えふえふ | ナノ



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相変わらず混沌勢の塒である城は静かだった。警戒はしつつ、正面から入れば広間には誰もいない。流石に1人もいないのには違和感を覚え、4人は背中に周りを見回すと柱の影から誰か現れた。スキップをして鼻歌はを歌うケフカはすぐに侵入者に気がついた。

「あれあれ、迷子の迷子のネズミちゃん達かな?」

からかうような言葉はいつも通りだがやはり違和感がある。

「他の奴らはどうした」
「みーんな引きこもりっ! いつも通りだじょー」
「何か変化はないか?」
「変化? 知っらなーい!!」

ぴょんぴょん跳ね回るピエロからは変わった感じはしない。いや寧ろもともと厚化粧だからわからないというべきか。

「お前は女になったりしてないのか?」
「はぁ? そんなどうでもいいこと気にしないから知らなーい。でも体がいつもと違う?」

どうでもいいことでは決してないが、破壊以外は興味が完全にないのだろう。今頃くるくる回りながら自分の姿を眺めている。

「お前たち、どうした?」

振り向けばゴルベーザが近づいてくる。いつもは低い声も、今は高くなっている。これで確信した。影響はこっちにもあると。

「なぁなぁ、素顔見せてくれよ素顔!!」
「はは、それは勘弁してくれ」
「セシルの兄ちゃんもってことは、カオス側も性転換事件が起こってるのか?」
「ふむ、ならばそちらもか。セシルは無事か?」
「元気は元気だぜ」

落ち着いているのは年齢のためか、ボスとしての風格か。このままでは子供たちが話し込んでしまいそうなのでスコールが話をきりだした。

「アルティミシアを知らないか」
「私も探しているが姿がなくてな」
「そうか」
「あ、他のメンバーは? 美人いるんじゃねぇ!?」

喜々として訪ねるジタンだが、下心が丸わかりだ。呆れるスコールと笑う2人に反し、ゴルベーザは真面目に答えた。

「鎧を着ていてわからないぞ。暗闇の雲も探せばいるが、セフィロスと皇帝は見ていない。ジェクトとクジャはまだ寝てるぞ。」

クジャ、という名にバッツとティーダが過剰反応を示したのをジタンは見逃さなかった。慌てて身を翻せば2人がかりで拘束されてしまった。

「ジタン、クジャを起こしに行ってやれよ!」
「や、ヤダね!! 誰があんな奴っ」
「クジャは元々中性的だし美人だろ」
「私からも頼む。パニックを起こしそうだからな。諌めてやってくれないか」

ゴルベーザに言われては仕方がない。渋々頷けば、友人たちは楽しそうに笑い合う。
スコールは今日の異変によりゆっくり眠れなかったらしい。欠伸をもらして止めてもくれない。

「もし男のままだったらオレ、貞操の危機じゃん。心は男なのによぉ・・・・・・」

しかし一度引き受けてしまえば断れない。垂れた尻尾を引きずりながら、バッツとティーダを引き連れて歩きだす。
スコールはそれを見送るとゴルベーザと共にアルティミシア探しを開始した。


***


何度か連れ込まれたから部屋の場所は知っている。迷わず彼の部屋の前に来たが問題が1つ。

「魔法で鍵かけてるぜ」

「戻るか!」と嬉しそうなジタンを捕まえ、バッツが鍵にデスペルをかける。アッサリと解錠してしまうとニヤリと笑う。

「・・・・・・わかったよ」

覚悟を決めて静かに部屋に侵入する。ベッドの上には丸い塊。未だ規則正しい寝息をたている兄にそっと近づくと、それが嘘だったかのように止まり目が開かれた。

「誰だい? ボクの安眠を妨害するとはいい度胸だね」

眠りが浅かったのか、はっきりした声で胸ぐらを捕まれた。寝起きは最悪らしい。
だが予想と違う者が見えた瞬間に珍しく驚いた表情を見せた。

「ジタン?」
「よぉ」
「何しに来たんだい。こんな朝から」

低血圧なのか反応が薄く動きも遅い。だが一応宿敵の前でのうのうと寝てられるほど精神は図太くないらしい。
起き上がると欠伸を漏らし、しょぼしょぼした瞳をこすりジタンを見た。

「うわ・・・・・・」

薄い服装で温かい布団にくるまっている姿は矛盾している。そんなことはどうでもいい。細く豊満な胸を揺らしながら目をこすり涙を浮かべてくる美女。思わず顔が熱くなってしまう。
美人は認める。だが性格が問題なのだ。ため息をつくと耳聡く聞きつけて睨みつけられた。

