えふえふ | ナノ



奇妙な二人旅

※\のネタバレあり


どうしてこうなったのか、ともう何回自分に問いかけただろう。
自分を含め、一行は戦争のや全ての事件の元凶である男を止めるためデザートエンブレムにきたはず。なのにまんまと罠にはめられてしまい、仲間は捕虜に。そして仲間の命との交換条件のお使いに繰り出されたのだが。
何故かお使いを押し付けてきた男一一クジャと一緒にいる始末。
銀竜の背に乗せられ、深く溜め息を吐くと不機嫌な目と視線がかち合う。不機嫌不満なのはこっちの筈だが。

「なぁ、オレのお使いになんできたんだ?」
「君が逃げないように見張るためさ」
「仲間を置いて逃げるはずねえだろ!?」
「へえ、ご立派ご立派」

クスクスと嫌みに笑い銀竜の頭を撫でて下へ降りるように命じる。やっとついたという謎の開放感と、これから大変であろうことに深い深い溜め息をついてクジャの後へ続いてウイユヴェールへ足を踏み込んだ。
中は見慣れない文明のものばかりで、不思議な文字や謎の説明や歴史などジタンを混乱させるものばかり。クジャは周囲に見向きもしない。それはいいが問題は後ろの存在だ。

「銀竜まで来てるけどいいのか?」
「一人にするわけにもいかないし、念のためだよ」
「念のため?」
「気にしないように」

誤魔化すように咳払いをされては更に気になるのだが、早歩きになられてはついていくので精一杯だ。途中で遭遇するモンスターは厄介なものばかりで、特に石像モンスターをクジャは必要以上に避けたがる。
今まではとんずらや応戦だけでチキン戦法もいいところだ。いいご身分の奴は銀竜の側でボーっとしているし、酷い時はさっさと逃げるわ命令してくるわいい迷惑である。
見張り、というより嫌がらせだ。このままやられるのを見届けに来たんだ、そうに違いない。

「どこまで行けばいいんだよ・・・・・・」
「もう音を上げるのかい?だらしないねぇ。今までどこをほつき歩いていたのやら」
「戦闘に参加してないクセに偉そうに・・・・・・」
「それじゃあ君への"お使い"の意味がない。ボクが本気を出せば一瞬に決まっているだろう」

銀竜の背中で寛ぐクジャを睨んだところで動く男ではないのは容易に想像がつく。そんな素直な奴ならここまで苦労しないだろう。
回復出来る仲間、いや女の子という癒やし系がいないため体も心もバテてきた。せめて体だけでもとポーションをと一本は自分に、もう一本はクジャへ投げ渡した。お礼で返されるなんて思ってもいない。余計はお世話と突っ返されるのは予想通りで笑えるくらいだ。

「施しはいらないよ」
「何もしない上に足引っ張られたらたまらねぇだろ。怪我してるクセに」
「・・・・・・チッ」
「飲め。それとも飲ませてやろうか?」

嫌みを込め口にポーションを含んでやれば、痛いものを蔑む視線が突き刺さる。
冗談だと手をヒラヒラ振って飲み干せば、未だに警戒しながら飲んではくれた。
何もしないと言うのに先程の悪戯に予想以上の精神ダメージを受けたらしい。了承されていたら確実にジタンもメンタルポイントがごっそり持っていかれただろうが。

「さて、行くか。もうお前は入り口で待ってろよ。見張りなら銀竜でいいだろ?」
「口の聞き方を気をつけな。君が逃げるかもしれないじゃないか」
「銀竜がオレの言うことを聞くのか?」

主人の命令がないから攻撃はないとはいえ、こちらをずっと見つめる目は怖い。こんな奴に言うことを聞かせるなど出来る気がしない。
だがクジャも行くと言って引かない。やれやれとため息をついて、ふと感じた殺気に体が勝手に動いた。クジャの腕を引き銀竜から落ちる寸前に抱き止め、後ろへ飛ぶ。
敵を肉眼で確認したが、見えたのは銀色の髪。不敵に笑う口。今腕の中にいるはずの人物が目の前で笑っていた。

「クジャ・・・・・・なのか?」
「チッ、仕方ないね。このままでいい、走れ!!」

状況は飲み込めないが、今までの勘でわかる。
こいつはヤバい。
体格のわりに軽い体を抱えなおし、駆け出した。少し振り返ると銀竜の叫びが聞こえ、首に腕が巻きついた。
安全な所に身を隠し、荒く息をつく。一服したところ銀竜がいない、そう気づき勝手に元きた道を戻ろうとした体を止めたの一本の腕だった。

「行くな。命令だ」
「?」

睨みながら絡みつく腕の力を強めていく。どちらかというと一人の方が好きだろうに、自分なんて近づけることすら嫌なクセに。

「もしかして、お前」

戦うところは見たことないが、一連の流れと彼の装備を見てやっと気づいた。明らかに接近戦には不向きな装備と戦闘に参加しない。武器が見当たらないのは使えないのか。
それに先程から一切の魔法も使用していない。銀竜は彼護衛、自分は盾、そういうことだろう。
弱点を知られたことに気づき、腕を離し距離をおくクジャ。ふうとため息を吐くと逃げる手を優しくとった。

「今お前を倒せば、城の仕掛けがわからなくなるからな。・・・・・・不本意ながら守ってやる」
「不本意なのはボクさ」

(美女だと思えば、気は楽かな)

そう自分に言い聞かせた瞬間、股間と胸に目がいき赤くなってしまった。
誤魔化しきれない熱を隠すように勢いよく手をひき、そこからグルグストーンをとったところまでの記憶が曖昧だった。

