居場所
※先天的女体化
※ジタンとクジャは初対面
誰だろう、あの綺麗な人は。
第一印象、というには違うだろうが、まず最初に浮かんだのはこの言葉だった。
丸まり木にもたれ掛かって息をつく、見た目成人はしているだろう。元々お人好しなのはわかってる。気になって近づいてみることにした。
「大丈夫かい、レディ?」
近づくと女性だとわかった。ずいぶんと露出の高い格好をしている。しかも短い上着から見える豊満な胸や細い腰に、男の性で目が反らせず赤くなる。
「放っておいてくれ。一人になりたいんだ」
「そうはいかないな。困ってるレディを一人には出来ないね」
「ハッ、余計なお世話だよ。」
嘲笑ったと思えば、眉間に皺を寄せ左足首を押さえる。手を追えば、血が見えた。
「怪我・・・・・してるのか?」
「触るな」
「単なる人助けなんだ。他意はないさ」
「偽善行動なんて虫酸が走る」
まるで野生の動物が威嚇するかの如く、牙を剥き手を払いのける。
「偽善じゃない。誰かを助けるのに理由がいるかい?」
「・・・・・雑音だよ」
何かあったのだろうか。フイと目線を外し、目を伏せる。長い睫毛が小刻みに動く。
再び手を伸ばせば、抵抗はなかった。
応急措置用に持たされていた包帯を取りだし、不器用ながら足へ優しく巻いていく。苦々しい顔で眺める彼女からは、視線以外何も攻撃はなかった。
「はい終わりっと。・・・立てるか?」
「何が望み?」
「は」
「所詮、見返りを求めての人助けだろう? ボクの身体?」
まさかの言葉に時が止まった。その隙に、慣れてるのか上目遣いで見上げ、目にはうっすら涙。白く細い指を絡め、もう片方は自らの胸へ誘導する。
「気持ちよくさせてくれるかい?」
「待てよ!! オレはそんなんじゃねぇっ!!」
手を振り払い、肩を掴み引き剥がす。一瞬めを見開いた彼女だが、すぐムッとした顔。
「ボクの身体じゃ役不足?」
「そうでもねぇ!! 今までもこんなことしてたのか」
「何をしようと君には関係ないね。ボクの勝手さ」
はだけた上着を直し、さっきの面妖さはどこへやら。睨み付けて鼻を鳴らす。
「レディは軽々しく身体を許すもんじゃないぜ?」
「だから勝手。わかったら早く行ってくれないかな。鬱陶しいよ。」
「帰れるのか?」
「・・・・・そのうち」
呟きの最中足を押さえていたことは嫌でも気付いた。
「文句、言うなよ」
まず肩に腕を回させ、ヒョイと膝と腰を抱える。要するに、抱き上げたのだ。
仲間からは小さい、小さいと言われても男。力くらいある。
「うわ、軽いな・・・」
「離せ!! 離せよ!!!」
「暴れたら足、痛めるぞ?」
「・・・・・っ、・・・・・」
大人しくなったと思えば、嫌な予感がした。ハッとなり下を見れば、ぶつぶつと呟きが聞こえた。独り言なんかじゃない。
呪文だ。
(魔導師!?)
