よんアザ | ナノ



表裏一体故、


様々な人間を見てきた。様々な汚いものも見てきた。顔を見ればいくら口では綺麗なことを言おうとも、内の醜く汚いものがわかる……それだけの人間を近くで見つめてきた。
だが、この男ときたら。

「ピ、ピギィ……っ」

「黙れクソバエ。動けばコロス。」

目の前には忌々しいグリモア。とうせんぼをするかのように両腕を広げられては後ずさるしかない。しかし後ろには最近自分を恐怖に陥れる、人間の皮を被った悪魔の腹部。既に膝の上であるし触れたところで物理的になにかが起こるわけではない、だが精神が磨耗される…なんだこの拷問は。

「ア、ア、アアクタベ氏、なんのつもりですか…!?」

「うるさい。次喋ったらグリモアを抱かせる。」

なんと恐ろしいことを考えるのだろう。
彼はやるというからにはやる男だ、それだけは防がねばならない。悪魔と言えども痛いものは痛い。特にベルゼブブは契約者からお咎めを受ける失態を良しとしない。要するに痛みに対する耐性は他の下級悪魔より低いのだ。

「そうだ、動かなければ当てん。スーツを汚されたくないからな。」

ぬいぐるみのようにちょこんと座り込んでやっと落ち着いたが冷や汗は止まるわごない。そんなベルゼブブを芥辺が気遣っているのか、グリモアを離して見ている。いや、気遣っているなんてそんなわけはない。きっとベルゼブブの慌てふためく姿を見て楽しんでいるのだろう、徐々に近づくグリモアを黙読し続けている。

(ちょっと待て!!これはこのワタシのグリモアではないか!!)

警戒して睨んでいるうちに気がついた。見覚えのある学校、人名、特技、趣味…これはまさしく、自分の歩んできた軌跡の書かれた書であり、文字通り自分の弱点のグリモア。
パラリ、パラリと静かにページがめくられる度、彼に暴かれていく秘密。一体今はどこを読んでいるのだろう。ああ先程はアザゼル、という単語が見えたから学生時代か。

「お前、彼女は作らない主義か。」

「…いいでしょう、そんなこと。」

「そんなこと、ククッそんなことか。」

貴方にワタシの何が理解出来ますか!!と言おうとして、やめた。言ったらグリモアの求愛を受けるハメになる、それだけは避けなければ。しかし目の前です自分の醜態を眺められるのも我慢ならない。

「も、もう満足でしょう!解放して頂ければありがたいのですが!!」

「いいだろう…抜け出したいなら好きにしろ。」

胸をなで下ろしたのも束の間、突然視界が高くなり芥辺の顔も近くなったと思えば…

「ひ、ヒィィィィィィィィ!!!!!」

近い、非常に近い。グリモアが背のスレスレにまで迫っている。プリティーボディの方がまだよかった、人間となってしまえば体格は何倍にもはね上がるのだ。恐怖に挟まれ、思わず目の前のものに抱きつくと意地の悪い笑いが聞こえてくる。

「どうした?逃げないのか?」

「逃げれるならとっくに逃げている!!貴方は鬼だ悪魔だ人でなしだ!!」

「その人でなしに自分からすり寄ってるのは誰だ?なぁ?」

まるで誰かに言い聞かすように自慢するような、言葉と視線にゆっくりと振り返ると見られたくない人物たちた目が合った。や、やぁおかえりなさいさくまさん、アザゼル君…、赤や青に変わる顔色と額からの汗が止まらない。

「ち、違うんです!!これは…っ」

「離れてもいいのか?」

邪悪な笑みと再び近付いてくる書物。体は反射で動く。芥辺に熱い包容を交わし、恥ずかしげもなく体を密着させる体制になるように。

「べーやん…お前……」

「ち、違いますって言ってんだろ!?アクタベ氏がグリモアをーっ」

「だってその本はグリモアじゃないし…」

佐隈の指摘で一気に血の気が引いた。芥辺の、また一段と深まる靨がが憎らしい。

(やられた…)

膝にいるのも恥ずかしくなり、飛び上がるように距離を開け…られなかった。腰を掴まれ再び視線が下がったと思うと、複眼へと暖かいものが触れた。

「気になる相手がいるのだろう?コレに書いていたぞ。」

それに、近頃清潔にしているなら許してやる、と唇が目蓋に、髪に、指に。二人からの熱い視線は気づかないフリをするしか、この恥辱心を抑える術をベルゼブブは知らなかった。

「やはりグリモアとは便利なものだな。」

ベルゼブブが今日こそグリモアも存在を恨んだことはない、唇を奪う温もりを感じながらも溜め息をついた。

+END

++++
そういえばグリモアってなんでも書かれてるなら、読めば気持ちもバレるよね
思っただけです(・ω・)

11.7.12
修正:10.14

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