えふえふ | ナノ



「俺の嫁を紹介します」1

※皇帝女体化
※フリオ童貞説
※キャラ崩壊万歳
※皇帝=マティウス表記にしてます




睨んでくる顔は可哀想なほどに赤く、目は涙すらためていた。
強くて、暴力的で、敵で。吊り目で、身長はフリオニールの引けを取らない。
だから思ってもみなかったんだ。
“皇帝”が女だったなんて。


胸を抑え、マントにくるまって踞る姿に、ただただ思考が停止して慌てるしかなかった。獣が威嚇するように睨みつけ、犬歯すら見えている。
幸いというか不幸というか、決闘をしていたパンデモニウムには2人だけだった。
破れた衣服の男女2人。それに、女の方は恥辱にまみれた顔をしている。これは第3者からよからぬ誤解を受けてしまう。赤面する顔を振りながら、何も考えずに近づこうとしたのが悪かった。間が悪いというかなんというか、心配になったティーダが走ってきたのだから。

「大丈夫かフリオニール!」
「まっ、待て! ティーダ、来るな!」

パニックになって正常な判断が出来なかった。慌ててマントを脱ぐと、綺麗な金と白を覆う。ぼこぼこと変形するマントを見ながら跳ねる心臓を落ち着かせて告げる。「早く行け」と。
敵に情けをかけられるなんて屈辱もいいところだ。仲間たちがそんな奴だとは思わないが、力を使い果たして抵抗もできないボロボロの女が、敵である男たちの中にいるのはいただけない。
不機嫌で困惑した紫の目がマントの影から覗いたのも知らず、ティーダからの視界を自らの体で塞ぐ。
これでいい。これでいいんだ。
自分の宿命を終わらせるチャンスだったが、真実を知ってしまっては手を出すことも出来なくなってしまった。女に対する情けなんて今更持ち合わせていない。だが、無抵抗な相手を手にかけるなんて出来ない。ましては、怯える女。敵でも躊躇ってしまうのが男というやつだ。
ティーダは素直に足を上げて走り出すポーズで静止していた。きっと“皇帝”の罠があるとでも思ったのだろう。笑いながら「もう大丈夫だ。帰ろう」と告げれば屈託のない笑顔を向けてくれた。
振り返らないように歩き出す。後ろで白い顔を赤く染めて唇を噛み締めた女の姿に気づくことはなかった。



もう、決着はついたのかもしれない。手には終戦の証である紫色のクリスタルが輝いている。それでもまだもやもやとした感情が胸の中を渦巻く。
次の日、1人パンデモニウムに赴き感慨に耽っていると、高いヒールの音が響いてきた。
徐々に近づいてくる音に身構えていると、予想通りの人物が現れる。

「……どの面を下げてきた」
「いや、お前がいるなんて思わなくて」
「城に異物が入り込めば偵察にくるだろう」

異物扱いされたのは悔しいが、相手が誰かもわかっていたのかもしれない。そう思えば、顔を出してくれたことを嬉しく思う。そこでふと、違和感を感じた。いつもは全身金色で、煌びやかな皇帝に違和感を覚える。服が違う、ではなく、なにか。

「あ、そのマント……」

体を覆うように巻き付けているのはフリオニールが愛用している青いマントだった。

「貴様が献上したものだろう」

投げ渡されるかと思ったが、くるまって離さないとは意外だった。隠していたのかはわからないが、性別が知られて体を見られるのが嫌なのかもしれない。マントは用意してきたし、返してほしいとも思わない。ただ自分の使っていたマントに女がくるまっていると考えると体が熱くなった。
少し裾が余って引きずらないように持ち上げているのが可愛らしい、とまで考えてしまう。「じろじろ見られるな」と更にマントを巻き付けて背中を向けられてしまった。
皇帝のことを女と認識してしまった以上、視線の意味も変わってしまう。極悪非道な人物には変わりない。だが美しさにも変わりはない。胸はプロテクターもあり目立たなかったが、腰は丸いし体型も丸いと今更ながら思う。マントをとって戦うとこになれば、きっと体のラインが気になって戦いに集中できない。今まで戦いに明け暮れて真面目を貫き通していた分、女の経験なんてないのだから。
またぼんやりと見つめてしまい皇帝から睨まれてしまった。

