して「大好きですよ」と愛の告白をすれば、天才の双子も満更ではない様子で笑って抱きついては戯れあっている。
双子が新参の冒険者に懐いているのは、周知の事実。今更注目を集めることもなく、隊士たちもちらりと視線を向けては微笑むだけである。それが、この砂の家の日常である。
 クリスタルブレイブ瓦解からもう随分と過ぎたが、徐々に町や砂の家にも喧騒が戻りつつある。失われた人はもう戻ってはこないが、今度は真の意味でアルフィノや暁の元に有志が集まったのだ。喜ばしいことである。
殺風景な、石の壁が丸見えなこの家だが、華やかな空気が流れている。机、椅子、バーや憩いの広間、それに狭い寝室が数個と言った、必要最低限の英気を養うだけの場所ではあるが、戦士たちにとっては十分帰るべき家として機能している。岩壁であるが埃っぽくないのは、留守番をしてくれている。フ・ラミンやタタルのおかげとも言える。完璧に掃除されている床は、すり足をしたところで砂埃もたたない。子供たちが寝転ぼうとも服が汚れず、大人たちにも大変評判である。
 それはさておき、戯れ合う英雄たちは、憩いの場の端の机を囲んで戯れ合い中。双子の頭を撫でては笑い合う姿が見て取れたが、ふとアルフィノが以前より気になっていた身体的特徴に目をつけたのだ。

「アウラの角は、いつ見ても大きい」

 興味本位で手を伸ばしては触れようとしたが、寸のところで身を引いては困り顔。珍しい英雄の怒りとも取れる困り顔に、慌てて手を引いてはアルフィノも表情を窺うしかできない。

「角だけは触らないでほしい。アウラ族にとって、大切な部位なんだ」
「それはすまなかった」

 遠くから子供達とのやりとりを見つめていたが、微笑ましいものである。あの使命感に囚われて硬い表情を浮かべていた師匠の孫たちが、朗らかな笑いを浮かべている姿に暁の面々も安堵の表情を浮かべている。特に目を逸らすことなく見つめているのはウリエンジェである。
 双子のことは小さい頃からお目付役として側にいたため、弟や妹とういよりは実の子供に向ける感情を抱いている。気難しく、強い正義感により全てを背負い込もうとしていたのはお互いに似ているところ。最近では、そんな頑なだった2人にも笑顔が戻り、いい変化が見られたのは横にいる冒険者のおかげである。2人が懐いているのなら、邪魔をする理由もない。2人はもう守らなくてもいいほどに強くなっているのはわかっているが、英雄を見つめる理由がほしかった。それだけである。理由もなくぼんやりと眺めていれば、こちらを見つめる光の戦士の笑顔がある。気のせいかと思ったが、こちらへ早歩きで駆けてくるとなると、幻でもなんでもない。

「ウリエンジェ!」

 呼ばれた頃には、手の届く距離にアウラ族の男が立っていた。先ほどまで双子と一緒にいたと言うのに、どうしたのだろうか。周囲を見回せば、言葉も届かない机へ移動してはお茶菓子をかじっているではないか。もう彼らのじゃれ合いは終わったようである。
 しかし、どうしてこちらにきたのだろうか。参謀型と実行部隊、あまり接点がない上につもる話もない。だが前々から隙あらば無邪気な笑みを浮かべては、英雄様はウリエンジェへと接点を作りにくるのだ。
「物好きですね」と笑われても、めげずにやってきては何も言わずに読書をする姿を眺めるだけ。始めは煩わしかった視線も、徐々に心地よいものになってしまうとは時の流れは恐ろしい。今では彼がくるだろう時間に、紅茶を入れて待っている。まるで、願を懸けるかのように。

