えふえふ | ナノ



久しぶり、運命の人

※クジャふたなり
※オメガバ+設定捏造
※数年前のことでストーリー忘れかけ



「これがお前の伴侶となる者だ」そうガーランドから告げられた時は、ただ虫酸が走った。
ジェノムは優れた存在でなければならない。何故、旧人類の真似をして伴侶という者を作ったのか理解出来なかった。しかも自分よりも優れていると言われた存在に身を寄せるなんて身の毛もよだつ。
更に気に入らないのが、この未来の伴侶と言われている存在が男。「何故同性に」という言葉を絞り出そうとして、自らの体を見下ろし苦い顔になる。クジャの体には両方の物が備わっている。要するに、ふたなりというものなのだ。
実験段階だかなんだかしらないが、ベースは男で女の役をしなければならないなんて馬鹿げている。だがガーランドの命令となれば建前上でも首を縦に振るしかない。
何が悲しくてすぐに捻り潰せそうな赤子が未来の夫になるのだろう。苦々しい表情で腕に抱いた弟を見下ろしていた。

ガイアに弟を捨てた。
優性と劣性、完全な性に不完全な性、弟と比べられるものばかりでしかも劣っているのはクジャだという。
全てが嫌になった、もう我慢が出来なかった。
ガーランドには飄々と嘘をつき、心の中でほくそ笑んでいた。「これで一番は自分だ、劣等感を感じる必要もない」と。
だがガーランドは苦い顔をしたが、次の作戦ということでもう1人優秀な雄を作ろうとした。
何故そこまで配偶者に拘るのか。優秀なもの同士を組み合わせて、更に新しい可能性を見つけたくなる、科学者としての考えだと言われても納得はいかない。
毎月の月経は予想以上に痛いし、妊娠すると更なる痛みがあると聞く。
冗談じゃない。何故望みもしない行為で痛い思いをしないといけないのだ。
新しい伴侶なんて作られてはたまらない。何度もバレないように阻止し、産まれる前に壊してやった。何人も、何人も、夫となる弟たちを壊してきた。さすがに同じ事が二度も三度もあればガーランドだって不審に思うし、犯人の目星もすぐ着いてしまう。
呆れたガーランドは億劫そうにガイアの破壊を命じてきた。夫が出来るまでの時間稼ぎついでに。

皮肉にも運命、と言うべきなのだろうか。ガイアに捨てたはずの夫候補は立派な少年に成長していた。
名はジタン・トライバル。大きくなっていても、独特の尻尾と嫌という程見せられた金髪ですぐにわかった。
いつからだろう。彼の姿を見る度に体が疼くようになったのは。
これもガーランドの画策なのだろうか。全くもっていけすかない男である。胸も短期間で成長をしてしまったし、ジタンに会ってからはおかしなことばかりおきる。しかしこんなことは男の心は望んでいない。貴族の前ではたわわな女の体を見せつけてやっても、ジタンの前に現れる時には無理矢理に縛り付けてやった。
女として見られて、見初められるのが怖かった。ガーランドの敷いたレールの上を通るのは嫌だった。
しかしそんなことは長くは保たないのはわかっている。女である時の姿をジタンに見られてしまったのだ。
貴族たちに混じって、金色の尻尾を見つけた時にはもう遅かった。ゆっくりと迫られて、人気のない所で声をかけられ手を握られる。「綺麗な方ですね。私とお茶でもどうですか?」と。
初めは手荒くふってやった。それでも彼は諦めなかった。
「ここにはよくくるんですか」「連れの人はいないんですか」「一緒に気分転換に散歩にいきませんか」しつこくつきまとわれて内心は嬉しかった。
しかしいつも女に同じ事を言っていると思えば腹ただしくもある。無視を決め込み感情のまま早歩きになればいきなり視界がぶれた。
突然の階段という段差に、ヒールのブーツがバランスを崩したのだ。
落ちる。
そう理解しても体は動かない。魔力を使って防御の姿勢を取る事もできなかった。何故だろう。彼が近くに居るだけでもこんなにも調子が狂ってしまう。
しかし背中に痛みはこなかった。正気に戻った時には、視界一面に微笑む金色の髪。抱きとめられたということはすぐに理解出来た。

