えふえふ | ナノ



女尊男卑 \編

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朝からトラブル続きでさすがのジタンも疲れてしまった。
女性が増えるのは純粋に嬉しい。だが兄、いや姉の暴走にも巻き込まれたのは散々だった。見た目が綺麗なのは認めるが、暴力的なレディはごめん被る。
思い出してはため息をつき、やっと自室にたどり着いた。
再び寝直そうと思っていたが先客の姿にまたため息が溢れてくる。

「なんだよ。オレがいて嫌がってたクセに」
「状況が変わったんだよ。変な気起こさないでね」
「起こさねえよ」

赤い尻尾を振りベッドに足を横に揃えているのは、思い出していた兄だった。
惜しみなく色気を醸しつつ上品な欠伸を1つ。まだトランスをしているが落ち着いてはいるらしい。
豊満な胸に頬を赤らめながらため息を漏らし、気にしまいとベッドを背に座り込んだ。

「それ何?」
「今日のお使いのメモ」
「ふーん」

気のない返事だが視線は感じる。ウォーリアに渡された素材メモを眺めていると、頭に腕と顎が置かれた。

「ボクがいるのにその態度は失礼じゃないかい」
「何が」
「客にはもてなしをするのは常識だよ」

要するにこの気難しい女王様は構ってほしいらしい。
素直になれず、だが体を必要以上に密着させられ、ジタンの頭に胸が押しつけられる。変な気を起こすな、と言うくせに誘うとは何事か。煩悩を振り払いながら手近な本で頭を叩いてやった。

「これでも読んでろ」
「飽きた」
「じゃあ借りてきてやる」

勝手に部屋を漁られ怒りは沸くが、とにかく黙らせようと思う。だが立ち上がろうともクジャが体重をかけてきて立ち上がれない。どこまでわがままな兄なのだろう。

「本はいい。ろくな物がなさそうだ」
「じゃあ寝てろ」
「何もしない?」
「しない。鍵かけて外出てくるから」

双剣と護身用にダガーを手繰り寄せると首に腕が回った。しがみつかれては動こうに動けないし苦しくなってきた。

「何だよ・・・・・・」
「暇」
「だからさ」
「暇だよ」

頑として解放する気はないようだ。構ってほしいと必死で訴えられ、お人好しのジタンは折れざるをえなかった。

「何したいんだよ」
「 ・・・・・・ 」
「黙ってちゃわかんないだろ」

向かい合わせになればムスッとしたクジャが見えた。尻尾がユラユラと揺れているのは、嬉しいのかはたまた怒りか。
珍しくよく動く尻尾が微笑ましくて笑え、眉間の皺が増えた。

「何さ」
「反応が可愛いなって」

途端、毛に負けず赤くそまるクジャの白い肌。また皺が増えると思っていたのに予想外の反応がジタンまでも赤く染めた。

「嬉しくないよっ!」
「顔、真っ赤だぜ」
「君だって」

激しく動く2人の尻尾。見つめ合う視線。しばらく流れた気まずい空気に折れたのはクジャのほうだった。

「君はいつもボクを狂わせる ・・・・・・ 」
「ん?」
「何でもないよ」

小さく呟いた言葉はジタンに届かなかった。首を傾げる弟が可愛いと思い、次はクジャがクスクス笑う。怪訝な顔をしたジタンの頬を両手で挟み、顔と顔を距離を詰めていく。

「近いぞっ」
「可愛いねぇ」
「可愛いは余計だ」
「今は女の子だっけ? 相変わらず小さい小さい」
「ほっとけ」

膨れっ面の弟に短く口づけた。唇ではなく額だったが十分だ。真っ赤になったジタンに、してやったりの笑顔を浮かべるクジャ。その顔はいつものようなイヤミな笑顔ではなかった。そんな綺麗な顔も出来るのか、ではなく。

「何すんだ!」
「あはは、いい反応だね」

気分が落ち着いたのか、やっとトランスが解けた。楽しそうに純粋に笑う姿を見てジタンはとほっとする。不意打ちのお礼にデコピンをかますと恨めしい視線を送られるが気にしない。
やっと解放された。立ち上がると不思議そうに見上げる幼い青い瞳がある。