「あれ、皇帝。目が赤いぞ」
「……こんな状態でおちおちと眠れるか」

もしかして一夜をここで明かしたのだろうか。1人置いておくのは失敗だった、と慌てているとマントの中から汚れて破れた服が見えた。
思わず顔が赤くなる。一度意識してしまたものから気をそらすことは難しい。ねぎらいの言葉をかけても素直に受け取る相手ではない。しかしこのまま放置しておけば、いつ男に襲われるかもわからない。
他の皆は女であることを知っているのかもしれない。しかし知らないかもしれない。わからないのならば、知らないという経緯で策を練るべきだと判断した。

「誰も来ない隙に戻ろう」
「よくたまり場にされて不愉快なのだ。奴らの行動などわからん」
「なら、服だけでも俺が取ってくるから」
「私の部屋に入るな、馬鹿者」

赤く逸らされた顔を見て真意を悟った。
女の部屋に男が入るのはつまりはそういうことである。別にそんな意味では言っていないし、そんな感情を抱いたこともない。綺麗だとは思っても敵同士だし身分も違う。無理矢理押し倒そうものなら魔法で締め上げられてしまうだろう。悲しいが彼女に勝てる気がしないというのが本音である。

「じゃあ、どうすれば……」
「どうしても、というのなら貴様の……」
「……ああ、ティナのことか」

そうか。ティナに部屋に入ってもらおうという魂胆なのか。人間を駒だ虫けらだと罵る皇帝だが、同じ女ならテリトリーに入れることを許すのか。納得はすれども複雑な気分になってしまった。

「待ってろ。今連れてくる」
「何の話だ。貴様は阿呆か」
「ティナに部屋へ取りにいってもらうんじゃないのか?」
「私のテリトリーには誰も入れんぞ」

なんだか酷く安心してしまった。皇帝らしいというか、気位は揺るがないというか。敵の心配をするのはおかしいが、自然と頬が緩んでしまう。
それにまた顔が赤くなっていく。怒っているのだろうか、それともそんな格好のままで風邪を引いてしまったのだろうか。額に手を伸ばそうとすればはたかれた上に、蛇に噛み付かれた。追撃は予測していなかった。

「貴様の、服を貸せ」
「俺? 何故」
「秩序にいる女の服では合わん。そこまで言うのなら貴様の服を着てやる」

「別にそこまで言っていない」と言う言葉は飲み込んだ。神経を逆撫でしてまた乱闘に発展するだけだ。争う気にはなれないし、マントと服が破れるのは困る。素直に頷くと、頭を下げた皇帝がマントの裾を掴んできた。身長は少しフリオニールが高い。表情は完全に隠れてしまい、覗き込むことも出来ない。

「それと……綺麗な長い布も準備しろ」
「どうするんだ。も、もしかして怪我を」
「貴様、デリカシーを知れ」

睨み上げられた拍子にマントの中が暴かれて、白い肌が見える。金にも負けず劣らず、薄い色素。その一点に、丸いふくらみが2つあり影を作っている。思わず真っ赤になり、悲鳴を上げながら後ずさってしまった。

「それとも縛らない方がいいのか」

いつもの自信満々な彼女らしからぬ小さな声。虫のような声に耳を疑ったが、それよりも目を疑う方が先らしい。悔しそうに化粧の落ちた唇を噛み締め、必死に耐えている表情。
胸を腕で支える姿から皇帝も女なのだと再確認させられた。化粧をするのも彼女なりのアピールなのだろう。何故隠しているのかはわからないが、別のことで皇帝への興味がわいた。

「どうなのだ」
「わわ、なんだよ。」
「胸はある方がいいのかと聞いている」
「へっ? いや、ないよりは有るほうがいいんじゃないのか?」

勢いで言ってしまったのは悪気があったわけではない。ただでさえ気迫に圧されてまともな思考が出来なかったのだ。
ティナも結構あったし、やはり女性は胸があるにこしたことはない。男は誰だって胸が好きだ。それに何事も無いよりは有る方がいい。
鼻を伸ばして大きく頷いていると殺気を感じた。前には目を光らせて怒りを露わにした皇帝が。
相手はこのプライドの塊である王様だったのを忘れていた。
わなわなと肩を震わせる姿で我に返ったが、もう遅い。