「っ消えろ!!」
顔に向けられた掌を避けるよう、殆んど反射だけでしゃがむと、頭上で、ドンと爆発音。
こういうとき、小さくてよかったと思い知らされる。
「アブねぇ〜!」
「チッ」
小さくとも、憎々しさを伝えるのに十分な舌打ち。本気でフレアで死体でも作る気だったのだろう。
「大人しくしてくれよ・・・・・オレ、レディに酷くしたくないんだからさ」
「優しいより酷くされた方がマシだね。」
力を使い果たしたか、疲れたのか。体の力を抜いてもたれ掛かってくる。表情からは愁いが見える。
やっぱり放って置けない。
「名前は?」
「名乗りたくない」
「オレはジタン。よろしくな」
「聞きたくない」
すべての気力を無くしたような返事。顔を胸板に埋め、あげようとしない。
何があったか知らない。が、他人事じゃない気がした。
抵抗しないのをいいことに、そのまま自分達の陣地まで駆け出した。
***
「ジタン、またナンパか? そりゃここは野郎ばっかだけどさ、こんな美人連れてきたら狼の群れに羊入れるもんだろ」
「大丈夫。ティナ位かそれ以上に強いぜ」
「マジ!?」
「あと胸ばっか見るなよ。お前が狼だろ」
帰ればいきなりバッツに絡まれた。興味津々に見てくる彼から隠すように、強く抱き寄せる。
「あー、ちょっとウォルとティナ呼んできてくれよ。暇だろ?」
「ここの皆、基本暇だろ。まぁいいけど」
「オレ達部屋にいるからさ」
「襲うなよ?」
「襲わないっての」
普段通りのふざけ合いの後、バッツは笑顔で引き受けてくれた。自分はゆっくり今は眠る彼を起こさぬよう、自室のベッドに寝かせた。
「よほど疲れてたんだな」
顔を覗き込んで笑うと、頭を叩かれた。
「昼間からナニをしている」
「ナニもしてねぇ!!」
「ジタン。女性と二人きりは誤解されるよ」
「誤解だってレディ!!」
ウォルとティナ、おまけに入り口に笑いを堪えるバッツとティーダ。最悪だ。
「いいか、男女交際は親の許可をとって段取りをふんで・・・」
「ティナ。この人、足怪我してたんだ。他は大丈夫か見てやってくれないかい」
「わかった」
くどくどと説教を始めたウォルを無視し、二人は勝手に行動を開始した。ちょっと人選ミスかと思ったのは内緒だ。
こんな騒がしい中でもベッドの上の彼女は眠っていた。
部屋から出てきたティナはまず、神妙な面持ちだった。
「ジタン。あの人どこにいたの?」
「え、外のあの大木」
「腕だけでも傷や痕だらけ。余程酷い目にあったのかも。起きちゃったからそれ以上見せて貰えなかったけど・・・・・」
「そっか。入っても大丈夫か?」
「うん」
ティナに断り、部屋を開けるとまずギッと睨まれた。気のせいか、ホッとため息をつくと体の力を抜き、壁にもたれ掛かる。
「よく眠れたかぃレディ?」
「ジタン・・・・・か」
ベッドに座り微笑むと、ちょっと距離をとられた。
「君の拠点?」
「そ」
「君の部屋?」
「そ」
「さっきの娘は?」
「ティナ、って言うんだ。名前、覚えてくれたんだな」
笑いかけると、戸惑い困惑した顔。安心させるように、話を反らしドアを見るとティナが覗いていた。
「ティナちゃんはいい娘だからそう警戒するなよ。少なくとも、ここには何もしない娘に危害を加える野郎もいないしさ」
「・・・・そう」
「よ、よろしくね」
品定めするかのような目に困るティナだが、攻撃する気配はない。
それに安心してティナに手招きして自らは立ち上がる。
「お前カオス側か?」
「だったら」
「いや、誰にやられたんだろうって」
「・・・・・別にいいだろう。そんなこと」
「よくないよ。心配だもん」
ティナが痛々しく足を見ている。
「その口振りじゃ、オレ達じゃない、か?」
「今日戦った人はいないわ」
「だよな」
納得したところで振り返れば、立ち上がりフラフラ扉へ向かっていた。急いで駆け寄って肩を支えた。
