えふえふ | ナノ



楽しい時間

※10000hit企画
※現パロ

人ごみの中、人をかき分けて突き進む彼についていくことしか出来ない。たまにぶつかった人の怪訝な顔に、反射的に頭を下げ聞こえるはずもない声量で謝辞をを告げる。
たまに振り返ってはくれるが止まる気配はない。声は届かず人混みへと消える。ふいに襲い来る脱力感に、また転けるかと思った。


「ちょっと、いいかな。」

エースから誘われたのは、授業終わりの放課後。特に用事もなく、ぼんやりと帰宅準備を始めていたため、肩を叩かれた時は心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。

「ど、どうかしたか?」

「言わなくてもわかると思ってたけど。」

「あぁ…うん、……今日も特に約束はないけど。」

「明日は?」

「明日?」

「今日、ちょっと用事があってね。明日はどうかなって。」

事前に予約してくるなど、彼にしては珍しい。お互いに急な用事が入り、約束が取り消されることの多い身である。しかしわかってはいても、ドタキャンをされると虚しいし、自らに非がなくとも気にしてしまうマキナの気持ちも配慮してくれているんだと思う。
明日は特に約束もなければ、断る理由もないのが自分たちの関係である。顔を赤らめながらも、マキナは首を縦に振った。

休日にデートなんて、いつぶりであろうか。
最近は一緒にいれる時間もなく、ふてくされていたところだったから丁度よかった。
しかし、酷く眠い。
昨晩、着ていく服を考えていたら、すっかり遅くなってしまった。

「マキナ、大丈夫?」

「ん、あぁ…平気平気。」

エースの手の動きがまた眠気を誘う。
楽しみにしていた、なんて知られたくない。子供の遠足じゃあないんだから、恥ずかしいではないか。
ふいと顔を背ける仕草は、エースにはどのように映ったのだろうか。柔らかい微笑みを浮かべ、また頭を優しく撫でられた。

「その前に、ハイ。」

突然の温もりに、体が飛び上がるかと思った。エースの体温とも違うし、これは…缶?

「俺、コーヒー嫌いなんだけど……」

「僕の奢り。」

「聞いてたかよ……」

「いいから、さ。飲まないと後々辛いぞ。」

確かに、今我慢出来ないほど眠い。すこし思考が麻痺するほど眠い。カフェインは眠気に効く、とは聞いたことがあるがここでもらうのは何かに負けた気もしてしまう。特に意味もない対抗心がそうさせてくれなかった。

「…いい。」

「ふうん?」

探るようなエースの顔が、何故か引っかかる。

「じゃあ映画、行こっか。」

前々から見たがってたのがあっただろ?と、記憶すらしてしまった題字と書体がエースの手の中で踊っている。
ああ、覚えていてくれたのか、いやいつの間にチェックされていたのか。彼の行動は油断ならない。それでも嬉しい気持ちは抑えられなかった。
しかし、この時から予想はついていたのだ。睡魔に襲われているのに暗闇に入ろうものなら、捕まるのも時間の問題だということに。マキナが船をこぎ出すのも時間の問題だった。開始約30分、声がなど最早子守歌。内容など頭に入ってくるはずがない。

(こんなことなら、服なんて適当でよかった…)

なんて今後悔しようが、次も、また次もデートの際同じ後悔をするのだろう。それほど彼との時間が、特別。

(寝たら、今日はお開き…かな…)

スクリーンから、女が泣き叫ぶのが聞こえる。
それだけは嫌だ。せっかくなのだから、今日だけでも一緒にいたいものである。せっかく時間をかけたものを無駄にするのも物悲しい。

(でも、眠い…)

衣擦れの音が聞こえた。
そして、手を包む他人の体温。
手を握られている。
しかしこれはホラー映画でもなければエースは怖がりと聞いたこもない。ならワザとだろう、いやワザとしかない。

(なんだよ……オレを寝かせて帰りたいのかよ…)

子供を寝かしつけるような手は、頭をゆっくり滑る。最後の力を振り絞り瞼を開けると、スクリーンには男女が寄り添う姿があった。

(もう、どうとでもなれ)

睡魔に包まれ、瞼はまた閉じられた。文句は起きてから言ってやろう。今は寝るのが先だから。手の伸びてくる方へと頭を傾け、枕を探す。丁度いい場所を見つけたから、頭を置けば、心地よい揺れを感じた。

『ゆっくり、お休み。』

「ずっと離さないからな。」

どっちがどっちの声だなんて、もうわかるはずがなかった。




「おはよう。」

目が覚めたのは、見知らぬ場所だった。暗くもないし、人ごみもない。それに自分がいたのはベッドの上。程よい狭さと、一人用の机を見れば、ここは誰かの部屋のようだ。

「おは…よう?」

「だから言っただろ?目を覚まさなきゃ、って。コーヒーも薬だと思って飲んでもいいだろ。」

「…効くとは限らない。」

「それもそうだ。」

読みかけの本は机に置き、彼は笑う。

「ここは、エースの部屋?」

「うん。そう。」

「…迷惑かけて、ごめん。」

「いいよ、軽かったから。人の目は集めたけど。」

「へ。」

少し、理解に時間がかかってしまった。今のはどういうことだ。

「…おんぶ?」

「いいや、だっこ。」

「…どういう?」

「お姫様抱っこ、っていう奴かな?」

問題あったか?て恥ずかしげもなく首を傾げられたら言い返せまい。悪気がないなら、尚更である。
ベッドに顔を埋め、唸り声を上げるが、それを気分が悪いととったのだろう。背中を撫でる優しさが、また心臓に悪い。

「そういえばマキナ。」

「ん…?」

「昼間の埋め合わせ。」

ニコニコとベッドに乗りあがるエースを見て、溜め息。
やれやれ、嫌でも一緒にいられそうだ。

+END

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こんにちはこんばんは、初めましてリィナ様。10000hitありがとうございます!
『エーマキ♀デート+お持ち帰り(裏)』というネタを頂きましたが、さすがにここに裏を載せるのも気が引けるので、とりあえずデートだけ書かせていただきました。
まあ、いつも通りのグダグダに…ち、ちょっとお持ち帰りの方法が思いつかなくて……
次は…裏ですね。どうなることやら。

ではでは、ネタありがとうございました!

12.3.26

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