「ちょっと来いッ!」

強い魔力で腕を拘束されたかと思えば、人とは思えない力で引かれてバランスを崩してしまった。それでも振り返ることなくおかまいなし。下手に抵抗をすれば魔法が飛んでくるのも目に見えている。体を引きずられながらもおとなしくついていけば、最上階の更に奥まで誘われる。
見慣れない廊下、見慣れない部屋。扉の行列の奥の、血のように赤く物々しい扉を乱暴に蹴り開けると、食われるように引きずり込まれた。
やっと解放されたと思いきや、バランスを崩して顔面から床へと倒れ込む。鼻を中心に痛むが状況を確認する方が先だ。
家具も少なく、寝台だけがある生活感を感じない殺風景な部屋。だが広さだけは十分。フリオニールの3人でもきつい部屋の10倍以上はあるだろう。走ろうとも寝転がろうとも自由だ。
状況を整理して我に返ることが出来た。
ここは、皇帝の寝室なのだと。

「いや、俺はそんなつもりじゃ……!」

寝室、男と女、2人きり。鼻から溢れそうなものを感じて、慌てて鼻を抑えてきびすを返せば、魔力の輪に足を拘束されてまた顔から床に落ちた。
床とキスをした状態で足を引きずられる感覚。ぬいぐるみか荷物と勘違いしているのかもしれないが、れっきとした人間であることは忘れてもらっては困る。

「おい、表を上げろ」

どこまでも女王気質なのは今更だ。億劫な気分で顔を上げると、ベッドに足を組んで座っている皇帝と目が合った。
スラリと長い足に、ピンクの薄い布。まるでスカートのような寝間着のような服にまた欲情してしまう。
「これ以上ここにいてはいけない」と理性が騒ぎ立てる。しかし足は動かないまま立ち上がることすら出来ない。
一体何をされるのだろうか。目を白黒させ顔色を赤に青に点滅させていると、皇帝が勢いよくマントをはぎ取った。
もう服としての役割を担っているのかわからない金の布に、皇帝が改めて赤面する。しかしすぐに目に鋭い光を宿して睨みつけられる。

「成長するかと思ったが一向に変わらん。なんとかしろ!」

何の話だろう、と思う前に目が勝手に胸を凝視してしまう。
そうだ、女性の胸の話をしていたら急に怒りだしたのだった。ならばこの話も胸の話だろう、それしか考えられない。
白くて、弾力がありそうで、でも筋肉はついていて。荒い息と視線に気がつき、腕で隠そうとするところがいじらしい。頬の筋肉が緩めば凶器のように尖ったヒールが額に食い込んでいた。
そうは言われてもどうしていいかなんてわかるわけがない。
まず破れた布を身にまとう白い裸体に視線を合わせるとこが出来ない。次に、女の扱いなど全くと言っていいほど知らない。元の世界の仲間である女性とは恋仲ではなかったし、それどころか戦いに明け暮れていて処理すらまともにできなかった。
そんな男に何を求めているのだろうか。全く理解が出来ない

「いてて、別にいいじゃないか。そういう人もいるだろ」
「貴様がのたまったことだ! 魔女や雲に劣るなど許されん!」

収まることの知らない怒りと一緒に魔力が渦巻き、大理石の床に亀裂を生む。
ベットも風ではためいていたが、すぐに魔力の嵐も収まった。昨日の傷がまだ癒えておらず、魔力が十分ではないようだ。
ならば魔力が切れた時にでも逃げ出せばいい。目的が出来た所で、相手の様子をうかがうと、しおらしく視線を逸らしているところだった。

「貴様はどっちがいいのだ。はっきりしろ」

顔を真っ赤に染めるところが可愛らしく、可哀想でもある。緊張に返事が出来ないで固まっていると、様子を伺うようにこちらへと視線が向けられる。

「俺は、別に胸よりも中身だし……」

こういえば一番無難だろう。本心だから間違ってはいない。
もしかして仲間である女に対して対抗意識が生まれてしまったのか。喧嘩をしたのか、何かきっかけがあったのかは知らない。それでも皇帝の人間らしい悩みにほっとする。
しばらくうさん臭い物を見る目をされたが、納得したようだ。短く「わかった」と答えるとおもむろに眉を寄せた。

「貴様……今更だが臭うな」
「そういや昨日は見張りだったから、戦ってそのままだったか」
「風呂に入れ。平民臭い」
「お前が先に入れよ。汚いのは嫌だろ」
「これ以上私の部屋に汚物を置きたくないのでな」

