えふえふ | ナノ



行き違いの恋の行方

※女体化百合フリマティ
※クリア後デスペラード戦前の共闘




隠さなければいけない、隠し通さなければいけない。フリオニールは震える拳強く握りしめて心に誓った。
雨上がりの湿った空気でも流れる細い金糸は眩しいくらいに輝きを放ち、風に揺れる。簡単に髪に触れる事が出来る風が憎いとまで思った。
時折花のような甘い香りが鼻孔をくすぐり思わず赤面して、地面を見る。視界の端で輝く太陽のせいで無性に暗く見える地はまるで心を映す鏡のよう。
本当の事をばれてはいけない、知られてはいけない。痛む胸を抑えながら、振り返った麗人に作り笑いを向けた。

宿敵であった皇帝と共闘するようになったのはつい最近だ。暴走した混沌の神を倒さなければこの世界が危ない。世界がなくなってしまっては全ての存在が消えてしまう。敵も味方も関係なく、手を組む事を決まるまでそう時間はかからなかった。
幾度となく争ってきた。全力を出して迎え撃っていた。それでも、戦いの最中に揺れる髪とマントに見惚れていたのは1度や2度ではない。しなくていい怪我をしたことだってある。
そんな禁じられた想いを抑えなくていいと知った時、皇帝の腕を掴んで緊張した声で告げていた。「好きだ」と。
想いはいとも簡単に受け入れられた。「いいだろう、恋人にしてやる」と淡々と告げられるだけで気分が高揚して思わず抱きついてしまったくらいだ。
敵に想いを抱いてしまった罪悪感から、秩序の戦士たちには告げていない。秘密の恋は続いているが、片思いではなくなった分幸せは増している。
それでもまだ、フリオニールには秘密があった。

「変な顔で私の後ろを歩くな」
「あ、ああ。すまない」
「知的なつもりかは知らんが、難しい顔は似合わぬぞ」

失笑を浴びせられているようだが、心配してくれているのはよくわかっている。
ふっくらして弾力のある、紫色の唇を見ながら自らの物にも触れてみる。柔らかさはあるが、彼女には到底及ばない。
大きなため息をつけば、眉間のシワが深くなった。

「私といるなら嬉しそうにしろ」
「そうだよな、すまない」
「謝罪は聞き飽きた。止めろ」
「……わかった」

振り返った自慢の恋人には、鎧では抑えられない豊満な胸と、マントに隠されたスレンダーな肢体。長い髪、長い睫毛、細い輪郭、凛と耳をくすぐり誘惑する甘いハスキーボイス、どれをとっても自慢で恥ずかしくない。
背を向けて胸を強く抑え込めば鋭い声が突き刺さる。

「貴様はなんなのだ」
「すま、ゴホン。少し、気分が悪いんだ。水を浴びてくるよ」
「私も行く」
「じゃあ先に行ってくれ。待ってるから」

眉間のシワはどんどん深くなり彼女の美貌を般若の面へと変えていく。
腕を組みヒールを小刻みに叩き付けるだけで迫力が違う。尻込みをすれば、杖が地面を打ちそれさえもままならなかった。

「私たちは恋人だ」
「そう、だよ」
「つき合ってどれほど経った?」
「一月だ」
「……どこまで進展した」
「手を繋いだ、な」

彼女の口から「恋人」という単語が出たのは嬉しい。不機嫌になってしまうのは悲しい。
魔力の渦が荒野の水たまりを揺らし始め、慌てて細く逞しい腕を掴んだ。

「すま、ない。心の準備ができていなくて……」
「関係ない。『つき合えば、絶対に気分を害させることはしない』と言ったのは誰だ」
「すまない……でも、まだ少し待ってくれないか」
「謝罪も言い訳も聞き飽きた!!」

怒り心頭な声が大地を揺るがし、遠くで鳥の群れが飛び立った。思わず目を閉じて恐る恐る開くと、彼女の姿はどこにもなかった。
何度喧嘩になっただろうか。最近はくだらないことで争う頻度も増えてきた。悪いのは皇帝ではなく、フリオニールだということもわかっている。それでもすぐに改善出来る問題ではない。
今日の怒り方は今までにないものだった。このまま捨てられたらどうしよう。そんな不安が渦巻くが、彼女の望む事は出来ない。彼女に魅力がないから手を出さないわけではない、むしろ逆だ。

