えふえふ | ナノ



変わる姿と変わらぬ心

※クジャ女体化



事件が起きたのは、変鉄のないある朝のことだった。

「ジータンっ、起きねぇと朝飯俺が全部食うぞ!」
「オレも貰うッス!」
「ぐえっ」

頭が覚醒もしていないジタンの部屋のドアがいきなり開け放たれた。
侵入してきたバッツは、遠慮なしに額目掛けて肘鉄を入れ、ティーダが鶏のように騒ぎ回る。お陰さまで目はもうパッチリ、怒り心頭だ。


「痛ぇー・・・・・・ 朝から何だよ ・・・・・・ 」
「お前、10時過ぎてるぞ?ウォルがカンカンなんだ」
「のばらもな」

ティーダが人差し指を二本角のようにして、頭から立てる。
そんなに寝過ごしているとは思わず、慌てて体を起こした。窓の向こうに兄と木の下で過ごすセシルと、ティナと花を積むオニオンナイトの姿があった。時計も10時をとうに越えている。
どうやら嘘ではないらしい。

「低血圧なシャントットも起きてるぞ」
「マジかよ!」

ベッドから転がり降りようとしたが、思わぬ力に引き戻される。
振り返れば、腰にまとわりつく白い腕。覚えなんて何もない。目で順に辿っていくと擦り寄ってくる者がベッドにいるではないか。
布団を被っているということは、夜からいるのだろうか。寝起きの頭では混乱するばかりである。

「あれ、オレ達お邪魔?」
「何がッスか?」
「違っ! クジャか!?」

勢いよく布団を捲れば、予想通りの人物が寝息をたてていた。気持ちよさそうな寝顔にイラッとして、体を強く揺さぶることにした。

「起きろっ! 何勝手に入ってんだ!」

抵抗して丸くなる肩を掴んで、強く揺すったところで違和感に気がついた。なにか様子がおかしいような。

「 ・・・・・・あれ」
「ん、何 ・・・・・・ 」

おかしい。絶対におかしい。
眠い目が開き小さな欠伸が1つ。起き上がった彼を見た瞬間違和感に気がついた。
理解するよりも先に、目を見開いて素早く胸元にシーツを押し付ける。
それを見たのか見てないのか、バッツが踵を返した。これは確実に他人のフリである。

「朝食なら2人分はあるだろ」
「あ、バッツ。待つッス」
「待てお前ら。2人きりにするなぁ!」

あとで「煩い」と更に怒られるハメになることを知らないが、 真っ赤な顔で叫ぶジタンの気持ちもわかる 。
ベタだが、クジャの体にはない筈の胸が見えたのだから。


*


「ジタン、ジタンってば」

深夜の丑三つ時はとうに越えている時間。静寂にか細い声が響く。
こんな時間に来訪者なんて来るわけがない。だが今日は違った。ジタンの一人用のベッドには、二人の影。心地よい眠りに身を預けるジタンと、妨げ容赦ないく揺さぶる影。
あまりにしつこいために、ゆっくり寝ることもままならない。まだ脳が覚醒しないまま目を開き、体だけ起こす。
抱きついてきた相手を確認する余裕もない。柔らかくいい臭いがするため、きっと女の子だろう。

「どうしよう ・・・・・・ 」
「んぁ、何がだよ・・・・・・ 」
「えっと」

ああ、ダメだ。眠い。
聞いたそば悪いが、今日も動き回ったために眠すぎる。相手の正体すら理解できないのに、何を言っているかなんて理解不能だ。
聞き覚えある声よりも高い声に、本人との意思に反しジタンには子守唄になってしまっている。

「で、ジタン。聞いてるかい?」
「眠い」

素直に述べると重いため息が聞こえてきた。

「ボクは困ってるのに」
「寝たらいいだろ。何か変わってるかもな、ふあぁぁ」

焦るクジャとうってかわって、ジタンからは能天気な答えと緊張感のない欠伸が返ってくる。
普通なら怒られるところだ。だがあまりの能天気さにおかしくなってしまい、柔らかい笑みを浮かべた。

「もう、君って子は ・・・・・・ 」
「だから寝かせてくれょ ・・・・・・ 」

どんどん弱く小さくなる声と反対に、強くなる腕の力。気付けば抱き寄せられ、二人仲良くベッドに横たわっていた。
いつもはこんかに密着したくても出来ない。驚いてジタンを見上げるが、もう瞳は閉じられていた。

