よんアザ | ナノ



籠の鍵

※ネタ募集品


"アイツ"は人を嫌う。下等生物と見下す、というよりは極力避けたい、という意思から起こる感情であるようだ、幼い頃から見ていてなんとなくわかった。
ホラ、また今日も一人。

「オイ、ベルゼブブ。」

「…なんですか。」

「俺様が話しかけてやってんだ、もっと嬉しそうな顔をしろよ。」

パーティーとなると嫌でも人は集まる。貴族はパーティーに出席するのは最早暗黙のうちに義務となり果てており、勿論彼女も現れる。このような場所を嫌うのは知っているし、他人が寄るのをよしとしないのもわかる。が女性を放っておくのは一人の男として放っておけない。

「喜べ、お前の分の料理を取ってきてやったぜ!」

「いりません。」

即決されてしまっては言い訳も聞かないだろう。やれやれ、と料理を避けると横に並んで景色を眺めてみた。
横には美しい青く派手なドレスを身にまとい、一人ベランダで風を浴びる彼女がなんと美しいことか。孤高でクールな彼女は誰もの視線を惹きつけていた。が、ベルゼブブ一族のことを知る貴族達は容易に近付くことは出来ないでいる。理由は、魔王にも劣らぬ絶対的な力と、趣向。

「一人でいて楽しいかよ。相手を見つけなくていいのか?」

「ええ。」

「俺様が居なくても楽しいのかよ。」

「とても。」

ニコリ、と返された笑顔は美しくもあり毒々しくもあり、ルシファーを暴走させるには十分だった。

「まあ悪食趣向の優お嬢様は誰にも構って貰えないよな!強くて人気な俺様と違ってな!」

「…そうですね。」

先程より一層塞ぎ込んでしまったベルゼブブにルシファーは頭をかいた。そういえば彼女に趣向の話はタブー。一族の特性だから仕方がないのだが、悪魔ながらもベルゼブブは女性、悪食と呼ばれる癖を気にしているのだ。

「さ、貴方も早く立ち去ってください。天下のルシファー様がベルゼブブ家に関わるものではありませんよ。」

姫様は貴族の女の中でも一段と気難しく難儀な性格である、つくづく思い知らされた。他の女ならはルシファーがくるだけで黄色い声を上げ逆に群がってくるというのに、ベルゼブブ家の愛娘の優だけは違う。誰も寄せ付けないオーラに、他人を拒絶するように伏せられた冷たい青い目。
ルシファーに対しても暴言を吐くわ嫌みを言うわあざけり笑うわ。普通の女には考えられない行動ばかりを見せてくれる。

「嘘だ嘘。そうすねんなよ。」

「うるさい。触るな。」

顎に触れた瞬間手を叩き落とし、また視線を夜空の彼方へと移してしまった。長い睫が寒さに震え、ドレスが風に合わせて踊り出す。癖毛混じりの長い髪も風に合わせて泳ぎだし、金髪が夜空に栄える。憂いを帯びたその瞳に、うっかり蠅の姫君に見とれてしまい、息をのんだ。

「ベルゼブブ……」

「ルシファー様ー!なにをしてらっしゃるのー?」

最悪のタイミング、とはこの事だろう。さっきまで構っていた女たちが痺れを切らせてルシファーを探しにきてしまった。目ざとく闇に紛れそうなルシファーを見つけて呼び出してしまい、二人の差がまた広がった。

(あのまま、何を言おうとした?)

フレテヤルンダ、アリガタクエモエ?
コノバカオンナ?
ナニガミエルンダ?
ホントウニタノシイカ?
オレサマヨリ、ナニガキニナル?

コッチヲミロ

ナゼ、ナキソウナンダ

キレイダゼ……


「どうしました?ファンがお呼びですよ、ルシファー様?」

我に返ればニヒルな笑みを浮かべたベルゼブブが、喉の奥で笑っているのが見えた。しかしいつものような腹のたつものではなく。

「ベルゼブブ。」

「はい?」

「…後で絶対きてやるからな。俺様から逃げるなよ。」

指を差し宣言してやれば見開かれる目、歪む顔。

「待たねえよ、バーカ。」

悠々と歩いていくルシファーを見送ったや否や、すぐ外の世界へと視線をうつすのが見えた。

自由な彼と違い、自分はまるで捕まえられた鳥のよう。可愛がられてはいるが、心のどこかでは厄介がられ檻から出して貰えるのは飼い主の側でのみ。可愛がられるもの主人の気まぐれ、飽きたら捨て、大きくなりすぎて刃向かえば捨て知らぬ世界で殺される。
このパーティーも悪魔たちが互いの家や能力の成長を監視し合ってるにすぎない。特に魔王に近い一族や、疎まれる一族のことを警戒して。

(いっそ、扉が開かないのなら)

羽なんていらない。飛べない羽なんていらない。
時間も忘れてぼんやりと外を眺めていたら、後ろからのびてきた手が手を引き腰を掴んだ。見事な回転を強いられ腕の中に収められたらと思ったら、目の前にいたのは、やはり。

「また来たんですか。物好きめ。」

「いいじゃねーか。ルシファー様はファン一人一人に優しい魔界での最高の紳士なんだぜ?」

「ファン?自惚れんなよナルシスト野郎が。一生鏡でも見てろ。」

顔を引っ付かんでは引き剥がそうと、力を込める。痛みを訴える声など知らない、とりあえずこの密着を早く解きたかった。

「落ち着け優お嬢様!」

「名前を呼ぶな、許可した覚えはない。」

「Shall we dance?」

気がつけば中では優雅な音楽が流れており、男女が手を取りリズムをとっているところであった。
もうそんな時間か、とぼんやり考えていたら問答無用と手を引かれ室内に引きずり込まれてしまった。

「まてよこの野郎!」

「まーさかルシファー様の誘いを断るバカ女はいないだろう?エスコートしてやるからありがたくて漏らすなよ!」

「誰が!」

強引なくせに、抵抗できなくて。鬱陶しいくせに邪険に扱えない。

(あぁ、鍵は意外と近くに落ちていたのかもしれない)

+END

++++
『舞踏会なルシべー♀』というリクをいただきましたが…舞踏会最後だけ/(^o^)\何がしたかったの/(^o^)\
ルシベー難しいですね…あぁべーやんのドレス姿描きた、いや誰か描いてくださいな(・ω・)

リクエストありがとうございましたー

11.8.22

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