「どこ行くの?」
「だから素材集め。満足したろ」

急いで距離を取ったのに、いきなり体に重みを感じて膝をつくジタン。これは重力魔法だ。クジャは無表情で指をくるくる回して魔法を発動し続ける。段々強くなる力に完全に手をついてひれ伏す形になってしまった。

「ボクって完璧だよね」
「なにがっ!」
「スタイルも美貌も頭脳も力も、完璧。まさに理想だ」

突然すぎる。うっとり語るように言葉にしているが、何が言いたいかわからない。
首だけ気合いで振り返れば、不満を露わにしながら自らの髪を指に巻きつけ膨れているクジャに早変わり。

「正直に言えよ。そしたら、構ってやる」

押し黙る。部屋に沈黙がおりる。急ぎではないためしばらく待っていると、口が静かに開かれた。

「いつも“レディ”には優しいのに」

ポツリと呟かれたことは自覚済み。

「ボクのことは見向きもしない」

恨みを込めてまた一言。これもまた自覚済み。

「このボクがわざわざ来たのに・・・・・・」

見下ろす視線は怒気を孕んでいる。乾いた笑いで解放してくれ、と頼むが更に下へ引かれる感覚が強くなった。女王様はご立腹だ。
痛い無言の間。読心術がない限りわかる筈がない。だが唇を閉ざしてジタンだけを睨むように痛いほど見つめる。

「どうして無関心なのさ。いつもの君ならクサい台詞を吐きかけるはずでしょ」

この美貌ならカオスでもコスモスでも注目を浴びる、そう自負しているのはナルシストなクジャらしい。
女好きなジタンが完全に無関心なのが腹ただしくて。だけど言ってしまえば悔しいだけで。つまりはそういうことらしい。

「つまり。"オレに"口説かれないのが不愉快だと」
「君の頭の中を一度覗いてみたいものだね。さぞかし愉快でおめでたいだろうに」
「そんな言い方されたらそう考えるのが妥当だろ」
「理解出来ないよ」

不愉快だ、と鼻を鳴らすのは気にしない。やっと解放されたし身軽に体を起こし柔軟体操を開始する。

「とにかくオレは行くぜ。部屋にいてもいいから」

跳ね起きたと同時に扉が開き名を呼ばれたものだから、驚いて勢い任せに扉の外へと転がり出てしまった。鼻先に当たったのは柔らかいもので、見上げれば形のいい膨らみと長い金髪が見えた。

「素材集めには代わりに行こう」
「どうしたクラウド?」
「体を動かしたくなった」

なんというタイミングか。勝手にメモだけを拾って廊下へ消えていった。その足音は、2人分。
これを機に、と押し付けられる胸。衣擦れの音と再び首に回る腕がジタンを震えあがらせた。

「残念だったね。もう逃がさないよ」
「 ・・・・・・はぁ」

運命の女神様はこの我が儘な女王様に微笑んでいるらしい。楽しそうに、それはそれは楽しそう笑う銀髪の女神に見とれてしまえば、熱視線がうざったそうである。
次の瞬間には悪巧みを思いついた顔を浮かべて耳元に唇を寄せた。

「や、止めろよ!」
「恥ずかしいのかい? 顔が真っ赤だよ」
「変なことするからっ」

ついに声を上げて笑われた。クジャは純粋に人をからかって楽しんでる。

「綺麗なのに、性格がもったいないぜ」
「ボクが綺麗なんて常識じゃないか」
「調子に乗るなよナルシスト」

体を回して向き直り、美貌を正面に見据える。

「仕返し」

唇を短く重ねれば、次こそクジャが赤く染まった。
構ってほしいのなら存分に構ってやろう。押し倒して尻尾を振ればため息と共に腕が首に巻き付いてきた。

+END

++++
ジタクジャ百合が書きたかったのに皆被害者

10.1.7
修正16.9.20

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