えふえふ | ナノ



執着心

※ジタ皇、フリクジャ
※皇帝&クジャ女体化


コツ、コツと優雅にヒールが大理石を打つ。後をヒョコヒョコと小さな影が追う。眩しい金色と煩わしい金に、目を細めてフリオニールはため息をつく。
一体いつからだろうか。皇帝が別の人間と行動を共にしているのを見るのは。アルティミシアなら前々から策謀を巡らせる為に話をしているのは見ていたが、彼女は心配もなにもない。
だが今は何故接点もないジタンなのだろうか。彼が裏切ったとも思えないし、彼女は気に入らない人物など傍に置かないだろう。会話も何もないが、時折後ろへと視線を向けているのはわかる。胸が痛んできた。

「おい」
「ん?」
「腹が減ったぞ」
「おう。何が食べたい?」
「肉だ。新鮮なものをもってこい」
「わかりました、女王様」

跪き手を取ると、キザにも甲へとキスをする「虫けらが! 気安く触るな!」いつもなら怒声とともに火の玉が飛んできてもおかしくはない。だが彼女は甘んじて受け入れ、長い睫毛で縁取られた目を閉じた。
走り去った彼の背中を見つめて、近くの玉座へと深く座り込む。重い息を着くと、視線を泳がせ始めて思わず壁へと滑り込んでしまった。
彼らは恋人同士なのであろうか。
1人で考えても答えなんて出るわけはなかった。モヤモヤとした胸中を抱えながらも見守っていると、憂いを帯びた表情が見えた。
彼がいなくなったから悲しそうなのだろうか、自問自答を繰り返すのは無駄だとわかっていてもやめられない。
億劫に玉座に座り込む彼女だけをずっと見つめていた。

しばらくなのだろうか、何時間か経っていたのだろうか。彼女だけを見つめて時間が麻痺していてわからなかった。楽しそうに彼が背中の革袋一杯に食材を詰めて帰ってきた。
玉座に座り込む王女は動かない。構わずに綺麗な布を広げて上に食材を置いていく彼は楽しそうだった。

「どれが食べたい?」
「肉だと言っている」
「了解。ちょっと待ってろ」

肉はもう羽や毛をとり、焼けば食べられる状態だった。きっと生臭いものを目の前で弄るなどすれば、彼女は怒り狂う。女性に対しての配慮を忘れない彼に感心しながらも嫉妬心は収まらない。睨みつけるように壁から見つめていると、視線を感じた。
慌てて体を引いたが、2人からではないらしい。気のせいだったのだろうか。

「それを食べたらお礼にデートしてくれ」
「私に見返りを求めるなどいい度胸だ」
「ダメか」
「いいだろう。特別に慈悲を与えてやる」

まさか了承されるとは思ってもなく、空いた口が塞がらない。
唖然として2人を見ていると、喜ぶジタンに鼻を鳴らしながらも満更ではない皇帝。
嬉しそうな彼女を見ているのは喜ばしいことなのだが、今は胸が痛い。これ以上見ていられなかった。壁を背に、力の抜けた体が地面までずれ落ちた。
しばらく放心していると横からマントを引っ張られる感覚がして、思わず横を見ると俯いた長い銀髪が見えた。

「クジャ?」
「……ジタンが盗られた」

泣きそうな表情の女性が見えたら誰だって困惑する。
徐々に近づいてくる巨乳に慌てながらも、嗚咽すらあげる彼女を引きはがすことなんてできない。
怒りっぽいが寂しがり屋なのは聞いている。頭を撫でて、怖ず怖ずと背中へと手を回せば、拒絶も怒りもこなかった。
きっと、誰だってよかったのだろう。近くにいたからすがりついた、彼女にとってその程度の行動だったのかもしれない。それでも彼にとっては大問題である。女性慣れをしていないからこそ、こんな一目の付きやすい場所で抱き合うなど、恥ずかしくて死にそうだ。
しばらく泣き続ける彼女を抱きしめていると、徐々にすがりつく力が弱くなる。落ち着いたのかと思えば、か細い声が聞こえてきた。

「君ってなんだか安心する」
「そう、なのか?」
「よくわからないけど、お母さんみたい」
「お前の方が年上なんだけどな」
「ねえ、しばらくこのままでも、いい?」

甘えた声で言われたら引きはがせない。子供のようでも見た目はちゃんとした成人女性だ。興奮はしてしまう。
これは浮気じゃない、そもそもまだ皇帝とはつき合ってもいない。悲しい言葉を言い聞かせると、むき出しの白い肌を抱きしめた。