「オレが、本当の男だったらよかったのに」

縛り付けて苦しい胸を押さえながら、小さく呟く。
女が女に告白したとわかれば幻滅されるだろう。女すら息を飲むほどに美しい容姿なのだ、男に不自由するわけがない。若い男を捕まえて性欲処理をしようとしているのだとしたら、尚更知られるわけにはいかない。
正体がバレるまでの短い間だけでも孤高な女王を独り占めしたい。嘘をついてでも手に入れたい。痛む胸に抑え込めば、心臓の音が頭に直接響く。しゃがみ込んで丸くなっても響く音に頭すら痛くなる。

(オレだって、お前に触りたい。キスもして、裸の付き合いもして、抱き合いたいさ……)

夢とは違い現実は残酷である。いつも10歩後ろを歩き、体に触れる事もしない。手をつないだ事がある、と言っても無理矢理皇帝に引かれたのだ。恋人とはほど遠い。
水鏡を覗き込んで、映る女の酷い顔にため息をつく。連日の戦いの為に肌は荒れているし化粧道具も余裕もない。武器をいくつも背負っている為に、無駄な筋肉が付いて「男だ」と言っても違和感はないだろう。声だって枯れて低くなっている。皇帝の前では男らしくするために腕を見せるが、性別を知っている仲間たちの前では袖のある服で隠すくらいだ。
綺麗にはなりたいが、恋人には気付かれないようにしないといけない。同性を好きになる性から覚悟はしていたが、今回は相手も悪かった。痛む箇所をまとめて抱きしめると、麗人を思って唇に性的な指を這わせた。



夜の、心身共々安らげる風呂の時間が一番苦痛の時間である。フリオニールはマントを握りしめて服を脱ぐ女性たちの白い背中に目をやった。

「なんだ。また風呂には1人で入るのか?」
「ああ……見張っているから気にしないでくれ」

ライトニングの筋肉は付いておりスレンダーながらも胸のある体に、ついため息をついてしまった。
元秩序の戦士たちは体のことも性別のことも知っている。気兼ねなく裸の付き合いも出来るのだが、慣れないのはフリオニール自身だった。
比べられているような気がして、男として過ごしてきたから女同士という行為に抵抗があった。
申し訳ない表情でタオルを巻いて風呂へと向かう少女たちを見送り、武器を抱えて座り込んだ。
女らしく、に憧れてはいる。だがこの重々しい武器と鎧たちを手放す事が出来ない。甘い恋愛なんてやっている余裕もなかった。
やっと掴みかけた幸せも、いつまで続くだろうか。成長し始めた胸に手を這わせていると、近くの草むらから音がした。

突然襲ってきたかまいたちをノーガードで受け止めてしまった。吹き飛ぶ体に切り裂かれる痛み。心臓を的確に狙われて胸から出血しているのがわかった。
慌ててマントにくるまると、片手で剣を構えて対峙する。
姿を現したのは、恋人の姿を借りた無機物だが、情がわいてしまう。煩悩を振り払って武器を握り直せば、強く地面を蹴った。
倒せはしないが、体力を奪って逃げる事は出来る。矢を引き絞って足を狙うが、簡単に風がたたき落としてしまう。汗が頬を伝った。
彼女のくせ、彼女の戦い方。全て頭に入って入るが、簡単なはずの攻撃がなかなか当たらない。
やっと当たったと思えば、それは本物の魔法だった。跡形もなく消し飛ばしたのを見届けると体から力が抜けてへたり込んでしまった。
後ろからゆっくりと近づいてくる気配。心臓が高鳴り冷や汗が溢れ出してきた。

「貴様、何を手間取っていた」
「ダメだ、来るな!」

強く叫べば不満な表情。痛みと安堵で体は動かないが、抵抗をやめるわけにはいかなかった。

「お前が汚れてしまう。せっかく、綺麗なのに」

悲痛な本心にもおかまいなしに彼女は近づいてくる。
触れられれば性別がバレるという危惧もあるが、それよりも血が彼女についてしまう。それがなによりも嫌だった。
傍らに座り込むと、乱暴に血の滲んだマントを剥ぎ取られた。不快を表した紫の目が真っ赤な体を突き刺した。

