えふえふ | ナノ



Dear 未来と今の君

***

Dear 私の恋人へ

好きです。これからもずっと好きです。
綺麗な貴方ことを、いつも見ています。
いつもの場所に、いつもの時間に待っています。貴方の返事と、私たちの未来がよいものでありますように。

***

「なんだこの子供の作文」

頼んでもいない朗読羞恥プレイの後、第一声がこれである。
まさか、文の読み書きすら危ういと思っていた二十歳の男から、嫌みを言われるなんて思ってもみなかった。バッツは悪そびれもなく言い放つと、言葉とは裏腹に、内容を暴いた手紙を丁寧に便箋へとしまう。

「そもそも字が読みにくいんだけど」
「お前も言えた義理かよ!」
「だってこれ、暗号文だろ……なんだこのニョロニョロしたの」
「こ、こっちの言葉で書き直すの難しいんだよ!!」

あきれた表情で「読むのに疲れた」と顔に出されるのは失礼である。指に引っ掻けているだけになった可愛らしいピンク色の封筒は、そのまま風に運ばれてしまいそうである。
場所も悪い。ここはアレクサンドリアの町並みの、屋根の上なのだ。
何が悲しくて男二人でロマンチックな夕日を堪能しているのかは以下割愛である。
飛んでいく前に奪い取ると、顔を除かせた手紙を素早く便箋へと隠す。だらけた表情で眺めていたバッツではあるが、ジタンに睨み付けられて渋々口を開いた。

「で、これなんだ?」
「……ラブレター」
「恋文! 誰に!」
「……クジャに」
「現在の恋人に! なんで!」
「いちいちうるせえな!!」

悪意しかない茶化し方をするこの男が親友である旨を忘れ、ぶん殴ってやりたい。
このまま大乱闘にもつれ込むのはバカらしいと、震える拳を押さえ付け、本題に入るとしよう。

「ラブレターってどう書けっていうんだよ!」

手紙で想いを伝えるなんて、そんな遠回しなことは性に合わない。第一見てくれたか、ちゃんと伝わったかがわからないではないか。
いつも直球に、想いのままに、心と目を向き合わせてナンパをするのがモットーである。
だが、そんな性格を知って尚、我が儘で愛しい人は言ってきたのだ。

『ラブレターを書いてもらおうか』

一体何を考えていたのかまではわからないが、ろくでもないのはにやけた顔からわかった。
勿論、理由を聞き返したし、自分の想いは伝えた。だが一度言い出したら曲げない、妥協しない、それがクジャである。
いくら気分転換をしたところで、愛を確かめあったところで、ふとした拍子に口にするのだ。『ラブレター、楽しみにしてる』と。
ここまで念を押されてしまっては仕方がない。『お前が惚れ直すもの、書いてやるぜ!』と胸を叩いたのだが、この始末である。
筆を取ったのはいいが、頭に浮かぶのはパズルのような単語のピースばかり。言葉だとすぐに文章とはなり想いを紡げるのだが、箇条書きの文字たちが、繋がり、離れて消えていく。

(こりゃ、ちゃんと考えねえと)

何を伝えたいかわからない文字で、想いを伝えきれず、呆れられるのも悔しい。
覗きこんでくる4つの目を憚ることなく、たどたどしくペンを握り直した。

(4つ?)

「あれ、クジャ」
「やぁお二人さん。デートかい?」
「コイツの恋人はお前だろ」
「言葉の綾だよ。冗談が通じないね」

いつの間にか、バッツの頭ごなしに覗きこんで来ているクジャの影があるではないか。
よもや、本人の目の前だと、ここまで集中力が散漫になるとは思わなかった。

「何しにきたんだよ」
「悪ガキがちゃんと宿題出来てるかなって」
「ほっとけ」

ただ冷やかしにきたとなれば、早々にご退場願いたい。手で追い払う仕草を見せるが、華麗なスルーで座りこむ。すっかり居座る気でバッツと戯れ始めるから、もう放っておくことにした。
さて、中途半端に書きなぐられた紙面に戻るとしよう。言葉は相手がいないと成立しないのに、文章とは不思議なものだ。
相手のことを思い、よりよい言葉を選び、間違いがないか読み直し、と冷静になる時間が多すぎる。
しばらく何も言わないな、と思っていたら、急に上品に息を吹き出した。大声で笑うわけではないのだが、どうやら笑いが止まらないらしい。

「何この子供の考えた文章」
「やっぱりコイツ文才ないよな」
「ほっとけ!!」
「どうだい? 何も考えずに言葉にするのと、考えて文字にするのは全然違うだろう?」

まるで先生のようなことを言うな、それが感想だった。
嫌みでもなんでもない声音は、無知な弟をからかっているわけでもない。だが、今更兄らしく、何か教えてくれたところで違和感しかないのだ。
警戒心を露にしながら、手慣れた筆跡でサインを書けば、そこだけ誉められた。
横にいる恋人から、どんな返事がもらえるか、気になった。おかしな話ではあるが、せっかくなら容赦のない感想がほしい。
便箋も封筒も、内容も、短文を考えるだけで四苦八苦する無様な姿も見られた後ではあるが、緊張してしまうが不思議である。

「ほら」

今更色気もなにもない。精一杯顔を隠して手渡すが、なかなか受け取らない。
一体どうしたのだろうか。ゆっくり恐る恐る視線を向けると、邪気もなく笑っていた。

「もう満足した。今読んだし」
「は?」
「ボクへの愛の言葉を模索して、一日中悩む君が見たかっただけ」
「内容は!?」
「そこも重要だけど」

これはバカにされているのだろうか。それとも本気なのだろうか。困惑していると、便箋が拐われていき、彼の上着の中へ。
動作の一部始終を見つめていたのは、ただ思考が止まっていたためだ。別に、無駄のない綺麗な動きに見とれていたわけではない。決して。

「返事はまた今度持ってくる」
「お前も書くのか?」
「うん。君も頑張ったから」

ぱちくりと丸い目を瞬かせると、艶やかにウインク。彼の書く字は手本のように達筆であるし、目に見える何より彼の想いがほしくなった。

「ね。形に残る想いって、素敵だろう?」

確かに、貪欲な人間は行動や言葉の一方だけじゃ、満足できなくなる。一を得ると十が、十を得ると百が欲しくなるのは、なんとま浅ましいことか。
何が嘘か真かわからないから、少しでも多くの証拠が、表現がほしい。
いや、そんなことはどうでもいいのだ。彼の、珍しく機嫌のよい満面の笑みが、眩しかった。

「……うん。お前の想い、欲しい」
「よく言えました」

子供をあやす、優しい言葉が懐かしく。どうしようもなく涙腺が潤み、咄嗟に頷くしかできなかった。

***
この手紙を読む頃には、貴方は僕の隣にいるでしょう。
もし、隣にいないとしても心はいつも傍にいます。
例え傍にいなくても、けして不安にならないでください。

いつか、形あるものはなくなってしまうから。
だけども、有るべきものがなくなったほうが、君は心を痛めてくれるでしょう。だから手紙を造りました。

「いつか」まで、ずっと傍にありますように。

***

「俺も書いてみるかなぁ」
「誰に渡すんだよ」
「んー、クジャ?」
「ボクに? なんで?」
「添削してくれるかなって」
「ボクは文字の先生じゃないよ」
「おいバッツ。遠回しに俺のことバカにしてるだろ」

+

++++
ジタクジャで「ラブレターとかどう書けばいいんだよ!」とかどうでしょう。

20.2.7

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