えふえふ | ナノ



堕天使の誘惑

※オメガバ表現あり
※「孤高な王の愛情表現」の番外編




 この世界は実に不可思議だ。
2人の神様に、2つの陣営、対になる戦士。表と裏の両極端の世界に、作られたものだということを再確認する。
 そしてもう1つ。対になる戦士はツガイという両極端の存在となりうるのだという噂を耳にした。
 男でも、ツガイならば妊娠をさせることが出来ると知りクラウドは紅潮した。
あの憧れの英雄に触れられる、子を授かる事ができる。
憧れの人間を孕ませる事ができる、それだけで痛いほど雄が興奮を始めて待ちきれないと涎を流し始める。しかし現実は逆になってしまうだろう。
孕むのは痛いのかもしれない。だがそれでも男同士の不毛な一方通行で終わるよりはいい。
義士に冷淡な命令を浴びせながらも、大きなお腹を支える暴君。盗賊に寄り添い、不満を言いながらも慈しんで腹を撫でる死神。2人の姿を見ていて決心が固まった。
 今からセフィロスに会いにいこう。そう決心して、巨大な剣を強く握った。
 美しい彼は、宿命の地の元にいた。光りを見上げている顔は涼しげで、何か物思いに耽っている。ぼんやりとした淡い光りを宿していた。ライフストリーム野中で、光りの粒子と共に消えてしまいそうな儚い銀の髪に、筋肉は付いていながらも細い体。緑と白の中、黒いコートだけが彼の存在と確かにしていた。
見上げたまま人形のように動かない彼の様子を伺いながら、ゆっくりと近づいてみる。気配には恐ろしいくらいに聡いのに、今日は全く動かない。忍び足で手が届く距離にまで近づいてしまった。

「セフィロ……」

 名前を呼ぶよりも早かった。銀の髪を踊らせながら、振り返ったのは白い肌。魔洸の光りを帯びた翠の目に捕えられたと思えば、熱い吐息が聞こえた。

「クラウド……か」

 濡れた目は扇情的で、欲を映していた。慌てて体を離そうとすれば、腕を掴まれて抱き寄せられる。
悩ましい表情にいちいち心臓が高鳴ってしまう。彼は無意識だろうが、同性すら惑わせる色香が溢れてくるのだ。
 元より英雄として人々を惹き付けて止まなかったのだ。その人を惹き付ける力が強まるとなると最早純粋な者には毒とも言えよう。

「どう、したんだ」
「少し、体調が悪いらしい」
「珍しい事もあるんだな」
「私もそう思う」

  強気な発言ではあるが、弱っているのは見てわかる。肩口から顔を上げようとしないのは、もしかして力を込める事すら困難な証拠ではないだろうか。慌てて肩を掴むが、驚くほど弱々しく感じた。

「詳しい者に見てもらうか」
「いい」
「なんで」
「しばらく、こうしていたい。お前がいると幾分かマシになる。」

 熱い息で、首をくすぐるのはどうにかしてほしい。しかし乱暴に引きはがすことは恋心が許さなかった。大きいはずの背中を抱きしめると、ゆっくりと擦ってみる。どうにか腕の中に収まろうと丸くなる体が愛おしく、そして熱い。

「やっぱり見てもらった方がいいんじゃないか?」
「こうしている方が楽だ」
「お前……それは誘っているのか」
「何が、だ?」

 各も天然というものは恐ろしい。無意識に肌を寄せて煽るように首へと息を吹きかける。熱が出ているのではないかと心配になるほど熱い体と吐息と視線に、心配になるがそれよりも火照る体が恨めしい。
 愛しい存在が傍にいる。抱き合っている。それだけで体が欲して雄も猛ってしまった。

「セフィロス……」
「なん、だ」
「やはり戻ろう」
「いいだろう。もうしばらく、このままで」
「……勃った」
「は」

 唐突にこんなことを言われたら誰でも呆れて物も言えなくなるだろう。しかし正直に言わなければ離れてもくれないだろう。想像通りの呆れた声と、少し離れた熱。引かれたかと思いきや、視線が下半身へと集まり白い頬が赤く染まったのが見えた。この反応は、もしや。

「……大きいな」
「やめろ。素直に感想を言わないでくれ」
「入るだろうか……」
「だから、セフィ……、え? 今なんて」
「私は経験がないからな」

 まさか誘ってくるとは思わなかった。物欲しそうな顔で、服越しに触れてくる姿に冷たい物を感じた。心地のよい冷たさの嵐の風が頬を撫でるが、きっと風だけのせいじゃない。周囲の緑に負けないくらい、赤くなる顔に彼も微笑んだ。

「……老若男女に人気があると思ってた」
「全ての相手ができるわけがない」
「そういうことじゃなくて」

 面妖に笑う彼に頬を赤く染めると「初々しいな」と笑われてしまった。彼の前では恰好を付けたいというのが男心ではあるが、どうも恰好がつかない。
姿を見止めるだけで頬が緩んでしまうし、美しく甘い魔洸の瞳を真っ直ぐ見つめることもできない。銀の美しい髪は女と見間違うほどであるし、近づくと甘い匂いに頭もくらむ。
 これが、花に誘われる虫の感情なのだろうか。
煩い心臓を抑えたが聞こえてしまったようだ。微笑みを浮かべる彼の綺麗な睫毛が震えている。

「クラウド」
「なんだ」
「私のことは好きか」
「……急に、なんだ」
「気になっただけだ」

 何を言いたいかはわからないが、答えなんて最初から決まっている。おとなしく首を縦にふると、一層笑顔を深くする彼が綺麗で。

「セフィロス。俺とつき合ってくれ」

 真剣に言ったが、笑われてしまった。口を覆い上品にクスクス笑う姿にまた惹かれてしまい、鼻の下が伸びてしまう。
 元の世界では、名を知らぬ者がいないほどの有名な英雄様である。元々手の届かない存在で、遠くから眺めているしかなかった。それが認めてもらえ、逆に手を差し伸べてもらえるようになった。それだけでも大きな進歩である。
 白い手が、頬を優しく包み撫でる。目を閉じて柔らかい感触を拾おうとすれば、ゆっくりと指が髪の間を滑り始めた。
 そんなに触り心地のいい髪だとは思っていない。手入れもサボっているし、好き勝手跳ねまわる毛である。チョコボや馬と変わらないだろう。
それでも彼は高級な糸を触るように、丁寧に触ってくれる。何度も何度も、子供をあやす手に、思わず不機嫌になってしまう。気持ちが悪いわけではない。誤摩化されていると感じたから。

「どうした」
「答えを聞いていない」
「何のだ」
「告白の、答え」
「告白……ああ、先程の」

 この顔はわざとだ。悪戯が成功した子供の笑顔にまた膨れっ面になる。
「誤摩化すなよ」と睨めば相変わらず上品な笑い声。からかわれているようで、年の差と余裕を見せつけられているようで寂しくなる。
 近づけたようで、まだ遠い距離。それがもどかしい。
 もっと近づきたい、一緒にいたい、恋人になりたい。背中を押してくる急いた感情たちにバランスを崩して飛びつけば、大きな腕に抱きとめられてしまった。

「どうした。お前も体調が悪いのか」
「いや、そうじゃない」
「……熱いぞ」
「アンタ、何をして……」
「体温を測っただけだ」

 額に同じものをくっつけて、目を閉じる姿が美しい。ただそれだけしか言えなかった。長い睫毛が震えて、形のよい眉が下がっている。この金髪が邪魔でうまく測れないらしい。
 はねっかえりの金髪と正反対の素直な銀髪が、どけようとする指に逆らわず額を露わにする。コツン、と恋人のように合わさった額と、交わる熱い吐息。心臓も大きく高鳴り、耳元で悪魔が囁く。「答えなんて待ってられない」と。

「セフィロス……」
「なんだ、んっ」

 体の疼きも限界だった。熱い唇を乱暴に奪うと角度を変えて貪り尽くす。
もう、お互いの体温がわからないくらいに熱かった。一つの生き物になってしまったかのように熱を帯びて、溶け合っていた。抵抗しないのは了承してくれているからだろうか。細い髪をかき抱くと、鼻から抜けるような声が聞こえる。
 堕ちた天使に誘われているのはわかる。それでも一緒に堕ちようと決めたのは他ならぬ自分自身だ。
抱きしめて、離さないように閉じこめて、赤く染まった耳へと唇を寄せた。「お前が好きだ」と何度も、刷り込むように囁く。
 彼はしつこいとも、嫌がる素振りも見せない。クスクス笑いながら、想定内だというように余裕を崩さない。それがまた、違いを見せられているようで腹がたつ。でも力のない体を見ていては、怒る気すら起きない。
 一体どうしてしまったのだろうか。体の調子まではわからないが、顔色を見ればおかしいのはわかる。無理をしてつき合わせてしまった罪悪感に駆られてしまう。

「部屋に行くぞ」
「どちらの」
「お前の」
「告白してすぐに、か。大胆だな」
「なっ! そういう意味じゃない」

 からかう麗人の顔を見ていてはこれ以上は何も言えなくなる。
やましい気持ちがなかったとなれば嘘になる。だが口にされるまでは頭の隅に追いやられていた言葉ではある。
 いくら真っ赤になって弁明しても、ただの照れ隠しである。大人の余裕で笑われてしまってはこれ以上何も言えなくなる。

「そんなこと、全く考えてなかった」
「全く、か?」
「ああ」
「少しは考えていてもらいたかったがな」

 堕天使の誘惑は、五感から直接脳を刺激する。もう逃げられない。
自らその細く男らしい筋肉のついた体を抱き上げると、黙って岐路につく。

「待て。どこへ行く」
「俺の部屋」
「私の、ではなく」
「お持ち帰りだ」

 微笑む顔がまた綺麗で、目を合わせる余裕なんてなかった。
今すぐこの羽を折ってでも閉じこめたい。腕の中でゆっくりと眠る姿を眺めていたい。
 子供を孕ませたい。

「いいぞ。私も準備はできた」
「準備?」
「子を成す準備だ」

 心臓が音を立てて跳ねた。
慈しむように腹を撫でる姿に汗が止らない。一体何を言っているのだろうか。腹を、目を、胸を、足を、視線を映していけばからかう笑みが見える。

「初々しいな」
「お前が、変な事を言うから」
「私が知らないと思ったか。この世界の理を、お前が羨望の目で子を成した者を見ていた事を」

 まったく、彼には敵わない。
最初からバレていたのなら隠す必要もなかったのかもしれない。隠しているつもりはなかったが、恥ずかしかったというのはある。
彼の白い手が頬を撫でる度に、気持ちが落ち着いてくるのがわかる。赦されていると思ってしまう。

「なら、俺の子を生んでくれるのか」
「それはお前次第だろう」
「どういう意味だ」
「お前に覚悟さえ有れば、私は何も言わない」

 優しい手と言葉に、何度救われればいいのだろう。涙はとうに枯れ果て、肯定の言葉しか出てこない。
子供の責任や、命を守る覚悟は出来ていないけども。この手を離さない覚悟だけはもうずっと前から出来ている。

+END

++++
17.11.19


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