えふえふ | ナノ



酒から始まる正しい間違い講座(オマケ)

***


ザナルカンドで空を眺めていたジェクトは、近づいてくる足音に静かに笑った。大胆ながらどことなく億劫そうな足音は1人しか知らない。けだるそうなのに止らない足へと目を向けると、嫌そうな顔と視線がかち合った。

「よおガキ」
「なんだよ偉そうに」
「実際お前よりは偉いからな」
「ムカつく」

悪態を付きながらも息子は横へと腰を下ろす。頬を膨らましながらも距離を置こうとしないとこは誰に似たのやら。笑いがこみ上げるばかりだ。
笑っているとまた睨まれながら何かが差し出された。瓶のようではあるが、殴ってくる気配もない。素直に受け取ると中で透明な液体が揺れた。

「なんだこれ」
「酒。王様から貰った」
「あの金ぴかの」
「そ。金ぴかの」

豪腕で蓋をこじ開けると、豪快にラッパのみを始める。物欲しい視線が突き刺さるが、これは酒だ。息子も未成年だ。それに皇帝からの酒に裏を感じてしまう。という名目で独り占めしたいだけだ。

「それうまいのか?」
「飲んだ事はねえ味だが、悪くねえ」
「ふーん」

「ならよかった」とぼやくのが聞こえた、ということはぎこちなかった関係にも変化が起きているのだろうか。ぼんやりとそんな事を考えていると、スンスンと鼻が動く音がした。

「なんだこの甘い匂い」
「あ?」

段々迫ってくる息子の顔に首を傾げたが、確かに変わった匂いがする気がする。一体どこからだろうか。周囲を眺めていたがさっぱりわからない。
それでも真っ直ぐ迫ってくる。

「親父からだ」
「俺か?」
「正確には、酒から?」
「酒……お。これモルボル酒じゃねえか。結構レアな奴だぞ」

無意識に飲んでいたが、かなり高価なものだったとは。半分以上なくなった酒に小さく舌打ちをした。

「高いのか?」
「かなりたけえな。有る地域でしか作れない上に製法も特殊ときた。手に入れるだけでも骨が折れるぜ」
「王様しか買えない奴?」
「だな」

それにこの酒は相当アルコール度数が高いと聞いた事もある。ジェクトはなんともないが、酒に慣れていない者は、一口どころか匂いだけでも一瞬で冷静な判断が出来なくなるほどだとか。

「前フリオから同じ匂いがしたけど、香水かと思ってた」
「あの武器をいっぱい持った兄ちゃんか? 酒に強いのか?」
「飲んでる所見た事ねえ」
「強そう……じゃねえな。女と酒と金、全部に慣れてねえ顔してやがる」
「威張れんのかよ」
「俺様は元より不自由しねえからな」

幼稚な張り合いは何度目だろうか。不器用な触れ合いしか出来ない事に歯がゆさを覚えるが、きっと互いにそうなのだろう。似ているところが多い親子なのだから。

「やっぱりこれ、くせえ」
「ガキにはまだ早かったか? 合わねえならやめとけやめとけ」
「んだと!? このくらい平気だっつの!」
「近くにいると匂いが移るぞ」
「マジかよ!」

勢いよく距離をおく姿から、どれだけ酒に弱いのかはわかった。鼻を摘みながらも手で払う仕草までされてれ少なからずショックも受ける。血を受け継いでか酔ってはいないようで安心した。

「もしかして、フリオも王様に貰ったのか?」
「さあなぁ。王様は気難しくてよくわかんねえ」
「でもこんな感じの匂いだった」
「知るかよ」

臭いと言う割には興味津々なようだ。時折鼻を摘まんでは嗅ぎ、また摘んでを繰り返す様は面白い。
酒としてたしなむのは金もちの道楽で、本性をむき出しにする自白剤という用途もある。しかし貴重な為、滅多に使用出来ない代物だ。
酒は飲んでも飲まれるものではない。乱雑に残っている酒瓶をひっくり返すと一気に飲み干した。

+END

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鬼畜に票が入ったので楽しんで書いてました
ここまでおつきあいありがとうございました

16.12.25


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