「ジタン?」
「すー ・・・・・・ 」

問いかけに答えのは安らかな寝息。月明かりに照らされる彼の寝顔を見ながら、抱擁に応えながら目を閉じた。

以上回想終了。

*


「寝てた理由はわかったが、体はなんでなんだよ」
「知らない。気が付いたらさ」

己の過ちにダメージを受けつつ遅めの朝食。さっき逃げた二人も来て摘まみ食いを始めた。
先程の怨みだ。スプーンで思い切り叩いてやった。

「誰ふぁが何かしふぁん、じゃないか?」
「飲み込んでから喋れ」

入り口から聞こえた声に振り返ると、ウォーリアが腕を組んで立っていた。
ズンズン迫って来て机を叩く。その剣幕にバッツとティーダは引き、ジタンは怯む。クジャはいつも通りだが。

「何故遅かったんだ」
「いや、コイツに夜中に叩き起こされたから ・・・・・・ 」

指差した先を見て驚くウォーリア。その視線に居心地悪そうにジタンをチラチラ見るクジャ。

「・・・・・姉だったのか?」
「違うって。今までの服装でわかるだろ」

ボケるウォーリアにジタンはすかさずつっこむ。二人は気にせず摘まみ食いを再開しだす。

「まぁそこはわかんないから気にせず。フリオニールは呼ばないほうがいいだろ?」
「何でッスか?」
「お前ら、食べたら置いて」

これぞお約束展開。扉が丁度開き、フリオニールが入ってきた。
クジャとばったり目が合うと、胸元に視線がいったと同時、真っ赤になり背を向ける。

「あらら、やっぱな」
「テッシュいるかー?」

バッツとジタンがニヤニヤとはやし立て、ティーダは未だ首を傾げている。
そのまま何も言い返す余裕なく、ウォーリアと共に退場。

「ジタン、ここ居づらい・・・・・」

どさくさに紛れ、抱きついてくる彼、もとい彼女に次はジタンが真っ赤になる。豊満な胸が頭に押し付けられ、ついつい真っ赤になってしまう。

「だー! ちょ、離れろっ」
「かなり大きいし、照れるよな。だからさっきから視線向けなかったのか」
「黙れ!」
「図星」
「そうなのジタン?」
「ち、違っ」

ぼそりと呟いたティーダが、ジタンに睨まれてしまう。
それでも懲りた様子もなく、冷やかしてくるから憎らしい。

「でも女の子少ないのは事実ッスからね」
「お前ら! 当たってる、当たってるから! スコールクラウド助けて!!」
「やっぱり図星じゃねーか」

この後スコールが居間にきた頃、ぐったりした少年がいたという。


**

あの後、激昂したジタンと問題児コンビの、トランス使用鬼ごっこが始まった。
逃げながらもジタンを冷やかす余裕はさすがというか、無謀というか。
クジャはキラキラした目のティナに見つかり、手を引かれて行ったのは誰も知らない。
我に返った頃には、ティーダ以外は地面にへたりこんでいた。

「ジタン、どうかな」
「何ティナちゃん―!?」

顔をあげると、彼女の笑顔と雰囲気の変わったクジャの姿があった。
いつもは流している髪をポニーテールにして、ティアラまで乗せている。これはウエディングドレスだろうか。
どこから持ってきたかは知らないが、唖然とするばかり。

「どう? 似合うかな?」

笑顔と抱きつきのダブルアタックに、恥ずかしくなってとっさに肩を押し戻す。危うく胸を触りかけたのは秘密だ。
クジャの眉間にシワがよった。

「ジタン、聞いているのかい?」
「お前、抱きつくなって」
「む、気に入らないなら着替えてくる」

不満げな顔で退場する姿を見送り、ため息をつく。一体何を企んでいるのかは知らないが、嫌な予感がする。
一人で先行するクジャについて行こうとしたと思えば、ティナが振り返った。

「レディの接し方、貴方が一番わかってるでしょ、ね」

レディは大切に、レディを敬うべし。これはジタンのモットーだ。だが今日だけは頷けない自分がいる。
黙ったジタンを残して、彼女はクジャの後を追って行ってしまった。

「そんなこと言われても、な ・・・・・・ 」
「なーにショボくれてるんスかっ」

思いに耽っていると、そのモヤモヤを吹き飛ばすような衝撃がきた。
背中を勢いよく叩いたのはティーダだ。バシッと音がしたところは赤くなっているだろう。

「何でお前は疲れねぇんだ ・・・・・・ 」
「オレはスポーツしてるからな。皆より体力があるんだろ」

笑顔で力瘤を作る彼は頼りに見えるが、彼は皆から三バカと称される一人だ。

「で。どうしたんスか? クジャのことッスか?」

そんな彼すら察してしまうとは、どれだけ分かりやすかったのだろう。
観念してしまおう、と素直に頷けば、傍にティーダも座り込んだ。

「 ・・・・・・ ビンゴ。この際言うけどさ」
「ジタン、見て見て」

間が悪くクジャが着替えて戻ってきてしまった。
次の服というが、ただのトランス。しかも猫耳というマニアックなおまけ付きだ。
何を求めているのか、というか何がしたいのか最早意味がわからない。
硬直しているティーダの顔が赤いのは、気のせいではないだろう。