「何してんだよ」
「帰る」
「もう暗いわ。今日は泊まっていけば?」
「放っておいて」
手を払い、少し宙に浮くと滑るように廊下に消えていった。
こっそり後をつけてみれば、屋敷が見えなくなり、警戒するよう振り返れば膝をついた。
きっと浮く、なんて芸当は魔力を消費するんだろう。証拠に、脂汗をかいて木へもたれかかってしまった。
「無理、すんなよ」
出ていってしゃがみこめば、目を見開き呆然としている。
「つけてきたのか。いやらしいね」
「お前こんなに辛そうじゃないか。送るぜ」
「敵陣まで?」
「心配だし」
「ボクが君を殺すかもよ」
「そんな病人に殺られるほど隙はないさ。それに殺気を感じないし」
「・・・・・帰らないよ。帰りたくない」
膝に顔を埋め、弱々しく呟きが聞こえた。
「どうせ屈辱を受けるなら、君達の方が幾分マシかもね」
「お前やっぱり―」
「想像におまかせするよ」
きっと仲間に慰み者にでもされたのだろう。仲間とは言えない残酷な真実に、言葉を失う。
こんな女性に、無理矢理なんてジタンには考えられなかった。怯えている青い目を見ているだけで、こっちまで辛くなってくるから。
「ボク、どうすればいいのかな」
誰に聞くわけでもなく、空を仰ぐ彼女を痛々しげに見つめ、我慢出来ずに抱き締めた。
「お前が苦しむことない。一人で抱え込むな。行くところがないなら、こっちにこいよ。オレが守ってやる。な?」
一瞬口を開いたが、すぐ閉じる。言おうとした言葉を呑み込み、弱々しくとも抱き返してきた。
「困ってるレディを放っておくなんて男が廃るぜ」
笑顔を見せると綺麗な顔がクシャリと歪んだ。
「ジタン・・・っ!!」
「笑えよ。綺麗な顔が台無しだ」
自分より大きな子供をあやすよう、頭を撫でてやる。ふわふわサラサラした髪の毛が気持ちいい。
暫くたって泣き止むと、優しく微笑んだ。
「帰ろうぜ」
「・・・・うん」
恥辱か照れか泣き疲れか。顔を真っ赤にして距離をおこうとするクセ、甘えたそうにすがる瞳。小さな迷子を見つけたような微笑ましい感覚に陥る。
「ホラ、肩」
無意識らしい。驚き、手を出したのを引き上げる。
「えっと、面倒だな。・・・・・抱き上げていいか?」
「君の小さな体が潰れてしっていいのかい?」
「いや、軽いだろ」
勢いよく抱き上げると、嬉しそうに首に抱きついてきた。
「カッコイイよ。ボクのナイト君」
「からかうなよ」
クスクスと綺麗に笑う彼女に熱がたまる。
(こんな顔、出来るんだな。綺麗・・・・・)
「クジャ、だよ」
「ん?」
「ボクの名前。覚えてくれる?」
「勿論。いい名前だな、クジャ」
「ん」
気付けば顔が近付き、唇に温かい感覚。理解すると同時に顔から火が出るかと思った。
「初々しいなぁ。初めてかい?」
面妖に笑いを浮かべる。
「そ、そうだよ!悪いか!?」
「お姉さんが色々教えてあげようか」
「冗談でもやめてくれ ・・・・・・ 」
「冗談じゃない。誰が嫌いな野郎を好きで誘うかな」
「そうならなおさら」
「・・・・鈍感」
唸る彼女に小さく困ったため息をついて、歩きだす。
「好きだよ、ジタン」
「オレも罪な男だなぁ」
「からかわないでよ」
終わらぬやり取りに知らず知らずため息がもれる。モテることはあれども、こんな感覚初めてだ。
「ボクに好かれるなんて幸福者だよ」
「言ってな。オレにを本気にさせれるかな?」
「フフ、勿論」
互いが互い、楽しそうに笑い、帰る場所を目指す。
「安心したら眠くなってきたよ・・・・・」
「いいぜ、寝なよ」
頭を預け、目を閉じる彼女にもう不安な影はなかった。
+END
++++
一旦切ります
09.4.22
修正16.8.27
[ 705/792 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]