よんアザ | ナノ



無邪気な瞬間


たたが三流されど三流、とはよく言ったものだ。いや窮鼠猫を噛む、火事場の馬鹿力、どれもしっくり来ないが…あぁこれならいけるだろう。

(バカの一念か)

陰謀の悪魔であるアザゼルは性に対する執念は人一倍。別に悪魔が欲望に忠実なことに対して愚痴を言いたいわけじゃない。
ベルゼブブも芥川やルシファーから罵詈雑言を投げかけられるだけの趣向を持ち合わせてはいる、いるのだがこれに直接関わってくるのは自分"一人"、性欲となれば必ず"二人"が関わってくる。
少し面倒くさい言い回しをしたが、要するにアザゼルの職能は、必ず被害者が存在する、ということだ。


「わー!ベルゼブブさん、可愛いじゃないですか!」

正座をしながら俯き、プルプル震える女性の後ろから抱きつくイヌ面のオッサン。そのイヌの背中見えないハートが見えた…気がする。いつものペンギンの姿は見えないのは仕方がない、見慣れない金髪の女性の正体がそのベルゼブブだからだ。
普段なら悪魔が悪魔の術にかかるなどいうヘマはしない。だが執念、いや煩悩の勝利というか。

「さくがあとちょっとで邪魔したからのう、空気読めや!」

「最高に空気を呼んだタイミングだと自負してますが。」

害虫をグリモアではたき落としてくれたことには感謝する、が、状況をより面倒くさくしたのは他ならぬ彼女。露骨に睨みつけてから第二の原因には恨めしそうな視線を送った。周囲の喧騒など別空間、一人静寂の中本を読み進める芥辺に、だ。
最初はいつも通りペンギンの姿だったのに、佐隈がベルゼブブが女体となった、と知れば興味深々。芥辺に頭まで下げ始めたのだ。
佐隈に甘い上司である。と二つ返事で了承すると本人の意見は聞かずにソロモンリングを解き…今に至る。
今日ほど佐隈と芥辺を恨んだ日はない。

「じゃあ早速…」

「先に生贄を所望します。」

ニッコリと笑い合う二人だが、ベルゼブブの額にはくっきりと青筋が見える。再びアザゼルが飛びついてきたことが更なるストレスを蓄積させ、アザゼルの顔面には不良顔負けの肘鉄とかかと落としが入ることとなった。

「美味しいカレー食べさせてあげますから、機嫌を直してください、ね?」

どれだけ怒っていてもカレーという単語には弱い、ある意味一番扱いやすいのは彼かもしれない。嬉し恥ずかしそうに頬を染めると、ぷいと顔を逸らすとツンデレを発揮する。それにまたアザゼルがまとわりついてきたが、今度は体術ではすまなかった。

「ならば店にでもつれていってやろうか。」

「あ、芥辺氏…?」

アザゼルを壁とグリモアでサンドした芥辺がベルゼブブを見下しながら提案する。返り血を浴びている姿は怖いというものではない。身を縮ませ、恐る恐る視線を向けるとなれば自然と上目遣いとなり、恐怖の相乗効果により涙目な瞳と怯えたような顔、加虐心を煽る上、色気が滲み出ていた。

「人手が足りないからだ。それ以外に理由はねえ。」

「そうと決まれば行きましょか!」

「テメェは留守番だ役立たず。」

慰めてもらおうと佐隈へ飛びつこうとしたが、すでに芥辺が掌握済みで使えない。結果、アザゼルのみ心に傷を負いながら魔法陣へと押し込められてしまうこととなった。
さて幸か不幸かベルゼブブは外へと連れ出されている。佐隈と二人きりならまだよかった。緊張や遠慮は彼女には必要ないからカレーの味を楽しむことに集中できる。だが芥辺がいるならそんなのうのうと出来ない。

(何か企んでいるのか…?)

企む、というより彼がこのような行動に出るのが珍しすぎて声も出ない。それ相応なる無理難題をふっかけられるのかと覚悟しておいたほうがいいかもしれない。
さて、とりあえずは無事に目的地まではついたのだが。

「ベルゼブブさん、肩の力抜きましょうよー別に芥辺さんは機嫌悪いわけじゃないんですし。」

「そ、そんなことはわかってます!ち、力は抜いてますから!」

「いや、ガチガチですよ。」

席に座ってからというもの、視線は常に芥辺の方で威嚇している猫のようだ。芥辺も芥辺で何を考えているのか視線を外さないし、目線を外したら負けのゲームのようになっている。「お待たせしました」と肝の座ったウエイトレスの一言がなければ永遠に続いていたであろう、この戦い。軍配は芥辺へとあがった。

「ベルゼブブさん、お先どうぞ。」

「ではお言葉に甘えて…」

カレーが現れた瞬間に綺麗な蒼眼はカレーに釘付けとなったが、芥辺の熱視線は止まない。だが一度カレーに集中してしまったベルゼブブは、至近距離で事件があろうが無視を決め込むのだ。いつもより丸い目を輝かせてカレーを頬張り始めたら、芥辺すら例外ではないようである。
スプーンでカレーを口まで運び、目を輝かせてはまた頬張り。いつも佐隅のカレーだから他の味が新鮮らしい。感情を隠すことなく食事に専念している。

(可愛いなぁ…)

熱いため顔を赤くしながらも手を止めることはない、彼女が。カレーが元々子供がよく好むメニューだからか、幼く感じられ愛おしく思える。

「ベルゼブブ。」

「はい?」

「ちょっと面かせ。」

声をかけられたことで芥辺の存在を思い出し、固まる体。そしてかけられた言葉に思考も完全に停止した。怒っているのか、とも思ったが佐隅はそうは感じない。全く動かなくなった彼女に痺れをきかそたのか、芥辺自ら身を乗り出し、

「きたねえ食い方すんじゃねえよ。同類に思われるだろうが。」

頬についていた米を摘むと躊躇いなく自らの口へと放り込んだ。また体罰か、と身をすくめていたベルゼブブだが衝撃がこないことに唖然となり、状況を理解すると慌てて真っ青になりながら礼を述べた。ベルゼブブの顔が蒼白としていなければ恋人同士の行動なのだが、佐隅は苦笑いするしかない。

「ベルゼブブさん、カレーは逃げませんから、ね?」

「は、はい…」

芥辺の注意が怖かったのか、すっかり縮こまってしまったベルゼブブがまた可愛いと思えてしまった。女性となってしまったから、というのもあるだろうが、なんというか、上品な仕草が元より様になっていたからというか。

(たまにはアザゼルさんもいいことするなぁ…)

食事を放棄し、珍しいベルゼブブの姿を見つめる佐隅と、同じく別の人気カレー点のケータイで調べ始めた芥辺にベルゼブブが気づくのはいつになることやら。

+END

++++
前のルシベーネタを頂いた時の失敗作のリサイクル@
にょたの意味が家出した
芥辺さん、餌付けしようとしてます

11.8.16
修正:11.10.15

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