「何さ人の体ジロジロ見て。いやらしいね」
「気付いてないならいい」
「意味が分からないーーー」

初めて自分の体の変化を目の当たりにし、驚愕に固まる表情。完全パニック状態なのだろう、わなわなと震えて体を光が包む。トランスだ。
怒りではないが、似たような感情の高ぶりが起こっているのだろう。
しかし今では逆効果。トランスのお色気な格好に目のやり場が困ってしまう。

「落ち着け。体に害はないから」
「君の仕業!?」
「違う。オレらも困ってるんだ」
「さ、触らないで!!」

毛が逆立ち伸びた手を強く拒絶する。

「ボクを襲うつもりで来たの!?」
「オレは今女の」

「子だって」と言いかけて飛んできたファイガを何とか避ける。完全に我を忘れ、力を制御できない彼女に近付けるはずがない。扉から2人も焦って手招きし、刺激をせぬように扉を目指した。
結局魔女は見つからなかった。スコールはケフカの玩具にされてしまい、短かった髪はポニーテール。ご丁寧にリボンで括られてどこからどう見てもクールな女の子。ゴルベーザは優しく笑うだけで止めず、加わった暗闇の雲により着せ替えられるところだった。

「スコールが襲われてる!」
「お、お邪魔しましたっ!」
「待て自然に帰ろうとするな。ジタンはなんだそのキラキラした目は」
「案外可愛いじゃん」
「よし、お主も手伝え」

不吉な言葉にスコールは覚醒した。悪乗りしたジタンを押しのけ完全に性別がわからなくなった暗闇の雲から逃れ、そのままコスモス陣へと全力疾走。ここまで取り乱すスコールも珍しい。

「待てよー!」

その後を三人も急いで追いかけて行く。

「ふむ、もう少しだったのだが」
「それより魔女を知らないか」
「儂は関与しておらぬからな。知らぬ」

退出した暗闇の雲を見送ると、再びホールには静寂が戻ってきた。


***


「フリオとクラウドは?」
「クラウドはセフィロスとどこかで戦ってるんじゃない?フリオニールは王様についていったよ」
「入れ違いかぁ」

状況報告を終えれば、オニオンナイトとティナが迎えてくれた。成果はなかったことを伝えると、短く頷き労いの言葉をかけてくれる。どうなってもティナは優しい子である。

「しばらくこのままなら待つしかないかぁ」
「そうだな。今日は花が多いから目の保養だ!」
「フリオは大変ッスけど」

余談だが同時刻にフリオニールが皇帝の方を向きくしゃみをしたため、疎まれたらしい。

「今さらだけどさ、バッツって結構胸でかいよな」
「そういう言い方デリカシーないよ」

ティナを盗み見てジタンを睨むオニオンナイト。ティナは相変わらず笑顔でオニオンを抱きしめている。

「普通じゃね? ティナもこのくらいだろ」
「オレ達ないけど」
「知らねえよ」

バッツが笑うどさくさに紛れて好奇心で手を伸ばす二人。そんなセクハラも、相手は元男だと遠慮がなくなる。

「ちょっお前らやめろよっ、つつくな!」
「柔らかい〜っやっぱりレディはいいな!」
「本当だ・・・・・・」
「やるならウォルにしろよ!!」
「ウォルはお堅いし無理だろ」

そのウォーリアはコスモスを探すため、姿が既になかった。セシルもいつのまに出かけたのかもういない。残されたスコールに悪寒が走る。

「じゃあスコール」
「それもダメ。スコールは俺のだ!!」

バッツが後ろから勢いよく抱きつき、胸を触る。堂々としたセクハラに虚をつかれ、抵抗を開始した。

「は、離せ!!」
「結構あるじゃん♪」
「ひっ」

出た声に顔を赤らめライオンハートを抜くと柄で思い切りバッツの脇腹を打った。これは痛いに決まっている。呻き声が短く上がりその場でしゃがみこむバッツを、やり過ぎたかと心配そうに見下ろしていたのは僅かの間。「自業自得だ」と彼ら、いや彼女らの魔の手が届かないところへ逃げてしまった。

「やり過ぎると嫌われるッスよ」
「いてて・・・・・・待てよスコールーっ!!」

全く懲りる様子なく彼女を追いかける楽観主義者に2人は顔を見合わせ苦笑した。これ以上見せつけられるものごめんだ。
仲良く寄り添って眠るティナとオニオンに毛布をかけてやってから、互いの部屋に帰ることにした。



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