自覚無自覚
※後天的にょた
どうしてこうなったのだろう。
「な、なんで……オレが…」
跳ねながらも長く綺麗な髪、小柄すぎず高すぎることもない背丈、丸い目は愛らしさを生む。
小振りながら自己主張をする胸。
「女になってるんだっ!」
彼の変化は彼の意図するものではない。そう、それだけはわかるのだが。
「いやぁ、ダメ元だったんだけどさ。案外うまくいくものだよね〜。」
悪気もなく語るカヅサには、最早何を言っても無駄なのは皆も知っていることである。
「薬が切れるのは1日さ。それまで楽しんできたらいいよ〜」
「楽しんでこいって言われても…」
一体何をしろというのか。
間違ってもレムや0組には見られたくないし、ケイトに見られようものなら笑われるのがオチである。
それよりも、妙に集まる視線が居心地悪い。普段は朱につられての視線は集めるが、それとはまた違う。特に男からの視線が、一層強くなっているのだから。
(早く人目のつかないところへ行こう)
安全地帯は自室しかあるまい。自然と早歩きになる足と比例して、居心地の悪い視線は強くなる。
「イテッ」
そして、そんな視線に意識を奪われていては、このような事態に陥っても仕方あるまい。ぶつかった相手はというと、赤いマント、ズボン、男にしては小柄な体…
「エースっ!?」
まさか会いたくない相手といきなり遭遇してしまうとは、今日は厄日ではなかろうか。エースは何故名前を呼ばれたかわからずきょとんとしているし、マキナの体を物珍しそうに興味津々に、悪く言えばなめ回すように見ている。
「あ、あまり見るなっ」
赤くなった顔では説得力も迫力もあるまい。つられて赤くなったエースは、素直に謝罪の言葉を述べた。
「マ、マキナ!?どうしたんだ?まさか…またカヅサか?」
「……まさかもなにも、な。」
飲み込みが早くて助かる。説明も省けて助かるというものだ。
「しかし、その体……」
女体となってしまっているが、あまり変わらないと言ってもおかしくはない。腰のくびれは誇張されてはいるが、胸はお世辞にもある、とは言えない。
「小さい、な。」
「思っても口に出すな!!」
マキナの会心の一撃は、見事エースの顔に大ダメージを与えることに成功した。
「オレは男だぞ!?胸が大きくなって嬉しいわけないだろ!!」
「あ、エースさん!ここにいたんですね!」
ああ、また目撃者が増えてしまった。それも、クラスメイトに。
「デュース。どうした?」
「今から実習演習があるんです。よかったらご一緒しませんか?」
ちょっと待て。今のエースの目線がおかしい。明らかに、比べるように二人の胸をさ迷っている。デュースは寛容なのか気付いていないのか、会話が途切れることはない。
「でもごめん。今からちょっと用事があって……」
「そうですか…ではごゆっくり。」
最後のごゆっくり、はマキナに対してなのだろう。すごくいい笑顔で言われてしまったのだが、どうしようか。変な誤解をされてしまったのならば、弁解しなければいけない。
(変な誤解とは、なんだ?)
エースの彼女に間違われたことか?
今からデートと思われたことか?
(…ちょっと嫉妬した自分の事、かも)
「マキナ?」
「え、あ、なんでもない。」
止めた。女の体になっても心まで女になることもないだろう。もうバカな事で悩むのはよそう。
「マーキナ。」
人がせっかく切り捨てようとしているのに、名前を呼んでくるとはどういう了見だ。なんだよ、とひとにらみしてやれば、不愉快にも楽しそうな笑顔がそこにもあった。
「顔にゴミついてる。」
「え、…とれたか?」
「まだ。目、閉じてくれよ。」
鏡なんて常備してるはずもないし、近くに置いているはずもない。ここはエースに任せようと目を閉じた。
(ホラ、こんなにも無防備)
チュっと軽いリップ音に目を見開くと、相変わらずのエースの笑顔。
「取れたよ。」
「じゃなくて!今なにしたんだよ!」
「キス。」
「それはわかってる!なんでここでっいやオレにそんな…っ」
混乱しきった頭ではうまく言葉も選べまい。皆の視線を一身に浴び、更に緊張してしまうし、もう最悪だ。
「それこそ、わかってるだろ?」
自覚させられてしまったから、この時は何も言い返せなかった。
マキナは可愛いなあ。いつもは熱いくらいのエースの体温と唇が、ぬるく心地よい体温に感じるなんて初めてだった。
+END
オマケ。
「なあエース。」
「次はコレ。」
「…なんでオレがメイド服なんて…」
「そりゃ、可愛いからだけど。」
「…嬉しく、ない。」
「顔、真っ赤だぞ。」
++++
女体好きなのに描いたことないっていう
いやむしろ本で真面目なBL描いたことないっていう
ゴーサインでたから今回頑張るよ
12.3.31
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[mokuji]
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