「なんでしょうか」
「珍しいな。いつもはすぐに砂の家へと戻るのに」
「本日は急ぐ理由もない故に」
「嬉しいや」

 「同席していい?」という問いと同時に、答えなど待たずに正面へ座り込む。始終笑顔を浮かべては全身を舐め回すように真っ直ぐ、社交的な人間でもたじろいでしまうだろう。思わず顔を背けてはフードを深く被れば「すみません、見つめすぎましたね」と素直な謝罪が返ってきた。
 特に話す話題もない。何も言わず、男が2人ただ座っているだけで時間が過ぎるなど違和感しかない。双子や他の隊士を眺めているが、内容こそ雑多になって聞こえない。だが英雄の笑顔から、本当に楽しんでいるのがわかる程度だ。しかし、あのお喋りな英雄も何を言うこともなく、ソワソワと落ち着かない様子であること以外はおかしなところはない。携帯していた解読中の古文書も読み終わり、ウリエンジェが勢いよく顔を上げれば、相変わらずこちらを見つめてくる正面の男。ずっと見ていたにもかかわらず、微笑みは崩れることもなく、謎めいた容貌の彼の秘密を見透かすように見つめ続ける。
 なんだか居心地が悪くなってきた。心臓が高鳴っては集中もできない。静かに古書を閉じると腰のポシェットへと戻し、ゆっくりと立ち上がると彼の驚いた顔を見下ろして深々と一礼をした。

「では、私は帰ります」
「送るぞ」
「お手数をかけるわけにはいきません」
「じゃあ、見送りだけでも」

 寂しそうな表情を浮かべるのは思っても見なかった。だが、無理矢理に留めることはせず、立ち上がっては手を差し出す。その手を取ってしまえば、帰れない気がして握りあぐねていると、急に顔を近づいてくるではないか。端正な顔立ちと、他の種族にはない鱗が間近で見えたと思った時だった。角で一往復、が撫でられたのは。
「触れないでほしい」と頑なに守っていた急所を無防備に寄せては密着させ、怪我をさせないようにと擦り付けてくるのだ。横を見やれば、満面の笑みと強い意思を帯びた瞳。まるで猫が「触ってくれ」と戯れるよう。恐る恐る角へと手を滑らせると、ほう、と熱い吐息がウリエンジェのを撫でた。
短い時間ではあったが、永遠にも感じられた行為であるが、ハッと我に返った彼によって心地よい時間は終わりを告げた。

「あ……」

 慌てたアウラ族の戦士から短く漏れた言葉は、本人ですら無意識に行ってしまった行動であるという証拠。見開かれて泳ぐ目と、仄かに染まった赤い目元。

「もし、これは……」
「ど、道中気をつけろよ。じゃ!」

 先ほどのスキンシップは明らかに故意の行動である。一瞬の出来事であり、周りからはただのじゃれあいにしか見えない。だが、ゴーグルで隠れていてもわかるほど、彼の表情から戸惑いが浮かんだのは第三者からもわかるものだった。
早歩きで入り口へと去っていく背中を、震える言葉と激しい動機に拳を握りしめながら見つめる。急なスキンシップには動悸が治らない。
言葉もなく単純な行動。だが裏に隠された感情がウリエンジェには伝わる。心がかき乱されて、隠れている目元も赤く、熱くなっていく。
 呼び止める先に、彼は逃げるように去っていく。答えを聞かずに逃げていくのは卑怯である。だが、他の者でも同性に対する告白すれば、答えを聞くことが恐ろしくなるだろう。後ろで困惑している参謀殿の姿を見て見ぬふりをしては、逃げるように入り口へ駆け寄る。

「ではヤ・シュトラさん。買い足しをお願いしまっす!」
「ええ。ゆっくりと行ってくるわ」

 入り口を塞ぐように先約がいることに、ぶつかる直前に気づくのは、彼の動揺していた証拠である。どうやら足りない食材を買いに、ヤ・シュトラが夜の街へと出ていくらしい。丁度いい案件だ。表情を覆い隠す誤魔化すように仮面を被っては早歩きで扉へと近づき、手をかけてはヤ・シュトラの不思議そうな顔を見下ろした。

「シュトラ。俺も手伝う」
「そう? じゃあお願いしようかしら」

 こちらを見ていなかったヤ・シュトラはもちろん事情を知らない。笑顔で頼りになる荷物持ちの男を歓迎すると、並んで石の家から出て行こうとする。
先ほどのむず痒い空気のせいもある。ウリエンジェからすると、2人が並んで歩く姿を見ていると、胸が痛むように感じた。扉を押し除け、夜の街へと溶けていく男の背中をつい呼び止めてしまい、腕を掴む。