鼻を摘むのはさすがに失礼ではないだろうか。でも確かに臭うのは臭う。マントや鎧に鼻を近づければ強い汗と鉄の匂い。中など蒸れて大変な事になっているだろう。
億劫に杖を持つと、頭の部分で遠慮なく背中を押してくる。先に入れということらしい。そこまで言うならお言葉に甘えようと思う。
扉を潜ろうと思ったが、早速どこへ行けばいいのかわからない。右往左往していると、杖が肩を叩いて部屋の横にある銀の扉を指す。恥ずかしくなって早足で行けば、横目で笑いを堪えている皇帝が見えた。


**


戻ってくると皇帝の姿はなかった。
どこかへ行ってしまったのか、それとも他に浴槽があるのかはわからない。最早秩序の聖域の半分はある広い空間に驚きはしたが、身分を考えたら当たり前なのかもしれない。次は何を見てももう驚かない、広い浴場のおかげで変な耐性がついたようだ。
濡れて雫をたらした髪を乱雑にバンダナで拭いていると、ベッドの方から小さな声が聞こえた。

「皇帝?」

恐る恐る近づけば、ベッドの上で丸くなっている皇帝の姿があった。寝ているのだろうか、いや宿敵が近くにいるのに無防備を晒すなんてしないだろう。
近づきすぎて八つ当たり攻撃をされぬように距離を置いて眺めていたが、幼い寝顔に胸が高鳴ってしまう。

(綺麗、だな)

男の時から気になってはいた。
人ならざる美貌に男にしては高い声、白い肌。髪も艶がありいつもさらさらと風に揺れていた。
女とわかって心が揺らいだ。戦意が揺らいでしまい、昨夜は苦しんで見張りも厳かになっていた。女とは戦えない、そんなお気楽な事を言うつもりはない。だが彼女は別なのだ。
こんなにボロボロになるまで傷つけたのは紛れもないフリオニールだ。だからこそこれ以上は苦しめたくなかった。
痛々しい表情をしていると皇帝が身を捩る。どうやら浅いとはいえ眠ってはいるらしい。
フリオニールのマントをタオルケット代わりに巻き付ける姿は“皇帝”と言うには貧相だ。それでもフリオニールを煽るには十分すぎる魔力を持っていた。
思わず手を伸ばして頬に触れる瞬間。唸り声が上がり、瞼が開かれた。
真っ青になって固まる姿を凝視されていると思えば、寝起きとは思えないはっきりとした声が響いた。

「貴様、何故装備を着込む必要がある」
「防具がないと俺は魔法が得意じゃないし」
「意味がわからぬ。汚れた物を着るな、穢らわしい」

投げ渡されたのはゆったりとしたローブだった。装飾もないシンプルなものだが上等な品というのは肌触りでわかる。
また皇帝との距離を感じてしまい感情のまま握り締める。不審な目が向けられても気づく余裕もなかった。

「戻るまでには着替えておけ。壊しさえしなければ何をしていても構わん」
「奇襲してもか?」
「そ、それは風呂を覗く……ということか?」

赤くなる顔は女のものだ。恥ずかしそうに上目遣いをしてくる姿に、こちらまで恥ずかしくなって背を向けてしまった。

「貴様にそんな度胸がある訳がないか。おとなしくしていろ」

顔に影が落ちたのはきっと気のせいだ。新しい布を持って脱衣所へと消える皇帝を見つめ、やっと息をついて近くの椅子に腰掛けた。
今なら逃げられる。下僕の魔物やイミテーションもいない。皇帝も扉の向こうへと消えて衣擦れの音が聞こえる。
今扉を開けば、あられもない姿の女がいる。興味がないわけではないが、開ける度胸はなかった。傷つけたくない。悲しませたくない。ずっと頭に戒めの言葉が呪いのように渦巻く。
きっと、皇帝は虫けら程度にしか思っていないだろう。
それでもいい。敵としてでもいい、見つめてくれるだけで満足だ。欲を言えば、もっと触れ合って女としての顔を見たい、体ごと繋がりたい。
どんな声でなくのだろう、どんな顔で悦ぶのだろう。
胸は柔らかい? どこで感じる? 経験はあるのだろうか。
想像するだけで雄が痛いほどに腫れ上がり、借りたローブを押し上げる。