「ここだけか」
「だから、ダメだ」
「黙れ」

鎧も剥ぎ取られて服に手がかかった。
緊張と不安で鼓動が高鳴る。一瞬の時間が永遠のようにも感じられた。
体が、頭が燃えるように熱い。これから投げかけられるであろう絶望の言葉に覚悟を決めたくはないが、触れられた場所が金縛りにでもあったように動かない。
今までの思い出が走馬灯のように流れ始める。殺し合いもした、和解もした、恋人になった、触れ合いもした。
だがその思い出もリセットされる。また殺し合いをする仲に戻ってしまう。薄く開かれた唇からは情けない小さな悲鳴すら溢れてしまった。
心配そうな優しい手が、恐る恐る肌を滑る。

「痛い、のか」
「痛い、痛い……」

怯えたように白い手が引いたかと思えば、ゆっくりと赤い舌が傷を撫でた。優しく、何度も傷を撫でるとその都度上目遣いが顔色をうかがってくる。
体の痛みはもう慣れた。心の痛みはまだ慣れない。嫌われるという痛みだけが脳を支配して全身を動けなくする。

「どこが痛い」
「皇帝、好き、なんだ」
「何を今更」
「嘘じゃないから」

傷も忘れて金糸に抱きつけば、抗議の声もなく抱き返された。
冷たい体に優しい手が背を撫でる。冷たい彼女の優しさに、心が安らぎ、涙が溢れ出す。
慌てて、手を離すと鼻の頭に赤い跡。白を汚すように付いた赤に興奮してしまったが、慌てて布を取り出すと拭き取りにかかる。だがそれは出来なかった。身をかわして綺麗に笑う彼女がいたから。

「貴様のせいで汚れてしまった。風呂に入りたい」
「なら戻ろう。オレが見張るよ」
「ふざけるな。責任をとって私に奉仕しろ」
「いや、でも、オレ」
「体に自信がないとぬかすつもりか」

唐突な言葉に耳を疑った。思わず胸を抑えると「図星か」とせせら笑う綺麗な声が聞こえる。

「さしずめ女だとバレていない、とでも思っていたのだろう」
「な、何故それを」
「私を馬鹿にしているのか。いくら貧相な体でも性別くらいはわかるわ」

それでも彼女の表情は穏やかだった。
最初から隠す必要がなかったなど、なんと滑稽だっただろうか。思わず赤くなって胸を隠せばせせら笑われてしまう。

「私のほうが優れているのは今更だ。恥じる事もない」
「いやでも」
「なんだ」
「もしかして、俺が男だと思ったからつき合ってくれたんだと思ったんだ」
「くだらんな」

心底くだらない、と鼻を鳴らせば乱暴に顎を掴まれた。一体何が始まるんだろう。戸惑い見つめ返すと、乱暴な言葉が投げかけられる。

「いいか。私は貴様だから了承してやったのだ。他の奴ならば相手にせん」

大胆で俺様な告白に、赤面するのはこちらだった。「ありがとう」とか細い声で漏らせば楽しそうな声が耳についた。
初めから、性別なんて関係なく彼女は見ていてくれたのだ。愛を疑っていた事に罪悪感がわき、謝りながら抱きついた。
それでも許しは聞こえなかった。代わりに聞こえたのは、甘い誘いだった。

「キスすれば許してやる」
「キ、ス?」
「貴様は怯えてしてくれなかった」
「女同士でも、いいのか?」
「嫌なら殺す」
「嫌じゃない、嫌じゃないっ」

慌てて肩を掴むと、思ったよりも細くて驚いた。魔法を使う者として体に筋肉は付いていない。長い睫毛にふくよかで紅の乗った唇。喉を鳴らして唇へと舌を伸ばせば笑い声が聞こえた。

「初々しいどころか逆にイヤらしいぞ」
「いや、どうしようって思って……」
「唇を合わせろ。話はそこからだ」

リードをされるのはなんだか悔しいが、彼女の大人の魅力に惹かれたのは事実。薄く開かれた唇に誘われると、柔らかく温かい感触につい夢中になってしまった。
頭を掴んで舌を絡め合い、苦しげな声が聞こえてくる。それでも構わない。
冷酷で優しい女皇帝に捕われた日から、反乱軍の運命は決まっていたのかもしれない。金と権力と女、帝国の絶対なる誘惑に負けてしまった兵士はどうすればいいのだろうか。
フリオニールの心は決まっていた。

「風呂に行く。奉仕しろ」
「ああ。わかった……」

反逆者としての辛い失恋に苦しむくらいなら、捕虜としての幸せな生活を享受したい。
伸ばされた悪魔の手を取り、頬を染める。
憧れていたものが目の前にある。それだけを噛み締めて地獄へと足を進めた。

+END

++++

17.2.7


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