えふえふ | ナノ



真実は君の中

※012


「へ? 惚れ薬?」

ティーダは耳を疑った。またそんな古典的な、いやピンポイントな嫌がらせをする薬が存在するとは思えなかったからだ。
惚れ薬は確か、飲んだ者が最初に見た相手に惚れてしまうという薬だったはず。おとぎ話やファンタジーじゃああるまいし、果たしてそんな便利な薬がこの世の中に存在するだろうか?

「誰が? 誰に? どうやって?」
「また道化と死神だ。被害を食ったのはあの金髪の兵士だ。」
「クラウドが!?」

ケフカとクジャとは珍しい組み合わせである。ケフカはティナにしか興味がないし、クジャはジタンに執着していると思っていたが、よもやクラウドにも手を出すとは。一体何が目的なのかはわからないが、予想外のことに上擦った声が出てしまった。

「まあ、本当に効き目があるのかはわからないがな。気をつけるにこしたことはない。」

「伝えたからな」と去っていくガブラスに適当に手を振ることで返事はしたが、内心は嵐のように波風が立っていた。

(よりにもよってクラウドが……)

慌てたところで何も変わらないのはわかっている。うろうろと同じ所を行ったり来たりしていると、後ろを颯爽と通る人物が目に映り思わず足を止めた。
向こうはティーダに全く気づいていない様子で、急いでいるのは目に見えてわかる。今は少しでも情報が欲しい。藁にすがる思いで駆け寄って声をかけた。

「セフィロスじゃないッスか」
「貴様か小僧」
「ご挨拶ッスね」

相も変わらず無愛想な態度。今日は不機嫌に寄せる眉が追加されているのはさしずめクラウドを探しているのだろう。お気に入りが面白いことになっているのだ、そりゃあ誰だって血眼になって探す。
睨み合う時間も勿体ないとまた駆け出したセフィロスを呼び止めると不機嫌そうにしながらも律儀に足を止めた。

「クラウドはどこに行ったんスか」
「それがわかれば私も探す手間が省ける」
「だよなぁー」
「用がないならもう話しかけるな」

ぶっきらぼうに言い放った瞬間に遠くで爆発音が聞こえた。肩を跳ねさせて振り返れば、黒い煙が途切れずに上がり続けている。ティーダの興味が別に移った隙にセフィロスはどこかへ行ってしまったが、それどころではない。きっとまた誰かが私闘を始めているのだろうが、クラウドのヒントが得られるかもしれないと思えば居ても立っても居られなかった。
急いで簡単な屈伸をするとそのまま一気に駆け出した。




「ああ、失敗だ。今まで見たことのないような駄作だ。君がこの程度もできないとは予想だったよ!」
「なんですかぁ〜? 自分に力がないのを人のせいですかぁ? 1人も満足に壊せない癖に、なーに吠えてるんですかぁ?」

爆心地に居たのは、事件の現況であるクジャとケフカだった。魔力を手に集めて怒り狂うクジャと、嘲笑うように空中に寝そべるケフカ、2人の間には虚ろな目の人形のような少女がいた。この場所に居る少女はティナしかいない。
仲間割れかなんだか知らないが元凶が揃っているのならちょうどいい。第二波の魔法がぶつかり合う前に、慌てて3人の間に分け入った。

「はいストーップ。ちょっと聞きたいことがあるんスけど」
「なんだい、子犬君じゃないか。こっちは今忙しいんだ、後にしてくれないか」
「そうはいかないんスよ。クラウドはどこだ」
「クラウド?」

聞き慣れない単語を聞くように首を傾げる2人にため息をつく。仲間だと思っているのは一部だけで、大体は名前と顔すら一致しない状態である。しばらく置いてけぼりにされているティナを見つめていたが、首を捻っていたクジャがしばらくして「ああ」と短い声を上げた。

「さっき実験につき合ってもらった戦士か」
「そう! 金髪の!」
「彼なら消えたよ。被検体を逃がすなんてどんな神経をしているんだか」

イヤミに言うとギロリとケフカを睨みつける。再び喧嘩が始まりそうになったが、まだ聞きたいことはある。手を乱雑に叩いて気をそらせば億劫な視線が集まった。

「どこに行ったかわかるか?」
「はぁ? 僕が知るわけないだろう」
「しーらないっ! 消えちゃったものは消えちゃったし、仕方ないじゃないっ」

いい加減なことを言い互いに牙を剥く、もう問答も出来ないだろう。地道に探しにいこう、と踵を返せば服が弱い力に掴まれた。またあの2人か、と睨みつけるように振り返ればそこには少し困った表情を浮かべるティナがいた。

「ごめん。どうした?」
「……あっちの方向に行ったわ」

ティナが指差したのは秩序の陣営がある方向だった。混沌の戦士よりは幾分ましだが、敵の戦士にクラウドが接触するのはまずい。薬の効力など聞きたいことは山ほどあるが、大げんかを初めて魔法をぶつけだした2人に話を聞く余裕などない。ため息をつくとティナに礼をいい、武器を構えると慌てて駆け出した。


