えふえふ | ナノ



好きにさせる呪文

※皇帝女体化男装
※女性恐怖症フリオ
※フリオ←皇帝
※乙女警報
※口調も違います




 フリオニールが同性愛者だという噂は、敵の間にも噂になっていた。
女が苦手というのは、対峙した魔女と雲から聞いていた。露骨に接触を避けて、視線を合わせないようにする。恥ずかしいのかと思えば、顔が青ざめている為に違うとわかる。どちらかというと恐怖だろう。
 男相手ではどうということはなく、普通の態度を取る。彼の口からはっきり「俺は女性が苦手なんだ」と離しているのも聞いた。
 男と恋愛をしている所を見た事はないが、恋愛に興味を持つ年頃の青年の姿である。本人の与り知らぬところで、皆の間に広まっていた。
 かの暴君は落胆した。
 金色の髑髏を模した鎧と、刺々しい紫のマントを身につけている男と言われているが、これでも絶世の美女……そう、女なのである。
異世界には男が多い。女だと舐められぬよう男装をしていたが、ますます正体を晒すわけにはいかないではないか。
 元よりこちらの世界に来てから、胸は邪魔にならないようサラシで縛ってはいたが、彼に見られてはマズい。まだ遠くからしか対面していないし、長いもみあげで胸は隠れていた。性別は気付かれていないと信じよう。
 次に化粧を落とそうと考え、止めた。死神も男ながら化粧をしているし、っ彼に見られている以上は美しさを保ちたい。唇に紅を引き、頬にチークをつけてほんのり赤く染めた。
 最後に言葉遣いを変えた。女言葉をやめ、威厳のある王の口調に変えた。声を低くしようとも考えたが、無理をすればバレてしまう。断念せざるをえない。
 女としての美貌には自信が有る。どんな男でも虜に出来ると自負していた。しかし女が苦手となるとどうしようもない。 自慢の胸を見つめて唇を噛み締めた。
それでも決めたのだ。あの漢らしく、不屈の心と獣の牙を持つ優しい義士に惹かれてしまったから。必ず、あの漢の心をつかむと誓った。
 隠してはいるが、少しでも彼に褒められたい。そう思い今日も丁寧に髪を洗う。上から下まで、手で丁寧に下ろしては整えていき満足に笑った。
髪は女の命だ。これだけは譲れない。長くて癖のある髪は、彼とお揃いで親近感も湧く。だからこそ、手入れを欠かした日はなかった。
乱れないようにと整えて洗い、泡を流す。金色に輝く自慢の髪を見て、彼の面影を追いかける。
 いつか、彼がこの髪に触れる日が来るだろうか。頭を撫でられ、綺麗だと褒められて匂いを嗅がれ、キスをされ。そんな乙女な妄想だけが柄にもなく頭をよぎる。
 彼の髪にも触ってみたい。どんな触り心地なんだろう、筋肉はどれほど硬いのだろう、どんな匂いがするのだろう。
 仲間に甘いところがあるし、触れる手は初で優しいだろう。初体験もキスもまだだといい。初めてを奪うのは、勿論私だ。心に決めて微笑むと、髪を束ねて後ろでまとめる。
 雰囲気を変えれば意識をしてくれるだろうか。気付いてくれるだろうか。長い方がいいだろうか、その逆か。
悶々と頭に浮かんでは消える想いが、彼女を興奮させる。こんなにも一人の男に骨抜きにされたことはなかったが、悪くない。
身も心もさっぱりとした気持ちで風呂から上がると、バスローブを身にまとう。
 いつか彼が振り向いてくれる、いやくるようにしてみせる。