「誰でも"自分自身"と戦うのは嫌だろう?」

グルグストーンが手に入り、誰も聞いてないのにクジャは口を開く。上機嫌なのだろう、心なしか表情も緩んで見える。

「あの石像は相手の姿を写し取る。能力、口調…挙げ句自分が"本物"になるため本物の人物を消す。言わばドッペルゲンガーなのさ」

だから先程から必要以上に逃げたがるのか、と納得したと同時、先に言えという怒りが沸いてきた。
もし死んだらどうしてくれる。それが目的の一片かもしれないし、そうでなくとも焦った顔を見てそれはそれはいい顔で嘲笑ってくれるだろう。

「それに奴を見てると、人形を見てるみたいで虫酸が走るんだよ。まるで・・・・・・いや、君には早いか」
「どういう意味だ」

茶を濁したと思えば嫌みを言われてしまった。

「いずれ自分の力で知ることになるだろうね」

子供扱いするように頭を撫でられ、クスクスと笑い出す。綺麗とは言い難い嫌な笑いには悪寒が走ったが、銀竜の声で我に返った。

「銀竜を引っ込めて離れとけ」

銀竜の前に出て、まずは本体を狙う。しかしドッペルゲンガーに攻撃されてはうまく近づけない。本物のクジャは魔法が使えないのに相手は使えるという状況のなんと不公平なことか。本人を目の前に切りにくい、というのもあるが相手の動きのせいで切りにくいものある。
そう時間をかけているうちに、何か重い扉の開く音。反射的に金の針を刺してやれば、石像としての形を保てずに崩れ落ちたが間に合わなかった。おまけに本体さえ潰せばいいという淡い願い届かず、敵は二人に増えてしまうし、どうしようもない。
確かに自分自身が目の前にいる状況は何ともいえない嫌な気分になる。自身と似て異なる者、まるで趣味の悪い鏡を見せられているような。
ふと、視界に影が落ちた。視線を上げれば自分の顔。そういえばデス魔法を使ってくるとかなんとか、クジャが言って一一

(ヤバい!!)

思考を働かすのは秒単位だっむが遅すぎた。
目の前に死に神が現れにんまりと口と刃が弧を描いた瞬間、間に銀竜がわけ入った。刃は竜の羽を掠め、魔法は発動しない。このチャンスを逃すわけなくドッペルゲンガーを切り捨てると霧のように消えていった。
一難終えてまた一難、もう一人のドッペルゲンガーは自分の"光"に対象を移してジリジリ迫っていた。気丈に睨み返すクジャでも応戦できなければ動物の威嚇に過ぎない。敵に向き合うように間へ体を滑り込ませ、闘気を解放して目を塞ぐ。

「行くぞ!」

無言の彼の手を引き、銀竜に合図を送り二人と一匹は入り口まで駆け出した。掴んだ手は振り払われることもなく、お喋りな唇から悪態や暴言が吐かれることはなかった。
久しぶりに日の光を浴びることが出来たらのだが、言いたいことが山ほどある。嵐の前の静けさと言える笑顔と沈黙の後、耳をつんざくような声を張り上げて怒鳴ってやった。

「お前っ!! こんだけ危険があるなら先に言えよ!! お前のことを含めて!!」
「君に言う義理はあるのかい?」
「あるよ、おおありだ!! 下手してたら全滅だったろ!? こんのバカ!!」
「口には気をつけろと言ったはずだよ」
「どう言われようがこれだけは言わせてもらうぞ!! いいか、どんな奴であれ守るって言ったら守るのがオレのモットーなんだ!! 無理はすんな!!」

身を竦ませてながら嫌そうな顔をしたクジャだったが反論はなかった。一応反省はしてくれたのだろう。一気に力が抜けて座りこんむとクジャが目の前に座り込み、傷口に手をかざし淡い光を放った。

「勘違いしないで。恩の売られっぱなしは気分が悪いだけだよ」

ケアルガだと理解した時にはもう傷は残っていなかった。目を細めて立ち上がるよう急かされ、ぶっきらぼうに答えてやる。

「行って帰るまでがお使いだ。ちゃんと働いてはいたようだから、責任をもって送り届けてあげるよ」
「一々ムカつく言い方だな」
「カンに触るようなら置いていってもいいね。ボクもそっちがいいし」
「はいはいありがとうございますー」

せっかく棒読みで嫌みを言ったのに無視されてしまった。これではバカみたいではないか。銀竜に乗り込む彼の背中を睨んでいれば、振り返り、ため息、そして差し伸べられた手。せっかくだし握り返せば引き上げ、抱き留められた。
男に抱き留められたというのも問題なのだろうが、それよりも強い恥辱が湧き上がる。

「離せよ!!」
「仕返しさ」
「意味わかんねぇ!! 早く離せ!!」

腕の中で暴れているうちに拳が幾度か顎や脇腹に入り、ようやく抜け出すことに成功した。唸っている気がするが、自業自得と言い切っても差異はないはずだ。少しは感謝しているが。

「ボクの機嫌がよかったことに感謝しなよ」
「悪かったな」

素直に謝ると、銀竜が短く鳴いた。頭を撫でてもらっていることが嬉しいのか、短く澄んだ鳴き声はすぐ激しい羽音にかき消されてしまった。

+END

++++
クジャはジタンに助けられ、触れ合いで心に何かが芽生えました。ジタンは自分の誤爆妄想により変なところで意識してます。
こんな感じ

10.7.11
修正16.9.14

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