見ているモノ
※ネタ募集枠
「見ていろ……必ず俺のものにしてやる…」
(その言葉で、私がどれだけ傷ついたか、貴方は知っていますか?)
誤ってルシファーを連れてきてしまって以来、芥辺はやたらと事務所を開けることが多くなった。理由はわかる。ルシファーのような悪魔を見つけたのだ、手に入れて配下におこうと躍起になっているのだろう。
別にその事に関して触れることはなにもない。だが、耐えられないのは別のところにあるのだ。
「ベルゼブブ。ルシファーとはどんな奴だ?」
夜はいつも、二人の時間"だった"。昼は佐隈やアザゼル、他の悪魔といった邪魔が入るためにのんびり、いや芥辺と静かに過ごせるのは夜しかない。なのに、最近はその時間すら侵食されつつある。姿もなき傲慢男によって。
(…またですか)
最近は二人きりになったらこの話ばかり。性別や種族の問題はあれども、一応恋人同士。なのに、恋人の前で他の人物…男の話をするとはどういうことなのか、わかりかねない。心中を察してはいるが、恋人としては納得のいくものではないのだ。
「どうなんだ。早く答えろ。」
「ルシファー君は古くからの知り合いですよ。それ以上ではないですが、それ以下にはいくらでもなりえますね。」
「そんなことはどうでもいい。奴自身の事を聞いているのだ。」
いつもそれだ。うまく話を逸らそうとしても芥辺からは逃げられない。話であろうと、自由であろうと、心であろうと。溜め息をつきながら視線をずらすとベルゼブブのグリモアを読んでいる姿が見えた。
書いていないか、と呟くあたりルシファーのことを少しずつでも探れないかと努力しているようだ。そんなことのためにグリモアを探らないでほしい、と普段から伏せられたら目を悲しげに伏せた。
「…傲慢のルシファー。明けの明星とも皇帝とも呼ばれる、魔界で最も魔王に近いと言われる男です。」
「魔王?お前はどうなんだ。」
「私は…いろいろあるのです。」
目線を逸らし、頬を膨らますベルゼブブを慰めるように撫でる頬。
「そうだな、お前には魔王は無理だ。」
「なんだと!!」
「で、ルシファーとはどういう能力を持っているんだと聞いている。」
話を逸らされた、と思えばまた戻される。どうあっても彼、芥辺はルシファーのことを諦めることが出来ないらしい。
「…前にも仰った通りです。私にもわからない部分が多すぎるのです。」
そう、彼も、芥辺も、謎が多すぎる。
誰もかれも言い寄ってくるというのに、自分には何も話そうとはしない。そういう自分も本音を暴露をしないのだが、それとこれとは話が別。我が儘?いいや悪魔、人として思うことであろう。
(私にも、貴方の心意を測りかねます…)
「ふぅん?ならば次召喚する前の命令だ。」
「なんなりと。」
「次もルシファーをつれてこい。そうだな…体に触らせることは許さん。」
「アクタベ氏…」
何故もこの人は酷な選択をさせるのだろう。愛おしそうに腰を撫でる芥辺の優しい手からは考えられないような残酷な刃が、言葉として吐き出される。心を傷つけてもなお飽きたらず、心を抉る。
「いいか、お前の得意な口車でならいくらでも乗せてやれるだろう。」
「貴方は残酷な人だ……」
口付けをねだろうとすれば軽く制される。恋人から他の男に媚びを売れ、などなんと残酷な命令か。
(私にもプライドがあります)
芥辺に仕え始めたのも、プライドを押し殺してだった。今も、悪魔としてのプライドを押さえこみ、貴族としての、魔王となる軌跡を抑えつけたのに、これ以上心を無茶苦茶にするというのか。
「何勘違いしてやがる。」
我に返らせる、芥辺の言葉が聞こえてきた。後ろから抱き込まれ、振り返れば目元に舌を這わされる。
「アイツを野放しにするとお前にいつ危害を加えるかわかったものじゃないからな。そのための予防策だよ。」
そしていつも最もらしいことを言ってのける。最もらしい、嬉しいわけはないのだが、何故だろう。この涙は何故止まらなくなった。感情とは裏腹に流れだす涙に触れ、拭い、また触れる。
「お前は魔王になれない。」
また、傷口に塩を塗る言葉。
「何かに縛られる程度の力で魔王、なんてお笑い草だろう?」
心にナイフが突き刺さる。
「誰も俺から逃げられない。勿論お前もな。」
体に巻きつく腕が妙になまめかしく体をはい始める。ゾワゾワと体内からも湧き上がる感覚に小さく声が漏れ身じろぎをした。
「ルシファーさえ手に入れば、魔界とお前は完全に俺の物だ、俺の物にしてやる。」
(もう、貴方の物なのに、傲慢な男がここにもいた)
+END
++++
『39話後ルシファーが欲しい(契約目的)芥辺さんがベーやんにルシファーのこと聞いたり、呼出し時に一緒に居ろだの言ってきて、複雑な気分になるベーやん』というネタを頂きましたが、うん。これはなんぞ。←
シリアスで、なよなよしないものを狙ったらこうなりました…す、すみません!
11.8.27
修正:11.10.15
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