***

星の胎内、魔列車、秩序の聖域近く。どこに行っても見覚えのある金髪は居なかった。一体どこへいったのだろうか。段々急いてきた気持ちを抑えるので精一杯だった。
もしかしたらもう誰かに捕まってしまったのかもしれない、惚れ薬のせいでいいようにされているのかもしれない。想像するだけでぞっとした。
セフィロスだけではなく他の誰かもクラウドを狙っている可能性は0じゃない。そう考えるだけでももつれそうな足を動かすことができた。
見つけた。やっと見つけた。ツンツンと尖った金の髪の毛を。
故郷のような安心感を覚える、ザナルカンド。その中央の巨大な剣が刺さった場所で、空を見上げていた。

「クラウド、ここに居たんスね……」

名前を呼べば、慌てた様子で振り返ってきた。その目には白い包帯が乱雑に巻かれている。きっと彼自身がやったのだろう。少し不器用なところが彼らしいと言えば彼らしい。

「ティーダ、か?」
「そ。俺。まだ誰も見てないッスか?」
「事情は知っているようだな」

肩から力を抜いた姿に少し安心した。まだ大丈夫、それだけわかれば今はいい。近くまでよると、傍に座り込む。横に座ることを促せば様子を伺うようにいて隣に座ってくれた。

「ここにいたのはなんで?」
「いや、特に意味はない。変な奴に見つからないようにした結果だ」
「誰か、待ってたんじゃなくて?」
「待っていた……そうだな。待っていたのかもしれない」

その言葉にもやもやが大きくなる。この場所はティーダの記憶と関係のある場所であるが、同時に宿敵のジェクトの思い入れのある場所でもある。一体誰を待っていたのだろう、ジェクト? それとも別の誰か?
そう考えるだけでむしゃくしゃする。この感情の正体はわからないし、検討もつかない。だが心は素直だった。勢いよく手を掴むと肩が跳ねた。

「なあ……俺にしておかねえ?」
「は?」
「悪いようにしないからさ」

別の誰かを見るくらいなら俺を見てほしい。それがティーダの本心だった。
誰かと一緒にいるところを見るだけでいつもむしゃくしゃした。悔しくなった。セフィロスと一緒にいるのも見て耐えられなかった、邪魔したいと思った。
今なら、見てもらうだけで彼のことを独り占めできる。他の誰にも渡さないで澄む。その一心での訴えだった。
勿論急に言われても困惑するだけだ。混乱するクラウドはなかなか首を縦に振らず、それどころか距離を置こうとしていた。

「俺を見ろよ」

自分でも恐ろしいほど低い声が出た。脅しているような迫力だが彼は微動だにしない。
気まずい沈黙が2人の間を流れる。ただ静かに舞う魂たちが時間が流れているのを教えてくれていた。
ゆっくりと、包帯が落ちていく。その光景に目を剥くしかなかった。

「いいだろう」

予想だにしなかった答えに見えた青い瞳。真っ直ぐティーダを写すと逸らすことなく緑の目を見つめ返してきた。
いつから、この目に捕われていただろうか。きっとこの気持ちに自覚するもっと前から捕まっていたのだろう。親であるジェクトに執着してしまうのは構ってほしいため。ならばクラウドに執着してしまうのは?
構ってほしいとは違う、見てほしい、一緒にいてほしい、好きになってほしい。幼稚に見えてどす黒い感情が渦巻いては消えて、まるでこの場所に漂う光のようにはかなくつかみ所はない。
何も言わない彼の頬に手を伸ばせば薄く唇が開かれる。
重ねてみたい。そう思ったが最後、静かに乱暴に唇を重ねていた。

「今更ッスけど、クラウドは好きな人はいるのか?」
「さあな」

惚れ薬の割には淡白な答えに違和感を覚えた。もしかしてあの薬は偽物だったのかもしれない。そうではければこんな淡白でいつも通りなわけがない。

「そっか、そうだったのか」

悪戯好きな2人に振り回されたのは癪だ。しかしクラウドが無事でよかったとも思う。1人勝手に納得をして大の字に寝そべって笑い声を上げると、不思議そうな顔をした彼も一緒に笑う。
そんな仲つむまじい2人を遠くから見つめている影が合った。

「ホラ、あの2人は面白い実験対象になるだろう? 心がどうやれば利用出来るかよくわかる」
「ちぇっ。あの金髪君もティナちんみたいに素質があると思ってたんですけどねぇ」
「ふふん。感謝だけはしてあげるよ。さあ約束だ」
「……同じ薬を”真面目に”作ればいいんでしょう? ハイハイわかりましたよーだ。あーあ、ツマンナイツマンナイっ!」

悔しそうに喚くとケフカは闇にまぎれるように姿を消した。
残されたクジャは勝ち誇った笑いを浮かべて2人を見下ろす。

「眠った姫を起こすのは、いつでもナイトの役目さ」

+END

++++
最初から惚れてたら惚れ薬なんて関係ない

16.9.8


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