えふえふ | ナノ



中身は同じ

※後天的にょた

世の中には不思議が溢れている。
溢れてはいるが、そこまで頻繁に起こってはいけないもの、それが不思議に課せられた暗黙の了解、という奴であろう。

「とは言っても、この世界には通用しないけどね。」

わんさかといる同じ顔が、一斉に睨みつけてきた。


「可愛いね。小さい時を思い出すよ。」

この異常事態すら、彼女にとっては気にとめることではない、とレムは笑う。
抱き上げられた子供は困惑しながらもその包容を受けいれる。

「えーっと……すなわちこれは死と記憶に関する実験、だと。」

「タグはクローンに作られ、一人が死んでも記憶が残るのかどうか、という実験らしい。本物と間違わないように見た目を変えてる、とは言っていた。」

「被験者の中に眠る、遺伝子を操作し、形にするそうです。即ち、それは別の次元の被験者ということに…」

「はいは〜い。トレイはもういいよぉ。」

殴り込みにいった保護者や知識人たちが被験者を見ては、静かに首を横に振る。
唯一の被害者は、肩を落として机にへばりついてしまっている、

「マキナも災難ですよね。」

「フン。変な大人について行くほうが悪いじゃないのかい?」

「断りきれなかったんだろう。優しい奴だから。」

「セブンも危なかったな。」

教室が狭いからどれだけ小さな声で話そうとも本人にだだ漏れである。

「いいじゃないマキナ。こんなに可愛いんだから。」

それは慰めに入るのだろうか。レムの腕の中で幸せそうに眠る子供の姿をした自身を見ては、身が縮こまる。
自分の過去を見られているような恥ずかしさがあるのだ。

「そうだよー。こんなに可愛いのにー。」

猫じゃらしと鞠で構って貰っている猫は気分上々である。

「……羞恥プレイじゃないか……」

現実を見ることが億劫となり、頭を抱えて机へと沈んだ。
なんだか、遊ばれているようで汚されているようで、居たたまれない気持ちでいっぱいである。

「そういえば、もう一人はどこへ…」

クイーンの言葉に皆も我に帰った。女性となっているマキナがいない。それに、エースの姿もだ。彼はお手洗いに行ったのかもしれないが、マキナは椅子を倒しながらも立ち上がった。
開け放たれた扉に、射し入る光。やはり、というかベンチに座っていたのはエース。そして隣には探していた分身の姿が。

「エース!」

日向ぼっこかあの喧騒に嫌気がさしたのか。マイペースに彼は笑う。

「マキナもきたのか。」

「何してるんだよ。」

「こっちのマキナが落ち着かないってさ。」

なるほど、膝枕をしてもらっているのは見間違いではないということか。うとうとと微睡む姿は、自分でいうのも何だが可愛いと思う。

「誰…?……あ、"私"かあ。」

奇妙な言い方であるが、的確な表現であろう。女性らしい控えめな欠伸を一つ、眠い目をこすり、また欠伸を一つ。

「…離れろよ。」

「どうして?別にアンタのものじゃないはずでしょ。ね、エース?」

「いいから離れろ。」

「これが両手に花ってやつかあ。」

修羅場に似た空気の中でもマイペース。一緒に豪快な欠伸を漏らす姿はさすが、というべきか。

「む、胸はまだないけど……エースは女の子といたほうが楽しい、そうでしょ?」

「そんなの関係ないだろ!」

「男の嫉妬ほど見苦しいものはないって言うよ。」

「し、嫉妬なんかじゃ……」

とはいいつつ、楽しそうに寄り添う二人を見ていは、自分の分身と言えども嫉妬しているのは事実。

(…やっぱり女の子の方がいいのか)

エースだって男なんだ。男同士でいるより、同じ顔でも華があるほうがいいだろう。握り拳が固く引き結ばれる。

「はいはいそこまで〜。」

いがみ合うマキナたちの間に分け入り、ため息をつく。
一瞬四つの翠に睨まれたが、エースを確認すると困惑を映す。

「マキナはマキナ、だろ?トレイも言ってたじゃないか。これは被験体そのものだって。要するに、マキナが女性になったらこうなるってだけだ。」

いつもこのしい瞳に、心を射抜かれる。頭を撫でながら、優しく諭してくれる声が、心を震わせる。

「だから性別とか、見た目とか、僕は気にしないけどな。」

「私、そんなエースが好きだよ。」

「僕も好き。マキナが好きさ。」

分身の額にキスをおとし、マキナを手招く。

「ごめん。不安にさせたな。」

「別に、そんなんじゃ……」

「嘘だ。鏡を見せたいくらいだぞ。」

頬から伝わる手が冷たい。自分はそこまで熱くなっているのか。理解したら更に体温が上がった気がする。

「さあマキナ。」

「…何かしたら殴る。」

「何かってなんだよ。」

チュッ
軽い音をたてて離れた唇は、拳をヒラリとかわす。やられた。気付いた時に上がる体温は、下がることを知らない。

「お前っエース!」

「ずるいぞ!私にもーっ」

マキナは本当に可愛いなあ。
笑うエースの顔は、どっちを見ているのかわからなかった。
ただ伸ばされた腕は均等で。この細い腕のどこにあんな包容力があるのだろうか、と疑問に思ってしまう。
薄曇り始めた世界に、未だ輝く太陽。その輝きは皆に、平等に。

+END

++++
俺はエースを何と勘違いしてるのか
さすがに本には…出来ない

12.5.1

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