堕ちる音
※ヤンデレ
※痛々しい表現あり
「綺麗だね」
高い金属の音に負けないクジャの澄んだ声が白だけの部屋に響いた。
「いきなりどうした?」
「ジタンの髪。綺麗だなって」
音が鳴る。
白く細く女性のような指が結んだ髪に絡まり、滑る。始めは目で追ってはいたが、段々首が疲れてきた。目の前で楽しそうに笑う彼に視点を合わせた。
「変なもんでも食ったか?」
「とことん失礼だね君も。ボクが髪を誉めるのが変かい」
「変。凄く変」
即決してやればちょっとむくれた。手を止め勝ち負け不明のにらめっこが始まった。
「だいたいお前の方が綺麗じゃん。あ、髪な」
「最後の言葉が余計だよ」
「調子のるなよ」
「自分に自信をもって何が悪いのさ」
じとっとした視線を無視してジタンも髪に指を絡めてやる。所々癖がついているが、サラサラで細い。白い細いでどこまで所持者に似た髪か。
「オレはあまり手入れしてねぇし」
「真面目にしなよ。モテないよ」
「うるせぇ。余計なお世話だ」
頭の羽のような毛をむしる気で引っ張ってやれば思い切り鳩尾に膝を入れられた。かなり痛かった仕返しに頬を引っ張れば、顔を引っ掛かれた。まるで子供の喧嘩だ。
また音が鳴る。
「モテるもモテないも、オレはもう本命いるからな」
「ふーん。どこかの囚われのお姫様かい?」
「わかってるじゃねぇか」
先程の喧嘩で引っ張った頬を優しく包み口付け一つ。素直に受け入れられ、離れた時には銀の糸。頬を赤く染め息荒く呼吸をしている彼の髪のように綺麗だった。
「気難しいお姫様でさ。オレも手を焼いてるワケ」
「フフッ、それはそれはさぞかし美人なお姫様だろうね」
「そうそう。可愛いけど嫉妬深くてさ。そこも魅力的」
「愛されてるね。妬いちゃうよ」
「そりゃ勿論愛してる。な、クジャ」
首に顔を埋めてキス。ピリッとした痛みと赤い華のような跡をクジャに残してジタンは離れた。ら、次はクジャがジタンの首に顔を埋める。
重い音が鳴る。
「香水・・・・・女の匂い」
「違う違う。これオレの」
「君の? 随分洒落たものつけるようになったね」
疑う瞳。だがジタンは余裕な顔で鞄から香水を一つ取り出した。
「これだよ。お前こういうの好きだろ?」
「嫌いじゃないけど」
「じゃあやる。お揃いで買ったんだからな」
「それで今日つけてきた」とまで言うが、警戒して香水を手にかけ匂いを嗅ぐ彼に苦笑。匂いが一致したらしい、やっと嫉妬に燃えた瞳に安堵の色が浮かんだ。
「なんだ、よかった」
「信用しろよ」
「考えておく」
「なんだそれ」
間が空き、二人は笑い出した。幸せな一時に似合わないのは、笑いに混じる一定の音のみ。
笑い終えるとクジャがジタンに抱きついた。
「浮気したら殺してやる」
「大丈夫。捨てたりしないさ」
「君の側で見張りたいところだけど、翼は君に折られてしまったから」
クジャの腕に足に、それぞれ綺麗な銀の輪。それも、立ち上がれないような長さで繋がれた腕輪。足は膝から下がなく、化膿し腫れているのがわかる。
「お前はオレを独占したい」
「うん」
「誰にも渡さない」
「うん」
「誰にも奪わせない」
例え相手が神だろうが、死神だろうが。
「ジタン。お腹空いた」
「そうか。何食べたい?」
「何でも」
決して外に出たいとは言わない彼。食事もあまりとらなくなり、肌も白を通り越して青くなってきた。
だけどはいつも幸せそうに出迎えてくれる。自分の置かれている状況よりも恋人のいる幸せ。
歪んだ音が鳴る。
「今日はお風呂にも入りたい」
「甘えるなよ、襲うぞ?」
「お風呂入ったらね」
「・・・・・・おう」
「ジタン可愛いー。顔真っ赤」
「うるせぇっ!!」
デコピンをくらわすとキョトンと目を丸くしている。表情を笑えば仕返しをくらってしまった。
「ボクにはもう君しかいないから」
「あぁ」
「君がいないと、来てくれないとボクは死ぬ」
「そうだな」
もう動けないのだ。この場所さえ知らない。何日、何週間、いや何年監禁されてるのかも知らない。
いつか音が軋み始めたのだろう。それすらもわからない。
「とにかく行くぞ」
ジタンは急かされるようにクジャを抱き上げる。それを待っていたかのように首に腕を回す。
「やっぱり他の女の匂い・・・・・・」
「お前の匂いだろ」
「うまく逃げるね」
だが機嫌よく笑うあたり気にはしないようだ。
「ジタンの匂いが甘いのと同じかな」
「ハイハイ、後でちゃんと可愛がってやるから」
「変なプレイはダメだよ」
運命の歯車が、心が音を立てて壊れる。
二人を繋ぐのは兄弟の絆か、はたまた愛情か狂気か。光の入らぬ部屋から二人は出ていったが、その扉の奥に見えたものもまた闇という黒の世界だった。
願わくは、堕ちる所は同じ場所であれ。
+END
++++
これは酷い
09.10.23
修正16.10.21
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[mokuji]
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