えふえふ | ナノ





定期検診の日がやってきた。
季節的にも木枯らしが吹き荒み、風邪をひきやすい時期になってきたから検診の回数も増えてきている。
そういえば、兄弟が風邪をひいているところは見たことがない気がする。

「あの、マザー…」

マザーはいつでもいやな顔せずに微笑んでくれる。「なあに?」と優しい笑顔が心を暖かくしてくれる。

「最近…よく集中力を欠くことがあって……」

「悩み事?」

「そうじゃなく!…マキナを見ていると……」

マザーはレムやマキナ…特にマキナのことはよく思っていないらしい。レムは検診の回数が多いが、マキナはそこまで多くない。意図的に避けているのか、いやマザーは0組以外には厳しい顔しか見せないため普通ということだろうか。

「詳しく話して頂戴。」

「マキナが妙に気になって……他の皆はそんなことないのに。」

「目で追ったり、何してるか気になったり?」

「マザーはなんでもわかるんだっ…!」

羨望の眼差しを向けてくる子は微笑ましいが、喜ぶこととはちょっと違う。さて、どうしたものか、息をつく。

「傍にいたら緊張するし、もっと仲良くしたいなんて……おかしいよね。」

「えぇおかしいわ。貴方は病気よ。」

「えッ」

驚くのも無理はない。まさかそこまで重症だとは思うまい。だが彼女の顔は真剣そのもの、それにマザーが嘘をつくとは思わない。

「これは私には治せない。自然治癒が一番理想だけど、治せるとすればマキナだけ。」

「マザーにも治せないのに自然治癒出来る?マキナがマザーより凄いって?」

「特殊なのよ。深くは考えなくてもいいわ。さあ行きなさい。」

「ありがとうマザー。」

早い歩きで去って行く子が扉へと消えていくと、煙管に手を伸ばす。

(まさかあの子たちも、そういう感情わ持つとはね……ま、あの子たちの力になるなら応援するけど)

吐きだされた煙は、細く頼りない。もう一度、と吸い込んでもまだ弱い。


エースの療養生活が始まった。
まずは人に頼らぬよう、と自然治癒を目指すため、マキナならは距離をおくことにした。
気になろうとも、我慢も鍛錬。困惑し不振がるような視線が送られようとも、気にかけてはいけない、と無視を決め込んだ。

「エース、ちょっと…」

「エースさ…あ、先客ですか?」

「んー…何?デュース。」

勘に触っているのはわかってる、その度に胸が痛む。だが今振り返ってはいけないのだ。頼って困らせたくはない、心がそう叫ぶ。
デュースも気を使いながら、たわいもない用事を告げる。マキナの顰めっ面更に険しくなる。
そんな事が何回も続けば、誰だって怒るものだ。目に見えてマキナの機嫌の悪いの原因が、エースだとわかっているが誰も触れはしない。しかし、病は改善するどころか悪化するばかり。時折、幻想のみが走ることもある始末。

(自然治癒は無理なのか…?)

擦りよってきたチョコボの毛並みを整えてやれば、澄んだ声を上げる。何度も喜々として鳴く様をぼんやり眺めていると、強い力で肩を掴まれた。

「エース。」

爆発寸前な声音だが、恐怖より高鳴る胸。だが声は努めて冷静に、反応だけを返す。

「何で無視するんだよ。答えろよ。」

肩を掴む力が強まり、眉間の皺も深い。青筋すら浮かびそうなマキナを眺めていても、浮かぶ感情は困惑のみ。

(あぁ、やっぱりドキドキする……っ)

「早く答えろ!!」

半ばヒステリックな叫び声はさすがマズい。とりあえずは力み過ぎな手を振り払い、マキナを真っ直ぐ見据えた。

「病気、なんだ。」

「えッ」

「マザーでも治せないらしい。でも、人に頼りたくない。」

どう言葉をかけていいのかわからない顔に、少し微笑む。心配はしてくれているのか、と思えたから、少しは心が軽くなった。

「で、でも俺を無視する理由にはないだろ!人に移るなら、他の奴にも近付かないし…」

「治せるのはマキナだと、マザーが言っていた。」

「えッッ」

ゆっくり手を取り直せば、本格的に困惑し泳ぐ目。そりゃあいきなりこんな重荷を背負わされても困るであろう、彼の心中も察する。だが自分にはこの手しかない、とエースはがむしゃらに彼の指と指を絡め、青い瞳で訴え続ける。

「なんでだろうな、お前と一緒にいるとドキドキする。一緒にいれなかった数日が、辛かった。」

「え…そ、それはな………」

視線は噛み合わない。繋いだ指が赤く熱くなるし、マキナの声に震えが見られる。

「本当に、お前なら治せるのか?」

「〜〜ッッ!」

どうして、身長は勝っているのに気圧されているのだろう。息が鼻にかかるくらい、顔が近い。目が潤んできた。
突然唇が重なった。

「…え?」

「……な、治ったかよ……」

慌てて距離をおこうとするマキナだが、指が捕獲されているためにふりほどけない。穴があったら入りたい、エースに見つめられることで冷静さがなりを潜めてしまう。

「……更に悪化した。」

「……じゃあ責任、とって看病して、やる。」

もう限界である。エースの肩口に顔を埋めて顔の赤さを隠すが、もう知られているだろう。髪に絡む指がくすぐったい。指と指に汗も滲んできた。


「うまくはいったようね。」

深く吸い込み吐き出した煙りは絡まり太い線となった。

+END

++++
そうか、エースの方が年齢と身長が下なのか

11.12.24

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