「大丈夫ですか?」「怪我はありませんか?」様々な言葉が聞こえてきたが理解しようにも頭が固まってしまい動かない。

「今、恋人は居ますか?」

やっと理解出来た言葉は甘い響きをもっていた。耳元で囁かれて、直接響くような言葉に思わず体が粟立った。正直に首を横に振ってしまったことでジタンは嬉しそうに微笑む。そして無礼にも唇をついばんでこう告げた。「一目惚れです。つき合ってください」と。
襲ってきたのは恐怖だった。
胸の膨らみ方や美貌は女性だ。だが性は男の部分も存在している。
見られたら幻滅するだろうか。軽蔑されるだろうか。そんなことばかりが頭をぐるぐる回っていた。
何も答えられないクジャに、ジタンは黙って答えを待っていた。抱きとめられる形でいると、軽い靴の音が聞こえて我に返った。

「冗談じゃない! ボクは……ボクは、君のものにならない!」

ジタンは何を言われたのかわからない顔をしている。それでも感情が抑えられなかった。乱暴に腕を振り払うと、体が地面に着く前に魔法で支える。驚いた顔のジタンを尻目に慣れない足で駆け出した。
あのまま一緒に居てはどうにかなってしまう。うるさい心臓と呼吸に胸を抑えてへたり込む。痛い、痛い、息が熱い。荒い息を整えながらも長い廊下が恨めしそうに睨みつけた。
認めない、優れているのはボクだ。あんな猿になんて劣る訳がない。涙まで溢れてきて目を擦ると真っ直ぐに窓を睨みつけて飛び出した。
もうオークションにも興味はなかった。ただ、冷たい風だけが心を和ませてくれた。

**


デザートエンブレムはクジャの根城であり、今ジタンたちが閉じ込められている場所でもあった。
女である姿を見られてから、もう1ヶ月は経っているがジタンの歪む顔を見ているだけでやっと気分が晴れた。グルグストーンを取りにいかせるように命じると、ジタンだけは人質として側に置いた。
いろいろと自分自身には言い訳をしたが、これはけじめだ。
ここで未練を断ち切る。そうすれば運命から、ガーランドから逃げ出せる。真の自由が手に入る。そう思うだけで笑みが止らなかった。
首と手足に銀の鎖をつけて、部屋まで招いてやる。まるで動物園の猿のようで滑稽だ。同時にアクセサリーのように光る銀に少しときめいてしまった。

「座ればいいよ。どうせ君は逃げられない」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら手招きをすれば不機嫌な表情でゆっくりと近づいてくる。変な動きをしようとしても、隣の部屋には銀竜もいる。下手に動けば命はないのはジタンが重々承知である。
おとなしくソファーに身を沈めるのを見届けるとクジャも座る。ポツリと何かが聞こえたのもその時だった。

「俺たちの前では縛ってるんだな」
「は?」
「胸。オークションでは軽装だったのに」

言われて思わず胸を押さえ込んだ。視姦されている気分になって不快感を露わにしても気にせずジタンは体を眺めてくる。

「お前は女なのか?」
「君には関係ないだろう」
「ある。あのときお前に、クジャに似てたから声をかけた……って言ったら、どうする?」
「は?」
「綺麗だったっていうのは嘘じゃない。それに、お前に似てたからつい強引な手を使った」

「そう」呟くように出た短い返事にジタンは怪訝な顔をする。
きっと、女だから口説いた。ただそれだけだ。クジャだと思ったから、というのは足取りを掴む為だろう。そっけなく答えればゆっくりとジタンが近づいてくる。
優位なのはクジャである。それは変わらない。だが今のジタンは何を考えているのかわからない。つい身構えてしまうと無防備になっていた手を握られてしまった。
握られた所が熱くなる。だが振り払う事もできない。固まっている、優しく微笑まれた。

「俺、クジャのこと好きだ」

優しく、有無を言わせない音色に思わず背筋を伸ばしてしまう。嘘偽りのない真っ直ぐな言葉が逆に恐怖を煽り不安にさせる。流されかけた心を強くもって、挑戦的に鼻で笑う。
こうでもしないと揺らいでしまうから。

「そんな事を言っても仲間たちは解放しないよ」
「お前が仲間に、いや恋人になってくれたらいいのにさ」
「バカみたい。ボクを尻軽だと思わないことだ」
「尚更好きになったよ」

何を言っても無駄らしい。女を誘う甘い言葉に身の毛がよだつ。

「なんでだろう。お前を見てると、その、我慢出来なくなる……」

近づいてくる体に悪寒がした。その表情は恍惚としており、目には欲情の色が見えた。
『彼はお前の未来の夫になる優秀なジェノムだ』
ガーランドの言葉が蘇り怖気が走った。
心は拒んでいるが、体は悦んでいる。どんなに足掻いても逃れられぬ運命のレールの上を歩いているような気持ち悪さに口を抑えるのがやっとだ。

「い、嫌だ! 来るな、触るな!」

必死に叫べば正気に戻り驚いた顔をする。小さく「悪い」と告げると罰が悪そうに体を引いていく。そんなに怯えた表情をしていたのだろうか。それはそれで弱い者扱いをされているようで不快である。

「君も置かれている状況を理解するべきだ」
「わ、悪い……怖かったよな、そうだよな」

反対側の壁まで逃げて丸くなる姿は怒られた動物そのものだ。尻尾も垂れ下がり、丸くなっている。思わず声を上げて笑うと不安そうな目に見つめられた。
その目をからかってやろうと思った。

「ボクのことが好きと言ったね」
「ああ」
「ボクが普通じゃないって言っても?」
「俺も普通じゃないだろ」
「そうじゃない」

夢を砕いて諦めさせようと思った。しかし心の隅では「もしかしたら、受け入れてもらえるかもしれない」という不確定な憶測が頭をよぎる。
混乱しながらも後には引けない。服に手をかけると、そのまま落とした。
細い上半身にはたわわな胸が、下半身に男性器が付いている。驚いて目を見開くジタンから逃げるように体を腕で隠すと、優しく手が腕を掴む。「もっとよく見せてくれ」と。からかわれているのかと思ったが、真剣な表情に思わず首を縦に振ってしまった。

「これってふたなり……って言うんだっけ」
「そうだよ」
「初めて見た」
「好きでこんな体にされたんじゃない!」
「わわ、怒るなって。バカにしたんじゃねえよ」

慰めるように抱きしめられ、小さくても逞しい胸に体を預けてしまった。
奇異も悪意もない手に髪を撫でられて目を閉じる。人の温もりなんて穢らわしいものだと思っていたのに。

「やっぱり、お前が好きだ」
「物好きだね。こんな体、ボクだって嫌なのに」
「1人で強がってないで俺を頼ってくれよ」
「……考えておくよ」

受け入れられるなんて思ってもみなかった。このまま幻滅させて諦めさせようとしたのに、とんだ誤算だ。それでも体が熱くなる。まるで悦んでいるかのように腕が絡み付き思わず目を伏せてしまった。子供の体温がこんなに暖かいなんて知らなかった。

「キス、していいか?」

優しい音色にゆっくりと目を閉じた。どちらともなく重なる唇をゆっくりと味わっていく。もう、何も考えられなかった。抵抗する気も拒絶する気も、ガーランドの言葉すら思い出せなくなっていた。
これは運命なのだろうか、それとも自分の気持ちなのだろうか。それすらもわからない。ただ、今という時間が永遠になればいいのに。それだけが頭を支配していた。

「改めてさ、クジャ。俺の恋人になってくれよ」

答えなんて初めから決まっていたんだと思う。

+END

++++
中途半端オメガバ

16.10.5


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