「ジタン……ボクじゃ、ダメなのかな……」

弱り切った本音に思わず頭をかいてしまう。彼女はここまで彼の事を想っているのだ。兄弟を超えた、特別な感情を抱いているのはひしひしと伝わってくる。

「なあ。俺じゃ、ダメか?」

つい口から出てしまっただけの言葉だった。悲しそうな女性を見ているのは辛かった。落ち着いてほしかった、それだけだった。
驚いた青い目がが、下から真っ直ぐ見つめてくる。純粋無垢な瞳にいたたまれなくなり目を逸らすと、小さく笑うのが聞こえてきた。慌てて見れば幼い顔でクスクス笑う女性がいた。

「なぁに? 君がボクを口説くって?」
「わ、悪かったな。今のは忘れて」
「いいかもね。君も十分魅力的だよ」

予想外の言葉に顔が熱くなる。少女の顔ではない、大人の色気を振りまく女性のうっとりした表情に慌てると2人へと視線が止った。慌てすぎて忘れていた。
しかし2人の体制を見て更に慌ててしまった。ジタンが彼女を壁へと押し付け、頭上に腕をついているのだ。驚くのも無理はない。

「なあ、王様。キスしよう」
「嫌だと言っている。盛るな」
「いいじゃねえか……デートなんてしたらこんなものじゃないぜ?」

迫る彼に、顔を背ける彼女。嫌がる仕草に、もしかしてつき合ってはないのかと安堵するのもつかの間。無理矢理顎を掴むと、静かに唇が重なった。
彼女の唸り声と水音だけが広い城に反響して、イヤラしいものに聞こえてきた。
苦しくなって彼の背にしがみつく腕が、答えるように深く重なる唇が、憎らしくてたまらない。
仲間に対して憎悪の感情を抱くなんて、光の戦士失格だ。だがこの感情を抑える術を知らなかった。
しばらく続いた憎らしい光景は終わり、2人の間を透明の糸が名残惜しそうに繋ぐ。見ていられなくて視線を逸らせば、幼い少女の顔がある。小首を傾げながらも小さな体を逞しい腕の中へ寄せる姿に、少しだけ気が楽になった。
と油断したのもつかの間、いきなり唇が重なった。見えるのは長い睫毛と閉ざされた青い目。求めるように唇をついばまれ、強く吸われては誰だって驚くだろう。
呆気にとられている間に、貪るように唇を奪われてしまった。ファーストキスだから、なんて女々しい事は言わない。何よりも積極的な彼女の行動に驚かされて動けなかったのだ。


「なっ、何を!?」
「キスしたいって顔してたよ」
「いや、だって、そんな」
「もしかして、初めて?」

からかい笑う姿に悔しくなり、無理矢理肩を掴むと壁へと押し付けた。初めは目を丸くして驚いていたが、驚くのはこちらの方である。
肩幅を広く見せる服を着ているが、中の腕は細くて握ると折れてしまいそうだ。わざとらしく、痛そうな表情で目を瞑られて思わず手を離してしまった。

「君は、愚かで優しいね」

「嘘だ」とおどける彼女だが、気にしてはいられない。悲しげに笑う顔に目が釘付けになってしまっていたから。ひらひらと蝶のように舞う彼女が、まるで舞い降りた天使のようで美しく、小悪魔のように恐ろしく見えた。

「ボクの物になりなよ……悪いようにはしないよ、さあ」

腕を広げてればまるで天使の羽のように見えた。豊満な胸が揺れ、思わず谷間へと視線が吸い込まれてしまう。
ゆっくりと近づいて抱きつこうとすれば、遠くから物音。重たい物が倒れ込んだような、ドタンという鈍い音だった。2人のことをすっかりと忘れていた。慌てて視線を向けると、そこには押し倒された皇帝と、押し倒すジタンの姿が見えた。

「……好きにしろ」
「本当に? ここで抱いちまうぞ」
「構わん。ただし言う事は聞け」

見た事のない面妖で憂いを帯びた表情がジタンを見つめている。それだけで体が熱くなり、頭に血が上る勢いだ。
彼女に目を付けていたのはこちらのほうが先だ、自負はしている。それなのに横からやってきた女好きに持っていかれるのは我慢できない。
だが仲間だから、仲間だからと言い聞かせる。
それでも。

「寂しいのかい?」

横から聞こえてくる自分の心の声に、思わず息をのんだ。
後ろから抱きつかれ、肩に顎を乗せられて形のよい輪郭を、細く白い指がなぞる。誘うような吐息も今は煩わしいだけだ。思わず振り払いながら叫んでしまった。

