えふえふ | ナノ



孤高の皇帝

※フリオニール視点


許せない、許せないさ。
でもそれ以上に生まれた感情がある。


「皇帝」

薄暗い闇に包まれたパンデモニウムの城。クリスタルが点々と輝き、星空を歩いているような気さえする。
その一角の玉座に、王はいた。静かに目を開けば、細い化粧の施された目にドキリとした。
彼は、いつも一人でいる。気高く誇り高く、自ら"皇帝"を名乗る。王の風格は否定しないが、それが寂しくも嬉しくもある。

「 またお前か。何の用だ」
「単なる通りすがりさ」
「なら早々に立ち去れ」
「嫌だ。用があるからしょうないだろ」
「私は幻聴を聞いたのか?嫌だと聞こえた気がしたが」
「幻聴じゃないからな」

我ながら、バカないいわけだと思う。
通りすがりは本当。だが彼がいるかもしれない、という希望を抱いた通りすがり。目的の人物を見つけては、意地でも帰れない。
好きなんだ。
バカだと笑われてもおかしくない。
なんせ宿敵だ。親や仲間達、世界の皆の仇だ。
記憶は曖昧だが、無差別殺人や強制労働など、残虐非道な行いをした男。悪魔にすら魂を売った男。
わかってる。
許される相手ではないなんて、わかっている。はっきり覚えてなくとも、体と記憶が警告してくる。
だけど、それでも好きなんだ。この気持ちは偽りじゃない。

「ならばさっさと用とやらを終わらせろ」

それでも許可をくれるのは、許されているのだろうか。思わず笑ってしまうと、振り返る麗人。眉を寄せて、せっかく化粧を施した顔が台無しである。

「何がおかしい」

これでも今日は幾分気分がいいらしい。機嫌が悪ければフレアが飛んでくるから。

「いや、なんだか変な気分だな、と」
「貴様がいるからな。嫌な気分だ」
「そうじゃなくて」

近づいて正面に立つと目が丸くなる。男にいうにはおかしな言葉だが、可愛いと思ってしまう。惚れた弱味とは恐ろしいものである。

「"皇帝"がオレの目の前にいるのが、変な感じがする」
「フン。下等な反乱分子は、話すことも出来ん存在と知れ」
「でもな。淋しくないか?」
「なんだと?」

偉そうな言葉をは受け流すにかぎる。だが皇帝は失礼な言葉を受け流す余裕はなかったらしい。
これでもか、と目を見開き睨み付けてくる。

「偉そうにしてたら、仲間とか友達とか、いないだろ」
「力さえあればなんとでもなる」
「嘘だ。淋しいだろ」

嘲笑う表情をさるが、元気がないような気がしてしまう。
きっと思い込みだ。ただ頼ってほしいだけの自己満足だ。
それでも一人にしたくなかった。肯定してほしかった。

「淋しさなど知らん」

頑なな皇帝をに、つい手を伸ばしてしまった。
届かないと思われた腕は、予想外にも肩を掴む。恐る恐る表情を窺うと、無表情に見下されていた。

「何のつもりだ」
「い、いや、別に ・・・・・・ 」
「ならば離せ」

口ではキツいことを言っても振り払うことはしない。
やはり許されているのだろうか、はたまた虫程度にしか思われていないのか。

「虫けらごときが」

珍しく感情的な声が空気を伝う。殺気すら感じるが、ここで引くわけにはいかない。
それでも初めてまともに触れた手は熱く、緊張すらしてしまう。恋愛ベタな自分が恨めしい。
皇帝は、無表情のままだ。
だが一瞬、ほんの一瞬表情が緩んだ気がしたことで、顔がカッと熱くなる。
皇帝が希に見せる、微かに見せる表情の変化。悲しさと
悔しさが混ざった、物思いにふける瞳を見てしまってから
、まるで悪魔に魂を取られてしまったように 魅入ってしまった 。
いつも一人で宮殿に佇む姿に、きっとあの時に恋をしてしまった。

「おまえはおかしなやつだ」
「え」
「王者に親しきものなどいらん。ましてや対等な者などいてはならない。だが」
「だが?」
「・・・・・・沈め 」

不吉な声を聞き、咄嗟に体を引いた。一歩遅ければ至近距離で弾けたフレアの餌食だっただろう。恐怖で高鳴る鼓動で体勢をたて直し、皇帝を見た。
皇帝は、怒るわけでもなくフリオニールを見つめているだけだった。

「運がよかったな。今日は生かしておいてやる」

また手を伸ばそうかとも考えたが、止めてしまった。一瞬見えた微笑みに体が動かなくなったとも言うのだろうか。
慌てて我に返った時には、もう姿は消えていた。

「反則だろ ・・・・・・ 」

笑うところなんて初めて見た。何が楽しかったのかはわからないが、確かに皇帝は笑っていた。
一緒にいて、心を動かせただけでも嬉しい。綺麗な微笑みをみるだけで、心が高ぶってくる。
「好きだ」と言えばどんな顔をするだろう。
怒り、呆け、驚愕、無視、軽蔑、嘲笑う、無表情、それとも紅潮?
ここは二人だけの思い出の場所だ。くるのは決まって二人しかいない。

「また、くるか」

いつか見てもらえるその日まで。

+END

++++
皇帝の名前がマティウスじゃないらしいですが、もうここはこの表記をやめません

修正16.7.29


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