 神の暴走により、秩序の戦士と共闘をする事になったある日、胸を強く縛ることにした。理由は彼に近づく事が増えて、性別がバレる事を防止する為である。
 圧迫された胸は苦しいが、男の胸筋に見えなくもない。肺が抑え込まれて息をつくが、彼が振り返るのなら耐えられないことはない。それでも苦しい、と胸を押さえて息をついていると後ろから鎧の鳴る音が駆けてきた。
 振り返って赤面した。今丁度考えていた、彼が走ってきたのだから。
「皇帝」
「なに……いや、なんだ」
 咳払いをして誤摩化すと、男言葉を作って鼻を鳴らす。
 全身を舐めるように見られては、気が引けてしまう。思わず後ずさると真剣な顔で首を傾げる姿が見えた。一体なにを考えているのだろうか、わからない。
「いつもと、様子が違うな」
「そう、か。……綺麗、か?」
「綺麗?」
「いや、なんでもない」
 今ネタばらしをしては台無しである。
ムっとしながらも目線を逸らせば、唸る声だけが聞こえる。
「……大丈夫か」
「なに、がだ」
「胸を押さえている。苦しい、のか?」
 ドキリ、と心臓が高鳴った。彼がゆっくりと近づいてくる、それだけでも心が締め付けられて動悸が激しくなる。
ゆっくりと手を重ねられて、指を絡めとられる。相手は何も考えていないが、触覚全てが彼の温もりを掴むように研ぎすまされる。
「あ、う……」
「そんなに苦しいのか。大丈夫か?」
 胸に伸びてきた手を払おうとすれば、それより先に彼の手がゆっくりと離れていく。まるでガラス細工に触れるかのような扱いに、こちらが戸惑ってしまうくらいだ。
「今から、移動するらしい。行けるか?」
「私を誰だと……」
「なら、一緒に行こう。そして向こうで休もう」
差し出された無骨な手を取る勇気が、皇帝にはなかった。緊張して、心臓が煩くて、思わず体を引いてしまった。
 怪訝な顔をされても仕方がない。彼に悪気なんてないのだから、不審な行動をされたら訝しむに決まっている。
「……すまない、な」
「いや、気にしてない。じゃあ俺は先に行くから」
 嫌だったわけではない、むしろ一緒にいたかった。それでも、心も体も固まってしまい、動けなかった。
慌てて追いかけるが、彼は振り返ってくれない。急いではいるが、ヒールの高い靴が邪魔をする。
 距離が開いて、そう危惧した所で唐突に彼が振り返った。
気を使ってくれているのはわかる。こちらを見ながら待っていてくれているのだ。しかし、手が届く距離になれば離れてしまう。それを繰り返し。
 きっと避けられた、と気にしているのだろう。
そうではない、と伝えたいが息切れをしていてうまく言葉にできない。足場のわるい岩肌も体力を奪って2人の関係を嘲笑う。
 このままではいけない。魔力で浮く事も出来るが、そうすれば独りでも大丈夫だと思われて、先に行ってしまうかもしれない。
歩き慣れない道を、たどたどしく進んでいく。道へ体力へ彼へ、気が散っていたのがよくなかったのだろう。突然世界が傾いた。
 高いヒールをはいていたのが仇となった。倒れる。衝撃に備えて目を瞑ったが、痛みはいつまでたってもこない。代わりに強く横に引かれた。
「きゃっ」
 バランスを崩して倒れ込めば、彼の腕の中。しっかりと背中にまで腕を回されて顔が真っ赤になる。
「逃げるな」
 耳元に響く甘い命令。強く抱きしめられて身動きが取れない。今抵抗してしまえば、謝罪をされて自由にされてしまうかもしれない。
それだけはごめんだった。ずっと一緒にいたかった。体を寄せて必死にマントを掴むと頭を優しく滑る手。
 ゴツゴツしていて、筋張っていて、逞しい男の手。心が絆されてしまいすり寄ると、突然突き飛ばされた。
「……え?」
「あ、いや……その、すまない。先を急ごう」
 もう、目線も合わせてもらえなかった。
まるで腫れ物を扱うように、距離を置くようにされたら悲しくないわけがない。
もしかして、今抱き合った際に性別がばれてしまったのだろうか。