「英雄殿!」
「どうかした?」

 あまりに急く声だったので、何か問題があるのかと不安に駆られてしまった。眉をハの字にしながら振り返れば、に柔らかい感触が落ちる。一体なんなのか、離れていく彼の赤く染まった顔を見ていると一目瞭然である。

「……気をつけて、いってらっしゃいませ」

 キィ、と弱々しい音を立てながら、外開きの扉が揺れる。建物内の皆には扉が、外の客には高身長の英雄が壁となり、何が行われたかは視認はできなかった。だが、はっきりと感じた熱だけが真実である。
辿々しい言葉は、いつも自信満々に読解内容を披露する彼とは違う。私生活の時の少し弱々しい姿。しっとりと頬に残った感触は、体に熱を残すには十分。青い肌に朱が走り目を丸くして硬直する英雄の姿と、普段は冷静な博士の俯く初々しい姿に仲間たちも目が釘付けである。

「ウリエン、ジェ?」
「これは、その、違いましたか?」
「アンタがそんなことしてくれるなんて、思ってもみなかった」
「ムーンブリダがよくやっていました」

 いってらっしゃいのキスなど、可愛らしいことをするなんて思ってもいなかった。唇の柔らかさを感じたを押さえて、つい呆けてしまった。
彼は最近、ふとした瞬間にクールな仮面以外の顔を見せるようになった。幼なじみにドギマギとした態度をとったり、見るからに拗ねてみたり、耳を垂れさせては落ち込んだ表情を見せたり。
2メートル以上はある高身長の三十路前の男であるが、本当は愛嬌のある人物だと思い知らされる。そして、わかりにくいだけでとても仲間思いで、寂しがりやで。
 だからこそ好きになった。
側にいたいと、告白せずにはおれないと思ってしまった。

「貴方からの想いに、一般的な行動で答えたつもりでしたが……正しい回答では、なかったと?」
「キスが一般的?」
「アウラ族とは違い、エレゼン族はこのように愛情表現をします」

 そういうことではないのだが、天然な回答すら可愛らしい。男同士で恋愛感情などと、非生産的だと一蹴されると思っていたから。寡黙な彼なら仕方がない。遠回しでも「好きです」と言われるだけでも、嬉しさで体が軽くなる。

「嬉しい」

 風邪をひかぬよう、恋人を抱きしめながら扉を潜り直して角を寄せ、今度は大胆に大きく尖った耳へとすり寄せるだけで、賢人から黄色い声が上がる。
 アウラにとっては角をすり寄せる行為は「愛情表現」。他種族と結ばれることは少ない民族だが、その場合は相手のや耳へと愛撫を行う。まるで犬が飼い主に懐いているような図ではあるが、2人とも暁の中で1、2を争う高身長の男である。目立たないわけがない。部屋の入り口ですりすりと何度も耳、そして鼻同士も擦り合わせては無邪気な犬歯を見せては幸せそうに笑い、耳の形を確かめるように牙を立てる。

「もうやめ……」
「でも、エレゼン式の愛情表現がまだだけど?」
「人前ではおやめください」
「2人きりならいいのか?」
「そ、そういうわけでは……」

 急に出て行ったと思えば、イチャつきながらも戻ってくれば誰だって驚く。何が起こっているかわからない隊士たちは「密着して、幸せそうに頬擦りをしている仲の良い男2人」と思われるし、アウラという種族を知るものならば「今を騒がせる英雄殿は、暁の賢人と恋人である」と捉えて祝福の拍手で迎える。
隣で無心で拍手していたヤ・シュトラであるが、急に真剣な表情になって光の戦士を真っ直ぐに見つめては、真面目な口調で問うのだ。

「まずはおめでとうね。買い物は貴方たち2人で行く? ゆっくり話すこともあるでしょう」
「いや待てヤ・シュトラ。今のこいつらを2人きりにしたら、帰ってこないかもしれねぇ」
「付き合ってすぐ手をだすなんて、サンクレッドじゃあるまいし」
「なんだとこの野郎」

+END

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22.07.29

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