よんアザ | ナノ



旨いものには裏がある

「今日のイケニエはカレーがいいです。」

ある昼下がり。依頼なく手持ち無沙汰なのはいつものこと。昼ご飯を兼ねて生贄を聞いてみればこれだ。
いつも要求されるモノは同じ。あぁ、どれだけこの人はカレーが好きなんだろう…佐隈は呆れではなく最早尊敬の念を込めてベルゼブブを見るしか出来なかった。
栄養が偏るのでは、飽きないのかと聞きたいこともあるがへそを曲げられたら面倒だ。そうなれば即行動、彼女は営業スマイルを浮かべ頷いた。

「はい、だから今から作りますね。」

「違いますよ、今日の依頼を受けたのはアクタベ氏、ならば氏のカレーを所望します。」

なにを言い出すかと思えばまさかの一言。鬼雇用者の顔にいつもよりも深い闇が差し、舌打ちのオマケつき。目を合わせる勇気も出ない。
死ぬ気かこの男は、とアザゼルの恐怖に駆られた呟きは誰もが納得するものだ。

「や、やめたほうがいいです!!まずアクタベさんが台所に立ってるところ見たことありませんし!!お茶すら自分でいれない人ですよ!?」

「せやせや!!それにカレーにまで邪気が移って死んでまうて!!」

佐隈の言い分は最もである。この場にいるまともな者、要するにアザゼルも台所の未来を察知し青ざめる。文句を言うのは二人だが仕置きをうけるのはアザゼル一人、毎度ながら哀れなものである。

「おいクソペンギン。あまり調子に乗るなよ…」

「おやぁ?アクタベ氏、カレーくらい誰でも作れるでしょう?今日はどれだけ脅されてもさくまさんのカレーは食べませんから。」

紳士らしく佐隈に謝る姿はいつも通りだが珍しく表立った反抗の姿勢を見せるベルゼブブに二人は驚いた。あれだけ自らの保身を優先し、芥辺には絶対服従な彼が、子供のようなワガママなど珍しい。

「本日はどうしてもこのベルゼブブの暴露の能力が必要なのでしょう?」

勝ち誇った顔にまた青筋を濃くした芥辺だったがすぐ不適切な笑みを浮かべる。いつものことといえばいつものことだが、佐隈は言い知れぬ不安を感じた。

「いいだろう。だがそれ相応の働きはしてもらうぞ。」

機嫌がいいのか悪いのか、黒い笑みを残して台所に消えた芥辺を二人はただ見送るしかなかい。何が起きるのかわからないというのに上機嫌な鼻歌を口ずさむハエ悪魔には、軽い同情を覚えつつ。

佐隈のカレーを"上手い"というなら芥辺のカレーは"辛い"。隠し味を利用して家庭の味を進化させる女性の作り方ではなく、様々なスパイスを加えていくやり方で。佐隈もアザゼルが口々に賛美を送る中、ベルゼブブは音符を出しながらそれはそれは嬉しそうに咀嚼していた。
それが丁度一時間前で。今は芥辺とベルゼブブは依頼人の前で事件を解決に導いていた。今日の芥辺は奇妙であった。「姿は消すな」と命令され、ベルゼブブは今芥辺には似つかわしい人形として隣に置かれている。

「さてなにか反論はありますかな?」

今回は浮気調査、芥辺により言い逃れ出来ない現場を差し押さえられ、写真を突き出されれば余程の人物でなければ反論出来まい。
しかしベルゼブブは鮮やかなお手並みに感嘆する間などなかった。体が熱い、芯が疼く、段々息が上がってきた。だが動くな、とドスの効いた目で脅され、または命じられているために身じろぎすら出来ない。

「畜生、テメエ!!よくもそんな偽の写真を一!」

逆上し尚見苦しい抵抗を見せる星を片手であしらい目だけで相手を怯ませる。いつもやられている身としては自然と同情心が湧いてくるが、また別のものもこみ上げてくる。

(畜生、この症状は…!?)

自ら服用したことはないが、効力は知っている。油断した、そう気付いた時にはもう遅い。あの芥辺が快諾した時点でおかしいと気付くべきだった。
体が芯から疼き火照るこの現象はまさしく媚薬。姿を表しておけというのはこの男の最悪な仕返しの一つであった。まだあの時にグリモアの力によって木っ端みじん、のほうがどれだけよかったか。

「いいぞ、やれ。」

合図と同時に持ち上がる体。我に返り、疼きに耐えながら力を行使していたというのに、あろうことかフワフワな腰をもみ込まれた。
この手つきはたまったものではない。
ただでさえ敏感になっている下半身を触られ、小さく声が漏れた。勿論これが狙いである。小さく耳に届いたのは楽しそうな悪魔の囁き、「聞こえるぞ?」。こんな屈辱初めてだ。聞かれることはプライドが許さない上、芥辺にしてやられるのはいけ好かない。
そんなベルゼブブの苦労など露とも知らず、暴露の力を当てられたら星は真っ青になる。あとは二人の仲が破綻するのを待つのみ、

「!」

ではなかった。布越しに体を撫でられ一層欲を刺激される。睨みつけてやりたい、文句も言いたい。だが情けない声が漏れるのは確実。
ニヤニヤと嫌な視線を感じる。引き結んだ嘴も限界、だが鬼の上機嫌は一瞬でイラつきに変わった。
依頼人たちの決着がついたのだ。結果はどうやら離婚、いやそんなことはベルゼブブにはどうでもいい事。

「姿を隠せ。もういいぞ。」

舌打ち交じりに聞こえた言葉は、芥辺からの言葉で初めて嬉しいと思えるものだった。

「まさか我慢出来るとは…いいだろう、帰ってもっといいイケニエをくれてやる。」

身体にな、とつかなければどれだけよかったであろうか。オマケに受け取るものだけを頂いて帰路につく彼の腕の中、「帰ったらまたカレーでも食うか?」と囁きも聞こえる。
ベルゼブブはただ赤い頬と視線を反らすしか出来なかった。

+END

++++
いつも彼が上手
…いや一発目から媚薬とかどういうことなの……

11.7.6
修正:10.11

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