親鳥雛鳥
※後天的しょた
※記憶はあるよ
ああ、なんてものを拾ったのだろう。
日頃の行いがいいから、にしては、拷問なような気もする。いや、悪い意味の拷問ではなく、
(いい意味で)
丸い瞳、小さくふくよかな手、小さく軽やかに動く体。あうあう、と変声期前の高い声。
とりあえず目と体に毒だ、とだけ言っておこうではないか。
平和、というより嵐の前の前の静けさ。昨日という日には何も起きなかった分の災厄が利子としてきたのか。全くもって有り難迷惑だ。
作戦実行まで日はある。暇を持て余しているのも退屈なので、趣味にでも時間を肥やそう、と牧場に行こうとしていた時だ。
廊下に座り込む小動物が一匹。全く、この愛玩動物はどこから入ったのだろう。そして、何をしているのだろう。とりあえず、抱き上げて立たせてはみるが、視線が妙に突き刺さる。それに、小さくてもパンチは一人前。いい感じに頬へとねじ込んできた。
ふと、この子を見ていると、誰かを思い出す。殴られた衝撃とド忘れによりパッと名前が出ないが、確か。
「ああ、マキナか」
返事など、男らしい拳と子どもらしい可愛い顔だけで十分だった。
事情はなんとなくわかった。ここいらには研究者の皮を被った変人もいるし、訪ねても目線を反らすということはそういうことなのだろう。
ふうん?しゃがみ込んで全貌を観察していると、見上げてくる円らな瞳。なに?と首を傾げてやればフイと目を反らされた。
「どうしたんだ?」
「な、なんでもない……っ」
きっと、目線が下がったことに照れているのだろう。心中察する。しかし照れるのはこっちである。
「ホラ。これで安心。」
とりあえず、自らのベルトで服を止めてやれば小さく「ありがとう」と聞こえた。
服が捲れることは防げたが、ズボンはどうにもならない。歩きにくくとも、裾を捲るしか方法はあるまい。
「暫くはこれで我慢してくれ」
「エ、エース……」
両手を広げ、甘えるような目。
「あるきにくいから……」
抱っこ、と迫る姿は何とも言えず、思わず顔を背けてしまった。なんなんだこの可愛らしい生き物は。本当に候補生なのだろうか。
鼻を押さえながらも、自分の為マキナの為手を差し出せば、仄かに頬が膨らんだ。襲ってしまってもいいだろうか。
さて、掃除再開だ。チョコボの餌を運びゴミを運び、やはり生き物を飼うというのは並大抵のことではない。
一候補生がやることではないことはわかっている。だがチョコボたちに騒がれてはやらずにおれないであろう。すっかり顔を覚えられクエクエ、とすり寄るチョコボを軽くいなし、毛を整えていれば小さい姿が視界へ飛び込んできた。
休んでいていい、というのにあえて重いものを持ち駆け回る姿は、危なっかしくもあるし健気でもある。転けなければいいが、と心配した矢先、柵にぶつかる姿に少し笑ってしまえばむくれた顔がこっちを睨んでいる。
「なにみてんだよ」
「はは、可愛いじゃないか」
かわいくなんかない!叫ぶと同時に浮き上がる体。しかし、エースは触れていないどころか、周りに人影もない。
クエッ
嬉しそうな鳴き声は、マキナの下方よりする。チョコボが拾い上げたことで、間違いはないのだろう。
「あそびたいのか?」
「クエッ」
「よしよしガトー」
名前の由来はまさかチョコではあるまい。
しばらく小さな手でしがみつき耐える姿を楽しんでいたが、落ちそうで気が気でない。今にも落ちそうな……と、狙っているかなんなのか、足を滑らせた瞬間を見てしまった。
バッシャァァンっ
なんの音か、いやこれはバケツをひっくり返した音だ。証拠に追い討ちの鈍いゴン、という音も聞こえた。
まだ落ち方がよかったのか、怪我はしていないようだが、相当痛かったのだろう。うずくまる小さな体を慌てて抱え起こしてやる。痛みか水か、潤む瞳や濡れた体を拭き…なるほど、ピッチリとはりついた服は体のラインを誇張するだけではなく、透けさせ肌を見せもする。
下着を付けていない今や、隠すべきものが見えるのは角度の問題。非常にマズい問題である。
「マキナ、着替えようか」
「びちゃびちゃしてきもちわるい……」
「一緒に風呂に入ろう」
一緒に、という言葉に何か問題があっただろうか。コロコロと色の変わる顔に引っ掻くように手も払われてしまった。
「い、いやだ!」
「子供には何もしないよ」
「だって、こんなにちいさいのに、じゃなくてっっ」
「小さいのは当たり前だろ?」
「と、とにかくイヤだ!」
意地でも首を縦に振らず、イヤイヤとエースの手を跳ねようとされると、流石に無理もさせられまい。
「ホラ、動いちゃダメだぞ」
「ひとりでできる」
「そうもいかないだろ。服すら動きにくそうなのに」
「うぅ…」
殴る蹴るの暴行を受けながら、なんとか部屋でパスタオル、までは成功したのだが暴れること暴れること。
濡れた服は剥ぐように脱がせ、今は数少ない私服、と言う名の簡易なTシャツを着せてみた。無難であるし、夏用だから背丈もまだ合ってはいる。我ながらいい選択だ。
「にいさんづらするなよ……」
「今は弟みたいなもの、だろ?ホラ、シャツは中に入れておくんだ」
「エースってこどもずきだよな」
「嫌いではないな」
「じゃあいまのおれは、すき?」
それが何を意味するかはわからない。だが真剣なマキナの目を見ていては冗談すら言えなくなる。
「こどもじゃ……できないから、いやか?」
なんてことを言うんだ。
「僕は欲求不満だからマキナを相手してるわけじゃ……」
「じゃあ、すき、か?」
どう答えても未来はない気がする。嫌い、と答えたらマキナは怒るだれう。だが好き、と答えたらショタコンにされてしまう。どうあがいても絶望だ。
「ううーん……」
「べつにすき、っていってもショタコンってことにはしないぞ」
「なら好き」
頭を撫でてやれば、嬉しそうに抱きつく小さな体。抱き留めてやれば、自分の服のはずなのに、仄かにいい香りがする。
(マキナの香り…かな)
抱き上げ、膝に乗せ髪に顔を埋めてみる。なるほど、マキナの匂いだ。
「エース、くすぐったい……っ」
「いい匂い……」
「はぁ」
ため息、そして唇に触れた柔らかいもの。
「……エース。きょうだけでも、あまえていいか?」
「仕方ないなぁ………」
甘えたがりな君へ。最高の愛情を。
++++
いただいたネタにはっちゃけすぎた
前ひねり出したネタは犠牲になるのだ…
ありがとうございます!
12.4.23
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[mokuji]
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