脱力麻雀
この話の発端はそう、いつものようにアザゼルと暇を持て余して麻雀をしていた時だ。
「賭をしようやないか。」
先程まで負け越していた癖に、何を言い出すと思えば。強気に言い放つアザゼルには、一点の迷いも躊躇いもない。
「今まで私に無様なボロ負けしか出来ない君が?私に気を使ってくれなくとも構わないのだが。」
「フン、吠えるなら今のうちや!今日は助っ人を呼んどる!」
「助っ人?」
どうせ勝つのは自分だ、ベルゼブブはそう確信していた。まさか、こんな面倒な奴がくるとは思わなかったため、この二つ返事を後悔することになろうとは。
「また俺様の勝ちだな!」
サラマンダーはどこかかで拾ってきたのだろう、それはいい。だが、まさかルシファーがくるとは思わなかった。今まで知り合いのよしみもあり、暇つぶしや脳トレの代わりとしてチェスや麻雀など色々のゲームをしてきたが彼は今までのやつとは違う。軽いながらも見た目によらず、一筋縄ではいかない彼。
今までの勝敗は五分五分、いや少し負け越しているかもしれない。それほど厄介な相手、それがルシファーという男。
「くっ」
「てめえはいちまでもクセがぬけねえなぁ…」
「てめえは何も考えなさすぎて読めないんだ!」
「じゃあべーやん、約束やで。」
基本的なにもしていないアザゼルがニンマリ笑いベルゼブブへと手を伸ばしてくりのを勢いよくはねのける。
「自分でやる。触るな!」
条件、それは負けたものが服を脱ぐ…要するに脱衣麻雀。負けは負けだ、潔く男として認めるしかない。上着に手をかけるとおお、と外野から歓声が、サラマンダーまで興奮したように目を見開くのが怖い。
「脱げなくなったらなんでも言うことを聞く、だったね…」
上着を脱ぎ捨て(でもたたんではいる)、ユラリと頭を上げるベルゼブブからは異常な闘志を感じる。
「ああ、だが勝つのは俺様だぜ。」
「3対1なのも忘れんなやー。」
「面白い…さっさと負かせて今後私に絶対服従してもらおうじゃないか!」
只今の戦いはベルゼブブが押されている状況である。彼は今上半身半裸。何回か勝ちはしたが、先に吹き込んでいたのか、ルシファーがマントを重ねていたこと重ねていたこと。全く気づかなかったのも悪いが、そこまでするかとも思う。しかもお忙しいルシファー様がこのような児戯に付き合うなど、おかしいなことずくし。つっこんでも開き直られるなら、大人気ないしもう黙っておくしかない。
「さ、また俺様の勝ちだぜ?」
「くっ!」
倒れてきた牌を見て思わず歯軋り。ニヤニヤと笑うルシファーが憎たらしくて仕方ない。しかしあと脱げるものと言えばズボンと下着のみ。ズボンを脱いでしまったら変質者、いや紳士としてあるまじき失態を晒すこととなる。
(か、かくなる上は…っ)
「あ!べーやんなにしとるんや!」
「上を着て下を脱ぎます!それなら文句ないでしょう!」
カッターを着て下を脱いでしまうほうがまだ見栄えとしてはマシであろう。座っているのだから足で隠してしまえばいいのだから。サラマンダーの荒い鼻息はもう無視を決め込むのがいいに決まっている。
「ふうん?わざわざイヤラシイ格好を選ぶとはなぁ…ベルゼブブ、そんなに抱いてほしいなら俺様の元へ夜這いしにこいとあれほど…」
「べ、べ、べーやんのパンツ…」
「バカモンッッ!!男たるもの初夜の後にて奪え!!」
アザゼルはもう目も当てられないくらいに粉微塵にしておいたから問題はない。だがサラマンダーの問題発言はどうしようもないだろう。真面目の奥にそんな言葉を隠し持っていたのか、ムッツリスケベだったのか…とベルゼブブはいろいろな意味で驚きとショックを隠せない。もう同性であるという問題は気にしては負けだ。
「やっぱりお前はモテるな…俺の嫁も有名になるのは宿命…か。」
「黙れ。今侮辱したろ貴様。」
「今のチャンスにこのままお持ち帰りでもいいけどな、そこのトカゲがうるさいからな…まずは正々堂々お前を負かせてやるか。」
アザゼルとサラマンダーは最早パンツの取り合いに必死になっているために実質一騎打ちである。さっきと言っていることが違う、これは言ってはいけないお約束だ。
変に燃えている二人二人の男のペアに、周囲の悪魔たちも異変を感じて近づきすらしない。静と動、まさしくその両極端の戦いの勝敗は…動のほうは知らないが、静の方はルシファーの笑みにより終結した。
「さ、約束だよなベルゼブブ。脱いでもらおうか。」
「お、おのれ…っ」
完敗という屈辱に顔を真っ赤にしているのだが、どう見ても今の姿を恥ずかしがっているようにしか思えない。開き直りかもう恥を捨てたのか、引きちぎるようにカッターを脱ぎ捨てたベルゼブブにおお、と感嘆の声があがると同時、悪魔たちの視線を一身に浴びることになる。ルシファーをギッと睨みつけることでこの怒りを発散していたが、何かによって視界が覆われそれも中途半端に終わった。
「な、何をする!」
「別にそのままのほうがいいがな、風邪ひかれても他の奴に裸体を見られるのも勘弁ならねえ。俺の物を視姦すんな。」
視界を覆ったのは彼のマントだ。意外な行動だが、甘んじて受けても問題のない好意にマントにくるまることにした。香水の、いつものルシファーの匂いがする…それはいいのだが何故今体が持ち上げられた感覚がしたのだろう。
「おい!何をしてる!」
「決まってんだろ。あとはもう俺様の勝ちは決定したんだ。言うことを聞いてもらうぜ。」
「ふざけんな!!決着はついてねえのに変な妄想に浸ってんじゃねえぞ!!」
「なら、俺様の家で決着つけっか?特別に、だぞ。」
「おもしれえ!!」
止められるものは誰もいない、痴話喧嘩としか言えないものを唖然と見送るしかない悪魔たちは翌日に見たものはというと。
げんなりとした顔とは裏腹に左薬指に金の輪をはめるベルゼブブの姿であった。
+END
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式場にぶちこまれました/(^o^)\
11.9.14
修正:11.10.16
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