(……裸が見れただけでも運がいいか)

興奮した体を誤摩化すように目を閉じれば、意外にも睡魔はすぐやってきた。昨日から気を張りつめていた為に、自覚はしていなかったが疲れていたようだ。椅子から落ちないように腕を組むと、そのまま意識を落とした。

**


「おい虫けら。おい。寝ているのか」

高く澄んだ女の声に覚醒を促される。強く揺すられ、耳元に熱い息がかった。
聞き慣れた綺麗で低い声に鼻に馴染むいい匂い。ずっとこうしていたいと思ってしまう。

「……フリオニール」

甘く呼ばれた名前に、耳に感じる柔らかく熱いもの。身を捩らせてまた睡魔に身を委ねようとすると、いきなり股間に衝撃が走った。

「1人穢らわしい夢でも見ていたか」
「んっはぁ!?」

猛ったままの雄を掴まれてはさすがに目が覚める。
体を跳ねさせて奇声を上げれば「気持ち悪い声を出すな」と蔑んだ視線が返ってきた。無茶は言わないでほしい。今も布越しに擦られて背筋がぞわぞわするというのに。

「こ、皇帝。止めてくれ。処理してくるから」
「ほう。武器だけは立派なのはここも同じか」
「だからっ! 汚いから、出るから!」
「そうだな」

やっと解放してくれたが、先走りがローブを濡らしてしまった。怒りだすかと思い恐る恐る表情を伺おうとしたら、目の前には姿がない。
後ろからベッドが軋む音がした。もしや、と思って振り返れば寝そべる皇帝の姿があった。これは、もしや。

「出すならこっちだ」
「いや、あの……皇帝、様?」
「早く来い。私が直々に相手をしてやるんだ……焦らすんじゃない……」

これはきっと夢だ。ゴクリと喉がなった。
豪勢で妖しげなレースの装飾が施された豪勢なベッド。その上で胸元のはだけたローブを身にまとった裸同然の美女が横たわり誘っているのだ。
据え膳は男の恥。それでも最後の理性が抵抗する。
相手は皇帝、ここは敵の本拠地。何を仕掛けてくるかわからない状態で、おちおち隙を見せるのは自殺行為である。
なかなか動かないフリオニールをいぶかしんで、皇帝が首を傾げ不安そうな表情をする。こんなに表情豊かな皇帝なんて初めて見た。それでも理性で視線を逸らすと小さく名前を呼ばれた。抗えぬ魔力に惹かれるようにベッドへフラフラと近づけば腕を引っ張られてバランスを崩してしまった。
目の前には皇帝の端正な顔。押し倒しているとわかった時には動けなくなっていた。
見つめ合う男と女、互いに指一本動かせずにフリオニールの荒い息づかいだけが響いていた。

「いや、その、すまない」
「私では不服というのか」
「そんなことない! ど……いや、恋愛に慣れてない俺を倒す作戦なのかって」
「ふっ。利口になったな、フリオニール」

甘く優しく名前を呼ばれて頭を撫でられる。その柔らかい手つきに酷く安心してしまう。まるで母親に撫でられるような、大切な人と一緒にいるような気さえする。

「安心しろ。もう魔力なんて残っておらん。今すぐにでも眠って回復をしたいくらいだ。」
「寝ればいいだろ。女性の寝込みを襲えるほど俺は度胸がないし……」
「寝てしまえば、お前はいなくなってしまうのだろう」

寂しそうな声と表情にドキリとしてしまった。
皇帝は本気なのかもしれない。
本気で好いてくれて、本気で体を委ねようとしているのかもしれない。だが性的な目で異性を見た事はあれども、触れたことなど一度も無い。どうすればいいかなんて、書物による知識しかない。
皇帝がどれだけの経験があるのかはわからないが、リードしたいと思うのは威厳を見せたいがためだ。幻滅されてはこんな機会は永遠にこないどころが、雄を切り落とされてしまうかもしれない。
それでも触れたい。こうしたいと思っていたのはフリオニールも同じだ。
改めて覆い被さると熱い視線で赤く染まった白い顔を見る。

「皇帝……」
「“マティウス”と呼べ。命令だ」
「マティウス?」
「それでいい。フリオニール……」

ああ、これが彼女の本当の名前か。そう理解した時には、唇を深く奪われていた。



++++
次からただの裏ですが、これだけでもいけます

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