よんアザ | ナノ



正反対

※10000hit企画

「明日こそ、ですね。台風がくるか、竜巻がくるか、それとも魔界が滅亡するか。」

「…るっせーな。俺様がどれだけ優れてようが体は壊すことだってあるぜ。」

「なんとかは風邪をひかない、というのに……やれやれ、人間の諺もあてにならない。」

ルシファーの顔が見えなくなったのは、一週間前。別に彼がいなくなろうが構いはしない。
どうせ食べ物か女かは知らないが、食べ過ぎで当たったのだろう。そのくらいなら命に別状があるわけもないし、心配しに行くだけ無駄に決まってる。

「なあ優一ぃ。」

「動かないでくれません?菌が飛びますよ雑菌野郎。」

「お前、菌には耐性あんだろ。」

「あぁ?」

伸ばしてくる手を無理矢理布団に押し戻し、鎖を手にする。鬱陶しく動き回る奴は、縛るに限る。布団も捲れなくなるし、布団に引きずり込まれることもなくなり、一石二、いや三鳥である。

「鎖は止めろって。病人だぞ!?」

「知るか。それだけ口が動いて血色のいい病人がどこにいる。」

「一週間前と比べて男前が直ってきたんだ。素直に喜べ。」

「うるせえ、食え。」

見よう見まねと感が作り出した林檎を突き出してやれば、水水しい軽い音をたて消えていく。

「明日には回復しそうです?」

「ん〜ダメだわ。明日また熱でるかも。今もなんか熱い…」

「可哀想に。使えない脳を酷使したので知恵熱ですね、ご愁傷様です。ゆっくりあの世でお休みください。」

「ちげーよ。他にもあんだろ。」

「盛ってんじゃねえよ。」

フォークで舌を突き刺してやろうと思ったが、歯で受け止められてしまった。本気でやったというのに…残念である。いつまでの突き刺していては、フォークが曲げられてしまう。仕方ない、今回は舌料理は諦めることにした。

「チッ。歯だけは無駄に丈夫ですね。」

「でもキスはうまいだろ?」

「バカ言ってろ。お腹が空きましたので席を外しますが、決して動かぬように。」

「この林檎食えばいいだろ。」

「食べさしなんて食べられるわけないでしょう。」

何本目かわからぬ、犠牲になった鎖と投げられた林檎。半分であるソレをさらに半分に裂くと、思いをこめて投げ返す。

「おとなしく食べていなさい。私は食事をとってきます。」

「ここで食えよ。つれねえな。」

「そうはいきません。不快なんです。」

何がだよ、そんな声は彼に届かなかった。
ベッドの上でごゆっくり、という言葉を残して、間髪いれず扉が閉められてしまった。


(今更恥ずかしがることもねえだろ〜)

趣味のわりに小綺麗な部屋を見回し、引き笑いをもらす。
この一週間、嫌でも見慣れた場所であるがまだ興味はつきない。動くな、の一点張りであるし、妙に神経質な彼のことだ。少しでも物を動かせば気付かれるかもしれない。

(そろそろ、治ったか)

林檎の片割れを手にすると、少し力を加える。木が砕けるのとはまた違う軽い音と、砕ける軽快な音。
どうやら力は元通りになったようだ。

(全く…ちょーっとインフルにかかったくらいでパニクりやがってよぉ……)

勿論高熱を出してはいたが、グリモアが回収されない限り死なないのが選ばれた悪魔の特権である。陰鬱な気分が気持ちのいいものではないが、焦って治るものではない。
だがいち早く異変を察したベルゼブブに、有無を言わせず引きずられた。

『貴方の自称・ファンに付きまとわれては安眠も出来ないでしょう。』

客間ではなく優一の自室の、自身のベッドに放り投げられて早一週間。

(どうせ、俺様を独り占めしたかっただけだろうに…)

軽快な音を立てて、林檎が欠け口内に消える。

「おや。寝てろ、と言ったのが聞こえませんでしたか。」

間が悪いというかなんというか。立ち上がって歩き始めた瞬間に、ベルゼブブのご機嫌と不機嫌が同居した声がする。

「よお、お帰り。」

「寝てろ。」

「もう治ったぜ。な?」

砕いた林檎の残骸を見せれば、目を細められた。
ヤバイ、怒ってる。

「寝ろ。」

「大丈夫だって。」

「顔色が悪い。」

「元からこんな色だ。」

「元から悪い顔が更に悪化してる。

「色が抜けてんぞ。」

「…寝て、ください。」

ああ、またこの目だ。
無理矢理連れてこられた時もコレが一押しとなり頷かざるをえなかった。
一瞬、本当に一瞬。憤りと寂しさと恐れと、期待の混じった目。迷子になった子供のような、そんな目についつい惹かれて止まないのは自分だけではないと思う。

「仕方ねえなあ……」

ベルゼブブの腕を引き寄せ、ベッドに放り投げる。噛みつこうと起こした上半身の勢いのまま、頬に噛みつけば「ピャッ」と悲鳴が上がる。
成る程、柔らかい、と咀嚼していると髪の毛を渾身の力で引っ張られた。

「いてえだろ。」

「それはこちらの台詞ですっ!」

血と涙の滲む顔を見ていると、ゾクゾクしてくる。悪魔の性か本能か、何かはわからない。だが彼の表情が一番魅力的なのは言うまでもない。

「お前を食いたい。」

「…仕方ない人だ……」

手にある林檎は、いつの間にかベルゼブブの口へと奪われていた。

+END

++++
10000HITありがとうございます!
『ルシベー』だけでシチュ指定がなかったので、看病ネタにさせていただきました。
小ネタレベルを引き伸ばしただけですが、これが限界です。無理です。

いろいろ変な隠喩をぶちこみまくりましたが……、こ、今回はこれで失礼します…っ

12.3.27

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