確かめたいが、確かめたくない。
女々しい自分が嫌になり、頭の中を怒りが渦巻き始める。
 私を誰だと思っている。大国パラメキアの皇帝だ。全ての世界を支配する者だ。それなのに、こんな虫けら1人手に入れられないなど、あってはならない。
全てが私に従わなければいけないはずなのに、何故この男は意思に背く。
もしかして、やっぱり。
「私が……実は、女だから。だから避けているの?」
 つい口が開いてしまった。
 突然告げてしまった告白は囁くほどだったが、彼の耳にも聞こえてしまったのか。丸くなる目から逃げるように、目線を逸らして唇を噛み締めた。
「今のは嘘……た、戯れだ! 忘れろ!」
 続きを期待して待っているのはわかる。だがこれ以上は言う勇気がなかった。
余計な事を言う前に逃げよう。そう魔力を込めたときだった。
「お前が女だって、知っている」
 よく通る男前で、意思のはっきりした声が心のドアと叩く。ドクン、ドクン。心臓と扉が定期的な音をたて続ける。
ゆっくりと振り返れば、真剣な彼の血色のいい赤い顔。冗談を言う人ではないし、カマをかけられるほど利口な戦士ではない。錆びた機会の歯車がゆっくりと動いて、正面を向き直る。つい胸の前で手を組んで隠してしまったが、それが逆に彼の興味を引いてしまったようだ。
胸を見つめて喉を鳴らすのが聞こえて、恥ずかしくなってきた。
「そう……なの?」
「元の世界で、女が皇帝をしていると聞いた。それに、こんなに綺麗なんだ。間違えるはずないだろ」
 褒められて悪い気がする者はいない。生娘のように染まる頬を隠すように、背中を向けると腕が回された。離さない、というように。
「どうして男のフリをしていたんだ?」
「こちらには男が多いし……お前に、嫌われたくなかったの」
「え?」
「男が、好き……でしょ?」
 答えは聞きたい。だが聞きたくない。上目遣いで彼の様子を伺っていると、恥ずかしそうに頬をかく姿が映った。目線を泳がせながら「はは」と乾いた笑いを浮かべているのは、言いにくいことがあるということだ。
怖くなってもういい、と伝えようとすると静止の声と、強い力が細い腕を引き寄せた。
「女性には苦手意識があるが、同性愛者ではない、かな」
「苦手……」
「今まで接する機会がなかったから、どうしていいかわからないんだよ」
 「特に、王族になると」という声はしっかりと皇帝の耳にも届いていた。
 もしかしなくても、自惚れてもいいのだろうか。息苦しくなってきた。
無性に、手が繋ぎたくなった。ゆっくりと白い指を骨張った手の甲へと滑らせると、すぐに指を取られて恋人繋ぎになる。
驚いて手を引こうとするが、真剣な金色の瞳に掴まってしまっては動けない。言葉にならない声を上げていると、真剣な面持ちで告げられた。
「お前の事が、好きだ。皇帝」
 真っ直ぐな告白に、鼓膜が震える。
今度は金縛りにでもあったかのように、足が動かなくなってしまった。言葉もでなくて口の開閉を繰り返していると、微笑む彼が見えた。
自信満々な笑顔からは、答えなんてもうわかっていると強気な声すら聞こえてくる。
「まだ、女性の事は全然わからないけど……お前が教えてくれるんだろ?」
「ふふ、私が教えるからには、ちゃんと覚えてもらうわ。私専用の接し方を、ね」
「例えば」
「1つ。私の言う事は絶対。1つ。私の事を第一に考える。1つ。浮気はしない」
「我がままだな」
「……できない?」
 胸を誇張しながら上目遣いをすると、頬をかきながら視線を泳がせる彼。告白という自信を得た今、若い男がただ照れているようにしか見えない。
安心がこれだけ安堵できるものだなんて知らなかった。クスクスと上品に笑いながら唇を誇張すると、興奮を誤摩化す咳払いが聞こえた。
「あと、2人きりの時は皇帝って呼んだら許さない」
「ダメ、か?」
「マティウス、じゃないと返事しない」
「なら俺もフリオニールって呼んでくれないと、言う事は聞かないからな」
「私にたてつこうって言うの!?」
