*忘れていいよ
※最終章ネタバレ
紅の鉄の、死の臭い。阿鼻叫喚と狂乱の宴はいつまで続くのだろう?
マントをはためかせながら、ぼんやりと殺戮劇場を眺めていた。
―殺せ
うるさい
―殺すのだ
うるさいうるさい
―朱雀を、殺せ
「うるさぁぁぁぁぁぁぁい!」
耳を塞いでも無駄だ。頭に直接叩き込まれる呪詛など、遮断出来るはずもない。しかし抗うしか出来ない、出来なかった。
朱雀は自分の故郷のようなもの、この身は白虎に売ろうとも、魂まで売るわけにはいかない、それが最後の理性だった。
『殺セ』
ああ、クリスタルが命じる。剣を取れ、命を狩れ、と。抗うこともできない声に、手は血に濡れた剣を握る。
一人、二人、三人、人が死ぬ。聞き覚えがあった気もするが、すぐに忘れてしまった。
四人、五人、六人、血が舞い散る。憎悪の声など聞こえはしない。
二十、三十、四十、奇声が上がる。気が狂いそうな血の雨の中、まだ声は止まない。
『最後ダ、殺セ』
目の前に佇む朱へ、吸い寄せられるように駆け込んだ。見開かれる目を塞いでやろう、レイピアが鈍い錆を光らせ襲う。
「危ないッ!!」
間一髪滑り込んできた朱を纏う少年に、対象の少女は浚われてしまった。
舌打ちを一つ、突き出した剣を横凪することで深追いを可能にする。剣は彼の脇腹を赤く染める。
ふと、少女と目が合った。憂いと敵意を含む目は、彼女に、記憶に眠る彼女に似ている気がした。
似ている気がする、似ている、
―彼女だ。
「レムは下がれ!」
―ヤメロ
「こい、ルシ!」
―ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ!ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
そこに立つのは俺だ、彼女を守るのは俺だ。伸ばそうとする手は、意思に反して刃を握る。
傷つけるために力が欲しかったんじゃない。守りたかっただけなのに、クリスタルが命ずる。
『彼女ヲ殺セ』
今の自分にはもう、彼女の隣に立つ資格はない。
『マタ忘レサセテヤル』
彼女の瞳に宿る、悲しみが一層深くなった。
++++
途中でこんな感じにマキナを精神的に追い詰めたら面白くなったと思う/////
11.12.16
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[mokuji]
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