「寂しいさ、寂しいよ! 俺はアイツの事が好きなんだ! 奪われるなんて我慢出来るわけがないだろう!!」

吐き出された本音にクジャが怯むのが見えた。それでもせき止められていた壁がなくなり、水は溢れ出すばかりだ。

「でも、それでも、ジタンを選ぶのなら……俺にはどうにもできない。諦める」

背中を向けて去っていく姿に誰も声をかけられなかった。哀愁というよりも殺意すら孕むオーラに、雄々しくたなびくマント。慌てたクジャが手を伸ばしかけたが、触れるには気が引ける。誰も寄せ付けないオーラから助けを求めるように2人へと視線を向けた。
勿論、今の怒声は抱き合っていた2人の耳にも届いている。目を丸くしてジタンを押しのける皇帝だが、フリオニールは振り返らない。皇帝の「待て」という叫びすら耳に入らないほど強い怒気をまとっていた。空しく杖が降ろされ、突然鋭い視線が振り返ってきた。
そんなに怒られても困るのだ。肩をすくめてみせると、クジャが庇うように彼を抱きしめた。

「フリオにもっと素直になればいいだろ」

ジタンの少々気の引けた声に我に返った。随分と長い間ぼんやりとしていたが、勿論視線の先は彼がいる。
無言で睨みつけると「おお怖い怖い」とクジャにおどけられた。

「俺を焚き付けて煽るにしてもやりすぎだ」

彼の名前を出すだけで眉が少し動いた。ゆっくりとした動作で睨みつけられると、さすがに肩をすくめるしかない。

「私から告白しても意味がない」
「変なこだわりだな」
「私に執着させねば意味がない。私が執着するなどあってはならぬ」
「そういうところがもう執着してるんじゃねーの」

意固地になり自らは動こうとしない姿に思わず苦笑する。
それでも、彼を思う気持ちは嫌という程伝わってくる。彼女は、彼のことが間違いなく好きなのだ。

「奴の気持ちも尊重してやると言っているのだ」

その声は感情を押し殺し、十分な本音が込められていた。揺れるマントを見つめながら、彼女は呟く。尊大で高慢な物言いだが、後悔と不安が見て取れる。

「私は間違っているのか?」

振り返り不安な表情を浮かべる皇帝なんて、皆が初めて見た。形のよい眉を下げ、答えを求めてこちらへと流し目を向ける。少し潤んでいるように見える紫の瞳は、綺麗で、そして宝石のように光っていた。

「綺麗だし、可愛いところもあるのに。勿体ないな」
「君にはボクがいるよ。あんな奴、気にする事もない」
「んー、浮気はしても、お前にゾッコンだぜ」
「知ってるさ」

後ろから抱きすくめ、首に腕を絡め合い、笑い合う兄弟以上の関係を見せられては驚きよりも羨望。
体を寄せ合い、幸せそうに笑う男女など恋人以外の何者でもない。このまま熱いキスを交わしそうになったので、思わず顔を逸らして唇を引き結ぶ。
告白さえすれば、彼ともこのような関係になれるのだろうか。それとも、嫌われてしまってもう元にすら戻れないのだろうか。暗い思想に取り憑かれて絡めとられていく。

「貴様らが羨ましいなど、思ってはいないぞ」

1人寂しさを誤摩化し、自らを抱きしめる姿には驚きを隠せない。細い体を誇張するほど強く抱きしめ、腕に力がこもっているのがわかる。泣きたいほど後悔しているのならば動けばいいのに。それでも彼女は素直になれなくて途方に暮れているのだろう。意地っ張りも考えものだ。
孤高で自分勝手で、年も食っているはずの彼女が汐らしい乙女に見えた。
こうしていても埒が空かない。立ちすくむ彼女の背中を軽く押すと、ジタンはヘラリと笑った。

「そんなに後悔してるんだったら話は早い。早く追いかけてこいよ」
「何故だ」
「引き止めて謝ればいいだろ」
「……奴は怒っているだろう」
「そんときゃ、俺に迫られたって言っとけ」

そこまで言うとやっと動き出した。少し失礼な気もするが、こうでもしないと2人は発展しないだろう。
慌てて杖を携え走りだすと、紫のマントが羽のように踊る。早く行かないと。急いた気持ちとヒールの不規則な音だけが伝わり、小さくなっていった。


「憎まれ役を買って出るのかい?」

珍しくおとなしくしていたクジャが囁く。返事の代わりに手を億劫に振ると、その場に座り込む。舞い降りるように彼女も横へ座り込む、顔を覗き込んでくる。

「たまにはこういう配役も悪くねえだろ」
「君はつくづくわからない。脇役よりも主役がいいに決まっている」
「そう言うなって。たまには脇役も悪くねえぞ?」

少し重い足取りで進む紫のマントを、優しい瞳で見つめる彼に、彼女もまた見とれていた。理解は出来ない、だが惹かれてしまったなら仕方ない。
あの2人もそういう関係なのだろうか。他人事じゃない気がして、これ以上憎まれ口を叩く気にもなれなかった。

「うまくいけばいいけどな」
「ボクはこれ以上拗らせてくれたらいいな」
「ひねくれ者め」
「君の真似だけど」

仲間のためなら、悪役だって悪くない。

++++
一行詩と言う名のお題bot( line1theme)より
「憎まれ役って素敵じゃない?」

17.4.24

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