 いつも歯向かってくるのはこの青年だった。
元の世界でも、この世界でも遠慮なく向かってきては牙を剥く。決して、想い通りにはいかない。
だが、それが段々快感へと変わってきてしまった。対抗心が心地よく、いてはならない対等の存在に高揚感を覚える。
彼しかふさわしい者はいない、そうまで考えてしまう。これが運命というか宿命というか、逃れられない糸で繋がれているのはわかっていた。
「さあ、手始めにキスをしなさい」
「……」
「ねえ」
「……」
「フリオ、ニール……」
「仰せのままに、マティウス陛下」
 跪いて、手を取られて手袋を取り去られる。外界に触れた手は寒さに震えるが、温かい彼の手が包み込んでくれた。忠誠を誓うように手の甲にキスをされて、指先へと舌が這い寄る。
 生暖かい口内が心地よくて、絡み付く唾液が生々しくて、息が荒くなって足を擦り合わせてしまう。やめてと訴えても彼は狗のようにじゃれるのを止めない。
指の間を、腹を、爪の中を。蠢く舌の感触を必死で拾ってしまい、艶声すら上がってしまった。
「もうやめ……フリオ……あっ」
「はい、陛下」
「その、陛下も、やだ……」
「これも?」
「たった一人の、私と対等な恋人だから……マティウスでいいのぉ……」
「マティウス……可愛い……」
 深く口づけられて、何も考えられなくなった。舌を吸われて歯茎をなぞっては唾液を絡ませる。力を失った肢体は地面へと倒れ込み、岩肌が服越しに食い込むのがわかる。だが、すぐさま体を抱き上げられてマントでくるまれた。
酸素が足りなくなってぼんやりしてきたところで、やっと解放されたのはいいが、彼の目は雄のものだった。太陽に背く、影の差した彼の表情は、心のようにわからない。
「今夜、シたい」
「えっ」
「ずっと、お前を見ているだけで我慢してきたんだ。もう待ちきれない」
 それでも彼の言葉は真っ直ぐだった。
獣のような荒々しさはあるが、待ての躾は出来ている。今にも噛み付いてきそうだが涎を垂らして待っているだけである。
「でも、お前が嫌だって言うならいいさ」
 はち切れんばかりの想いを向けてくるくせに、押しには弱い。力のない笑いに、力強い欲望。こちらが赤面してしまう。
「もっとがっついていいのに……バカ……」
「何か言ったか?」
「童貞は遠慮しなくていい、ってこと!」
「えっと……実は、仲間に娼館に連れて行ってもらったことが……」
 予想外の答えに目が点になってしまった。一体何を言われたかも理解出来ない。言い辛そうにはしているが、はっきりと聞こえてしまった告白に、裏切られた気にすらなってしまう。
「なら、私は2人目……」
「そういう意味じゃないだろ! 好きな人とは初めてだし!」
 ずるい。そんな事を言われてしまっては、恋に恋する女では勝ち目がない。顔から火が出て力が抜けた所で、勝ち誇ったような安堵したような笑顔で頭をかいている彼が見えた。
 笑顔も、鋭い眼光も殺意も、戦う姿も全て好きだ。
もう言い訳をしない。彼の事が大好きだ、敵で身分不相応な男だが、愛してしまったからにはしょうがない。気持ちに嘘をつくのもバカらしくなってしまった。
「ならば、今夜は覚えてなさい」
「え」
「私の方がイイことを、身を以て教えてあげる……」
 小悪魔の微笑みに、唇をなぞる舌。大人の女の色気にたじろぐ青年の顔を見ていたら気も晴れた。
 微笑みながら手を取ると、ゆっくりと握り返してくれる。
「じゃあ、目的地へと急ぐとしよう。初めてが外で、なんて許さないから」
 冗談を真に受ける姿も可愛くて愛おしい。腰に回された手と、必死にリードしようとする男気。
お言葉に甘えておこう、抱き上げるように命令すれば易々と抱き上げられてしまった。
 従順で、反抗的な狗へ。持ちきれないほどの重い愛を君に。

++++
男装なのにかなり乙女に

17.1.26


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