*マキナの苦悩
※『エースの悔恨』の別視点
「…兄さん……」
――ああ、誰だったのだろう
愛おしい筈なのに、胸が痛む"モノ"は
いつも、足を運んでいた。
軍令部、教室…それよりクリスタリウム、墓場、チョコボ農場………どこにも手かがりはなく、手がかりだらけ。
(ああ、ここに"兄"はいたのか)
クリスタルに恐怖と呪詛を唱えながら、淡い記録と記憶を辿る。
戦争
最前線
極秘任務
資料はない
戦死
わかった単語はこれだけ、今日も収穫はない。
ムキになってまで探す存在じゃないかもしれない。だが心に開いた大きな穴が、苦しい。宿敵程、失った代償は大きいというし、もしかしたらかなり仲が悪かったのかもしれない。それに今はレムを守らなければいけないこともあるが、どうしても兄の影を追い続けてしまう。
「エース?」
ふと、いつもの道に見知った後ろ姿。機械的に進む姿を見ていれば、どこにいくかはすぐわかる。レムの元へいくつもりだったが、駆け足はエースを追うことを望んでいた。
クエックエッ。チョコボは陽気な鳴き声で出迎えてくれる。チョコボに知り合いはいないし、顔の違いはわからない。軽く会釈だけして揺れる銀髪を目指した。
「エース、」
返事はない。ぼんやり何かを見つめ、意識を飛ばしているエースに言い知れぬ恐怖を抱いた。彼が消えてしまいそうだった、帰ってこない気がしたから。
「エース。」
我に返り顔を見せてくれたことに、自然と笑みが漏れる。が、エースは何故この"道"を進んでいるのだろう。墓地で佇む先にはいつも兄であったモノの名。彼は何か知っているかもしれないが、今は聞くのが怖かった。彼の口から兄の名を聞きたくなかった。
「どうしたんだ?作戦までは時間があるだろう?」
「魔法陣に乗るのが見えたからさ、追いかけてみたんだ。」
ふぅん?いかにも興味がないように振る舞っていたが、正直嬉しかった。ああ、エースはここにいるんだと実感することが出来たから。
「マキナは、兄がいたんだよな。」
「ん…ああ。覚えてはいないけどな。」
「そうか。」
エースはいつも兄の話をする。何らか接点があったのか、調べてくれているのかはまだわからない。自分も何回か存在だけは話したから聞かれるのは仕方ないだろう。
羨ましいと思う。
組も違うのに死んでも尚、心に残る"彼"を。しかしエースに話す機会をくれている――大切な兄をこのような形で利用するもは気が引けるが、"彼"が残っていてよかったと思っている。
「エースは…」
「ん?」
(俺が死んでも、覚えていてくれるか?)
完全に無意識であった口の動きを遮り、エースを見つめ直す。
「…何でもない。」
「変な奴。」
何を口走ろうとしていたのであろう。不可能である事を言いエースを困らせることは、自分自身が許さない。が、もし問えばエースはどう答えてくれただろう?
嘘の肯定、現実的な否定、優しい回避?
どうして困った顔をしているのだろう。安心する顔で微笑んでもらえ、少し心の波が穏やかになった。
++++
マキナがリストラサラリーマンになっていく様に笑った
11.12.13
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