信頼
※10000hit企画
※よんアザパロ
トランプ探偵事務所。
巷では有名な、一風変わった探偵事務所の名前である。表向きはごく普通のなのだが、奇妙な噂があった。
『悪魔を使役し、事件を解決する悪魔探偵』
と。
「エースさん、もう時間だよ。」
「本当だ。じゃあ留守番を任せていいかな?」
「勿論。」
読んでいた本を閉じ、所長であるエースは時計を見た。二つ返事で了承したのは助手であるレム、それと契約した悪魔・ジャック。女性でも簡単に腕の中に納められるほどの悪魔は、黒い尻尾を揺らしながらキーボードを叩いてはレムに怒られている。が、古びた本・グリモアを見せると、やっとキーボードは音を止めた。
グリモアとは、悪魔と契約するために必要であり、悪魔の説明書であり、文字通り悪魔の"弱点"なのだ。
「レムはいつもグリモアで脅すもんなぁ〜。」
「ジャックが悪戯しないならやめるよ?」
「えーヤダよ〜、悪戯は止めないよ〜!」
次はマウスを叩き始めたジャックを膝へと移すと、レムは黙々と仕事を再開し始めた。エースの見込んだとおり、レムは着実に悪魔の制御方法を覚えていく。
「じゃあ行くよ、マキナ。」
「え?あ、わかりました。」
せっせと台所を片付けていた悪魔が、愛らしい尾を振り後をついてきた。
頑張ってね、とレムに気持ちよさそうに頭を撫でられるところも可愛いのだが、少々妬けてしまう。
「今日は浮気調査だからね。」
「…それ、一人でも終わるんじゃ…」
「マキナが絶対必要なんだ。」
"必要"という言葉が照れくさいようだ。頬をかき、しょうがない、と尾を振る様は照れ隠し以外の何者でもない。
思わず抱き上げると、上擦った悲鳴が上がった。
「…で、何で近くの喫茶店に入るんです…」
「調査だよ、調査。他に食べたいものあった?」
「別に。」
「あ、すみません。コーヒーとチョコパフェお願いします。」
依頼主を待つにしてもマイペースかつ、妙に上機嫌な上司を見てマキナはため息をついた。
それに、今は小さいぬいぐるみの姿ではない。人型の姿をとらされているのである。
何故、悪魔としての本来の姿を晒されたのかはわからない。理解もしたくないが、今はこの姿で共にいれる時間を享受しようと思う。
「で、依頼人はどうするんです…」
「先に腹ごしらえだよ。お腹、すいてるでしょ。」
頭を撫でられたところは、店員には見られなかっただろうか。店員の笑顔から逃げるように、赤らんだ顔を伏せた。
「マキナは甘いもの好きだったよね?」
目の前に置かれたパフェに目を奪われていると、口先にスプーンが現れた。クリームをまとい、甘い匂いを漂わせながら。
「口開けて。」
恥ずかしいが命令なんだ、自分に言い聞かせれば、口の中に広がる甘さ。舌つづみをうっていると、また一口、また一口。まるで恋人のような振る舞いに、周りへと視線を走らせた。
(そりゃあ…恋人だけど)
半ば気圧された状態で承諾したが、エースとマキナが恋人であるのは変わらない。契約者ではない上、エースが仕事で動き回るため二人きりなど滅多にない。だから実はというとこの状況が嬉しかったりもする。恋人のように一緒にいられるこの時間が。
「二人きりなんて久しぶりだね。」
心を読まれたような言葉にドキリとした。
「契約してるのが、レム、だから。」
「別に僕はいつでも喚べるからいいんだけどね。」
「…一緒にはいられないけど。」
少し、寂しいと思ってしまうのは内緒である。ワガママをいえる立場でも、関係でもない。ただ出来ることといえば、多忙な上司の手伝いをして、肩の荷を降ろしてやるくらいか。
「で、お仕事は……」
「マキナはいっつも仕事の話だな。そんなに早く帰りたいのか?」
「休みたい、のでは。」
「わかった。真面目なマキナの為に白状するよ。」
降参、と両手を上げるエースに嫌な予感がした。また何か、この人は企んでいるのではないだろうか。
「今回の依頼主はレム。内容は言ったとおり『浮気調査』。」
「レムさん、が?誰の浮気調査?」
「僕だってさ。」
苦笑いしながら言われても、意味がわからない。
エースと、誰の?浮気をしているのか。エースが。誰と?
ぐるぐる、思案が回る。一体どういうことなのだろう。
「はは、やっぱりわからないって顔してる。彼女曰わく、『浮気してないって証明する為に、"調査"してこい』…だってさ。」
全く、僕が浮気するわけがないのに。エースの苦笑混じりの愚痴が聞こえる。
やっと納得がいった。
「な?マキナが必要、だろ?」
これは優しい契約者からの気遣い。
一緒にいれるように、と手回ししてくれたのだ。
「別に、心配はしてない…から、」
「え?なんで。」
「…浮気したら、意地でも帰りません。」
「それは困るな。」
「だから、次から、仕事の時は喚んで、くだ、さい……」
俯くマキナの頭を優しく撫で、人ならざる指を絡める。
「マキナ、敬語じゃなくていいから。」
「え、だって、貴方は…」
「ま、いっか。マキナはどんなことを言っても可愛いし。」
「なっなんですかそれ…」
「本当のことだろ?」
グリモアを捲りながら、エースは微笑む。一点に目を止めるとクスクスと笑い漏らし始めた。
「それよりパフェをいただけませんか?」
「はい、あーん。」
「ん。」
本人は素直じゃなくとも、グリモアは素直な心の鏡。
+END
++++
調査=デート
10000hitネタで『エーマキ・主従パロ』というものをいただいたのですが、真っ先に浮かんだのがよんアザパロでした(笑)
どこまでつっこんでいいのか勝手がわからず、ぐだってしまいましたね、すみません
これで興味を持っていただければありがたい…w
では、書き直しはリクをくださった方からのみ受け付けます!
ありがとうございました!
12.3.13
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[mokuji]
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