よんアザ | ナノ



記憶、喪失

※10000hitキリ番

「ここは、どこだ。」

なんでだろう、

「お前は、誰だ?」

胸が、左胸が、痛む。


何があったかは聞いていない。佐隈は口を閉じたっきり、問い詰めても目線を逸らすだけである。女を殴る趣味はないが、今日だけは内なる感情に流されそうになってしまい、アザゼルがいなければ一撃ぶち込んでいたであろう。

「またまたアクタベ氏…ご冗談を…」

「"アクタベ"、それが俺の名か。」

他人行儀に冷静に、分析を始めてしまうのは彼らしいというかなんというか。しかし今の状況では気丈に振る舞っているようにしか思えずまた心が痛む。

「ところで、お前たちは何者なんだ。」

力が弱まり結界が破れた今、人形の姿になれるはずもなく。異形の姿を取る青年たちに興味を引かれたようだ。流石最強悪魔使い、そういう感受性は持ち合わせている。

「私は、……」

「な、なあべーやん、チャンスや。アクタベが記憶喪失なら殺れるで!自由になれるんや!!」

佐隈には聞こえない程度の、秘密の会談。
成る程、その考えは一理ある。今なら芥辺は無防備、本来の力を出し切ることは出来ない。体は覚えているかもしれないが、その程度で魔王候補とも謳われた自分が負けるとも思えない。アザゼルの悪魔の囁きが、耳に響く。

「そうと決まれば実行やで!死ねやアクタベェェェェェェ!!」

鬼、というより必死の形相で飛びかかるアザゼルの槍が頭に刺さる――――刹那。これは条件反射であろう、グリモアがアザゼルを地に伏した。絶叫を上げながら転がり回るアザゼルは最早恒例の状況である。

「お前もか?」

敵を見る目がベルゼブブを捉え、空気も凍る。このまま敵だと認識されてしまっては身が持たない。
心の痛みでどうにかなってしまう。

「いえ、滅相もない!」

「そうか。」

ならいい、と読書に戻る芥辺を眺めながら、また幻想の痛みが走った。

(本当に、忘れてしまったのですか?)

今までの記憶も、出来事も、関係も。全てが綺麗に失われてしまったというのか。もしやあのクソガキとグシオンが、いやそれはない。芥辺が遅れをとるなど考えてもつかない。
ならばどうして?考えを巡らそうが、何も思いつかない。答えは佐隈しか知らないのだから。

「おいお前。金髪のお前。ちょっとこっちにこい。」

「なんでしょう?」

いつもの彼とは違うことはわかっておれども、体は彼の命令には忠実に反応してしまう。

「座れ。」

「はい。」

「もっと近く。」

「ここ、ですか?」

「もっとだ。」

「はぁ…」

「もっと。」

もっともっと、と言われてもこれ以上は無理。今座っているところですら芥辺の真横、体がくっついているところ。これ以上近づけ、とはどこに座れというのか。

「これ以上は座れません。」

「座れるだろう。…膝の上だよ。」

軽々と持ち上げられた、と思いきや次に見えたのは芥辺の顔のアップ。悲鳴を上げようとしたが、謎の威圧感によりそれも適わない。背筋を張り、緊張に震える体に鞭打ちながらもこの状況理解を努めるが、彼の心意などさっぱりわからない。

「お前を見ていたら、何か、すっきりしない。」

「そ、そうですか……」

「名前はなんだ。」

「べ、ベルゼブブ………」

「ベルゼブブ、か。」

一瞬、ほんの一瞬だったが、あの芥辺が穏やかな顔を見せた。気がした。普段は鬼や悪魔を彷彿とさせる表情した見ていないからこそ、今のような柔らかい表情には土肝を抜かれ、心拍数が上がった。

「ベルゼブブ。」

「は、はハイっ!!」

「俺とお前は、一体どんな関係性だったんだ?」

真理をつくその言葉に、息が止まる思いをした。
何故、自分をピンポイントで問い詰めるのか。まず問い詰めるとしたら事情を知っていそうな佐隈さんでもいいではないか!

「そ、それは……貴方は私の主人であり、契約者であり…」

「主人?」

何故そこに食いついた。腰を這う手や物珍しそうに頭を撫でる手やら言ってやりたいことは沢山あるが、まずはそこからツッコむとしよう。

「ということは、お前は俺の使用人、ということか?」

「悪魔を使用人などと一緒に扱うのは、貴方くらいでしょうね。」

「それは…俺が特別、ということか?」

いくら赤い顔で「違う」と訴えたところで誰も信じまい。ただの照れ隠しにしか聞こえない。

「そうか、そうなのか。俺たちは"恋人"じゃないのか。」

「へっ」

「さっきから寂しそうな面しやがって。なぁ優一?」

「アッ、アクタベ氏!記憶が…」

「あ?あんなの嘘だよ。信じやがって。」

お前もバカだな、とニヒルな笑いを浮かべている気もしなくもない。いやそんなことはどうでもいい。顔が熱い、恥ずかしい、死んでしまいたい。だが、それを読んでなのだろう、腰を撫でていた手は拘束具に変わり、体を縫い付ける。

「俺は"主人"じゃなく"恋人"だ。間違えるな。」

翻弄され、混乱しているベルゼブブの背中から、ごめんなさい、と悪気のない佐隈の謝罪が聞こえたかなど言うまでもない。

+END

++++
10000HITキリ番、おめでとうございます、モトヤさん!
オマケに『アクベル』リクも書かせていただきました!頼まれていないのに芥辺さんのエセ記憶喪失ネタをしましたが…

これは酷い

ベタだと面白くないので、こうなりましたが…うぅん、書き直しはいつでも承りますので。
それでは、リクエストありがとうございました!

12.3.21

[ 122/174 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -