恋は戦い
スコールとクラウドは仲がいい。
会話をしているわけでも、何をしているわけでもない。ただ一緒にいるだけだ。無口同士で何か通じ合うものがあるのかもしれない。だからこそ、入り込めない何かがあるようで落ち着かなくもなる。今日もバッツはやきもきしながら肩を並べて武器磨きに勤しむ2人を見つめていた。
「そんなに気になるなら行けばいいのに」
セシルが何気ない様子でそう呟く。
そうしたいのはやまやまだが、友人関係にまで文句を言い出したらそれはただの束縛だ。独占欲で縛り付けたくないしそんな面倒くさい女のようなことはしたくない。
ため息とすがるような目で訴えると「はいはい」と笑いながら肩をすくめられた。セシルには可愛い子犬がぷるぷる震えているようにしか見えていない。
「そういえば2人はどうしたの?」
「ジタンとティーダ? あの2人なら」
「クーラウドー! スコールー!」
噂をしていたらなんとやら。元気に走ってきたティーダが勢いよくクラウドに飛びついた。よくも邪魔を出来るものだ、と他の面々が感嘆の声を上げる。
昼の見張りをしていた2人がやっと帰ってきて、真っ直ぐに2人組へと向かう。
ただ一番近くにいたからという理由だろう。だがバッツにしては面白くない。
「おい2人とも!」
やっと駆け出したバッツに、セシルは息をつく。
普段は行動第一な彼がここまで動けなくなってしまうのは、いろいろ考え込んでしまうせいだろう。慣れない事をするものだから更に混乱してしまい、動けなくなってしまう。それでは本末転倒だ。
こうやって、やりたいように動く。失敗してもくじけずにまた動く。それが一番バッツらしい。
やっと調子を取り戻した彼はもう大丈夫だろう。そのままフリオニールへと振り返ると、家事の手伝いをすることにした。
一方4人と合流したバッツは。
クラウドにはティーダが、スコールにはジタンが張りついているという奇妙な二人羽織に腹を立てていた。
「ジタンずるいぞ!」
「なんだよ。お前は向こうにいただろ。」
「セシルと話してたんだよ!」
「ならいいじゃねえか。なー、スコール」
「よくない! 離れろ!」
「なんでお前が言うんだよ」
肩から力なく腕を伸ばし、顎を頭に置いているティーダには目もくれない。クラウドも何も言わないあたり、邪魔ではないらしい。
ジタンは腰に足を回して背中に抱きついている。スコールも何も言わないが、眉間に皺が寄り始めているのが見える。いつ殴られてもおかしくなさそうだ。
「スコールは俺のだ!」
爆弾発言に驚いたのはスコールとティーダだけだったのは本人が知る由もない。
少し顔を上げ、何も言わずに愛刀へと視線を戻したクラウドの髪を、ティーダが感情のままに握りしめる。スコールは更にショックだったのか顔を赤く青くして武器を落としてしまった。「うわ、色気ねー告白」と呟くジタンを他所に。
「だからダメなんだよ!」
無理矢理背中に張り付く小猿を引きはがそうとするが、互いにムキになってしまい決着がつかない。被害を被っているのは間に挟まれているスコールだ。
未だ硬直したまま体だけが揺さぶられている。
「いーやーだーねー!」
「ふざけんな! はーなーれーろ!」
「俺もスコールのこと好きだしー!」
「なんだと! お前には渡さないからな!」
「そういう意味じゃねえ!」
売り言葉に買い言葉。どんどんエスカレートする子供の喧嘩に、遠くから分け入るフリオニールの声がした。
「ジタン。すまないが手伝ってくれないか」
「はあ!? 俺じゃなくてもいいんじゃないか!?」
「高い所の木の実が欲しいんだ。お前がダメならティナに取ってもらうが……」
トランスをしようと頑張るティナの姿が見えてジタンは言葉に詰まる。女子を盾に取れば首を縦に振らざるをえないのがジタン・トライバルという男だ。
バッツを睨みつけると、おとなしくスコールから離れて3人の所へ駆けていった。
ふと、フリオニールの横からセシルが笑顔で手を振っている。どうやら彼の差し金らしい。大げさに手を合わせて頭を下げればフリオニールにまで笑われてしまった。ジタンに見られていないのが救いである。
「さてスコール」
笑顔で向き直ればビクリと肩が跳ねるのが見えた。
そこまで怯えなくていいのではないだろうか、むくれっ面になると反省したように俯いた。
こういう時は素直だ。笑顔で抱きつけば「離れろ」や「くすぐったい」と聞こえてくるが大きな抵抗はない。代わりに耳元で低く「おい」と囁かれた。
「人前でああいう事はやめろ、と言っただろう」
「そうだっけ」
「そうだ」
「あー、忘れてたなー」
「わざとらしいぞ」
頬をすり寄せればさすがに怒られた。柄でぐいぐいと押し込まれて、歯に当たって少し痛い。でもこの程度で怯む程度の愛情ではない。
背中に回って抱き込めば、小さく悲鳴が聞こえた。1つは抱きしめたスコールから、もう1つは横で目を見開いてるティーダから。そんなことは気にしていられない。
足を腕を使って拘束すればもう抵抗すらなくなってしまった。ため息と「仕方ない奴」という優しい声。鍛えているのはお互い様だが、こういう時の為に役に立つのは年齢と体格の差だ。
「へっへー。スコール充電ー」
「お前は燃費が悪いな」
「おう。お前がいないだけで充電が切れるぞ」
「とんだ不良品だ」
「お前がいなかったら、な。間違えんなよ!」
体を寄せる2人に、クラウドはぽつりと呟いた。「最初から意地を張らずに開き直っていろ」と
+END
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お題提供先:1番星にくちづけを(お題bot)さん
大人げない人
スコールもクラウドに愚痴ってたというオチ
16.9.23
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