「その猫耳、どこから持ってきたんスか?」
「猫耳フード」

どう考えても千切ったのだろう。ティナがやった事にも驚きではあるが、ノリノリで着こなす方が問題だ。
尻尾を揺らしながら称賛を待つクジャにジタンも頭を抱えるしかない。

「似合うかい?」

ナルシストといえども元は悪くない。上目遣いに言葉が詰まる。
どうすればいいだろう、女の子のように口説く気にもなれないが、黙っているのも失礼。言葉を探していると尻尾が逆立ち始めた。イライラしているらしい。
こちらも我慢の限界だった。

「ねぇ」
「ちょっとこい」

これは半ば自棄だ。
地を這うような声だけ残して無言で立ち上がると、きょとんとしたクジャが滑るようについてくる。
早歩きで待つ余裕もない。ただなにも考えないようにと部屋へ向かった。
そんな追いかけっこをする二人を、ティーダは首を傾げ、ティナは笑顔で、バッツが面白そうに笑い見た。


***


バタン。扉が閉じる音がやけに大きく響いく。
ため息をつくジタンと、無言でここまできたことに首を傾げるクジャ。
キョトンとしている女の子は可愛いが、とりあえず落ち着こう。目の前で座り込んでいる猫耳の兄弟に、ため息なのか深呼吸なのか息をつく。

「いきなり何?」
「どういうつもりだよ、それ」

目を合わせないよう顔を押さえて言えば「これ?」と付属品の耳を触る。力なく頷けば、クジャは不思議な顔をして答える。

「せっかくだし、喜んでもらおうと思ったんだけど」
「お前からオレはそんなマニアック路線の人物に見えるのか」
「萌の王道じゃないか」

どうやらナルシストなだけで、悪気はないらしい。尻尾を振りながら称賛を待つ姿には頭痛すらしてきた。
確かに可愛い。獣の姿と耳はよく似合う。だが認めてはいけない、と何かが囁いてくるのも事実。

「ねえ、口説かないの?」
「オレは無差別な女好きじゃねぇ」
「聞いて呆れるね」

まとわりついてくる腕を振りほどき、肩を押し返して背を向け抵抗する。呆れと怒りと失笑が交ざり声音が下がった。
刺激をしすぎると、攻撃的になるのを忘れてはいけない。振り返ると、尻尾を指で絡めとり拗ねる姿があった。

「何でボクを呼んだの」
「あんまり薄着するなよ」
「そんなのボクの勝手だね」
「オレが気にする。他の奴に肌晒すな!お前スタイルいいし危機感持てって!」

感情のまま吐きちらしたため、一瞬ジタンすら何を言っているのかわからなかった。目を丸くするクジャの肩を掴み、そのまま押し倒す。
何が起こったかわからない表情の二人。見つめあった状態から先に動いたのはジタンの方だった。

「わりい。 ・・・・・・ 嫌だろこんなの」

ばつが悪くなって、体を離そうとしたが無駄に終わった。首が突然重くなり、もたげてしまったからだ。
原因なんて一つしかない。クジャだ。彼女が首に抱きついてきたのだ。

「嫌じゃない。君なら大歓迎だよ」

首に腕がのび、抱きつかれる。予測出来たが予想外の反応に次はジタンが固まる。

「ジタンはボクのこと、嫌いなんだって思ってたから」
「そんなことねえよ ・・・・・・ 説得力ないかもしれないけど、いつもと雰囲気違うからドキドキしてる」
「ジタン ・・・・・・ 」
「でもとにかく離れろ」
「何でさ? 君が誘ったんだよ、責任とってよ」
「責任ってなんだよ!! 恥ずかしいから離れろ!!」

無理矢理引き剥がし、また背を向ける。だが今度の空気は悪くない。
猫なで声を上げながらすり寄ってくる彼女に、ため息が漏れた。
このままでは、このお姫様は離れないだろう。満足させるにはどうすればいいだろうか、深く考えることもせずにそのまま口付てみた。

「満足したか?」
「足りない」
「しょーがねぇなぁ ・・・・・・ 満足するまで一緒にいてやるから」
「具体的にはいつまで?」
「今日1日、でいいか?」
「今日だけ?」
「 ・・・・・・わかったよ。じゃあ戻るまで 」

抱きついてくる姉の頭を優しく撫で、ジタンは柔らかく微笑む。
甘い空気を醸し出す二人だったが、気がつかなかった。

「やるなぁジタン♪」
「バッツズルいッス! オレも聞きたいから!」
「フフッ、もうすぐ夜だね」

ドアの外では、野次馬が盛り上がっていたことを。

+END

++++
にょた好きです。大好きです。

修正16.8.7

[ 691/792 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -