魔法が解ける前に
※世界は平和です
※なんら普通の学校と変わらない
※隠しエンディング、見たいです…
※女装マキナ
―虐められっこのシンデレラは、いつも継母や義姉に虐められてこき使われていました。
―ある日、城で舞踏会が開催されることとなり、二人は意気揚々と出かけていきました。勿論シンデレラはお留守番。泣く泣く掃除洗濯と仕事三昧。
―しかし、突然現れた魔法使いに魔法をかけてもらい、舞踏会へ。美しく変身したシンデレラは、王子様に一目惚れされてしまいました。
―しかし魔法は解けるもの。元に戻ってしまったシンデレラは一目散に駆け出しました。
0組に転入されたのは、いつからだろうか。初めは数えていた日数も、疎かになってゆき今やどうでもよくなってしまった始末。それほど、この特殊と言われる0組が楽しかったというのだろうか。
ことの始まりは、2組の友人と出会ったことからであった。出会ったや否や、元クラスへと強制連行されてしまい、足を踏み入れたや刹那女子が群がってきた。何が何だか理解出来ないまま、されるがままでいれば足がスースーしてきた。
「キャー!流石マキナ!」
「2組の王子様は、何着ても似合うな。」
ワイワイと元クラスメイトの勝手に盛り上がった感想が聞こえる。状況はさっぱり飲み込めない。と、目の前に全身鏡が置かれ…
「…なんだよこれ。」
ドレス姿の自分が映っていた。
「学芸会があるんだ。その衣装として作ったんだがな、せっかくだから――」
「せっかく、じゃなくて俺がたまたま通ったから着せて笑ってやろうって魂胆だったろ。」
「ご名答。」
「他の野郎はネタだったけどな…お前は笑うところすくねえわ。元々顔だけ、はいいし。」
「だけ、は余計だ。」
ああ懐かしい。こうやって気兼ねなくワイワイ騒いで、気兼ねなくバカ言い合って。自然と漏れる柔らかい笑みだが、ふと脳裏にここにはいない顔が映った。
「どうするよ?このまま女子だけが盛り上がるのもつまらないだろ?」
「化粧!化粧しようぜ!」
「で、校内一周させる!いいじゃんそれ!」
勝手に盛り上がる薄情なクラスメイトは知らない。きゃあきゃあと騒ぐ女子は、最早止めてすらしてくれないだろう。はぁ、と自然に漏れる溜め息すら、周りにはどう聞こえたのか喜々とした声が上がる。もうこのクラス
には魔法がかかっているのかもしれない。
(急がないと、魔法が解ける)
ただでさえ歩きにくいハイヒールで、駆け出すなど無謀極まりないとわかってはいるが、急がなければこの足は走るどころか歩けなくなる。なんと厄介な魔法であるか。足を包み込む『ガラスの靴』を憎々しげに睨みつけた。
思い当たる場所は、2組たちの思惑通りにすべて回ってやった。
だが、いない。
行く先々で集めた視線は気にしない、熱視線は眼中にない。
(早く、早く"王子様"に会わないと、)
「エースはいるか!?」
慣れた0組の扉を開け放つと、勿論視線を集めることとなった。目を丸くし、弾けたように笑い出すケイト、素直に誉めるシンク、頭を抱えるキングとクイーン。ビスケットを落とすナイン、二度見をしても尚状況を理解出来ないエイト。
でも、彼がいない。
「エース、は…任務か?」
せっかく、せっかく魔法使いに魔法をかけられたのだから、大舞台に出たかった。しかし現実は無情、御伽噺の主人公にはなれなかった。
「大丈夫。外にいる。」
キングに手を取られ、紳士的にエスコートされる。キングが男らしく見えるのと、自分が女扱いされていることに照れを覚えるが、相手は王子様はではない。
王子様は扉をくぐり目を光に細めると、いた。銀に輝く金糸の王子様が。
「エース!」
手を振り払い足を挫くのも咎めなく駆け出す。だが彼からの呼び声はない。
ベンチにもたれかかり、俯き見えぬ顔。
「寝て、る?」
反応してくれないと思いきや、寝ているではないか。とりあえず無視ではないことに安心しつつ行動に移る。
隣に座りまずは寝顔の観察。起きはしない。
次に顔を近づけてみる。どれほど長く眠っているのだろう、太陽の匂いがする。
最後にお姫様からの接吻を送る。少し、身じろぎをしたが覚醒には至らない。
(これもダメか……)
どうやら姫の接吻では王子様は目覚めないらしい。拍子抜けしてしまう。でも、もう魔法が解ける。そろそろ帰らなければ。
「じゃあな。」
寂しそうな笑顔は、ドレスの反射で隠された。急ぎ足で走り出す姫の後ろから、また小さな呻き声が聞こえた。
*
「本当に?」
「本当、本当。そんな女性来てないって。」
「ドレスですか…私も見て見たかったです……」
本日の放課後は、一つの話題で持ちきりだ。
"エースが庭で、ドレス姿の美女を見た"
寝起きだからちゃんと覚えていないことと、素顔を見ていないのが失態。しかし普段は色恋沙汰には無関心なエースが、妙に食い下がってくる。
「ドレス?ドレスなら…」
「ナイン。」
聞き逃す二人ではない。エイトがすぐさま黙らせるが、エースは耳敏く振り返り詰問するかのように視線を交錯する。
「知ってるのか?」
「…いや。」
「特徴は覚えていないか?…王子が姫を探すには、証拠が必要だ。」
キングの一言にきょとんとしたエースだが、すぐに心当たりがないか検索を始める。
「確か、懐かしい匂いがしたな。」
ぼんやりと外を眺めていた体が、ピクリと反応を示す。
「それに、唇に口紅がついていた。」
更に体が反応するのが見えた。何を意味するか、エースにはわからなかったのが救いか。
無視を決め込むマキナの隣の椅子が静かに動く。髪が払われ耳元が涼しくなったと思えば、背筋に甘い痺れが走った。
「姫が、マキナならよかったのにな。どんな姿でもお前は"お姫様"だけど。」
―一目惚れした王子様は、その女性を探そうとしました。しかし、手がかりは何一つありません。王子様は困ってしまいました。
―しかし、王子様には前々から想い人がいたのです。結局、"あの時の姫"は見つかりませんでしたが、王子はシンデレラと仲良く暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
+Fin
++++
:'.,"・:;'..(゚Д゚)←吐血
11.12.27
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