意外な特技
※ネタ募集品
いつもは騒がしい事務所が今日はやけに静かだと思えば、そうか、今日から佐隈はテスト期間だったなと思い出す。そんなわけで芥辺事務所長、芥辺は久しぶりに静かな事務所を謳歌していた。
アザゼルは仕事が終われば勝手に佐隈の邪魔をしにいったし、他に呼んだ悪魔はない。
のんびりとしか午後を楽しんでいたが、腹の虫が騒いだことで静寂が終わった。
(飯でも食うか)
思いとは裏腹に手にしたのは黄色い表紙のグリモア。
「さぁ、今日の仕事だベルゼブブ。」
喚び出されたベルゼブブは食事を始めるところで、スプーンを片手に目をパチクリさせる。
「おや、アクタベ氏でしたか。して、今日の仕事は?」
「飯を作れ。」
はい?と聞き返すベルゼブブに罪はない。昼食を食べようとしている者に飯を作れ、とはどういうことか。スプーンが机に落ちた。
「さくまさん……は休みがでしたね。」
「ごちゃごちゃ言わずやれ。作るものはお前の得意なものでいい。」
ソロモンリングを外し終えた芥辺はさっさと応接間に戻ってしまったために気がつかなかった。ベルゼブブは視線を泳がせたことに。
始め聞こえてきたのは不規則な包丁の音。
そこまではよかった、何故ここで止めなかったのかと今にしては後悔するばかり。途中から奇妙な匂いが漂い始め、それが一気に悪化する。焦げ、ではない、何かよからぬものをぶち込んだ匂いだ。反射で窓を開け放ち悪臭を世界に放つとゴホゴホと苦しそうな咳が聞こえてきた。
「ア、アクタベ氏…」
酷く咳き込みながら煙の中から命からがら、といったところか。考える余裕はない。腕を引きビルの外まで引っ張り出した。
「テメエ、料理できねえのかよ。先に言え。」
「やれば出来るかと思ったのですよ。」
上着を整えながらも開き直るベルゼブブに芥辺は頭を抱えた。可愛い恋人のやることだ、許してはやりたいが進んで毒物を食して死にたくはない。しかしそのまま処分するのも気が引ける。絶対、ゴミ袋が溶ける。排水口にも詰まる。
(イケニエ決定だな)
アザゼルが生贄になること決定である。
「そもそも私は貴族ですよ?料理などしたことないに決まっているでしょう!」
「あぁハイハイそうだな。優一お坊ちゃんには無理だったな。」
「そういうアクタベ氏はどうのです!私を喚んだからには…作れないのではないですかぁ?」
挙げ句の果てには逆ギレである。これなら勝てるといわんばかりの憎たらしい笑顔に芥辺は舌打ちを抑えれることは出来ない。
「いいだろう、作ってやるよ!テメエよりうまく出来たら、夜は覚えてろ。」
「え?……ちょっと待ってください、私も手伝います。」
「おせえな。座ってやがれ。」
「て、手伝わせてくださぁぁぁぁい!!!」
貞操の危機を感じたベルゼブブの絶叫はしばらく途切れることはなかった。
さて、なんとか交渉し共に調理場へと立つことが許されたのだが、まずは後片付けが待っていた。何故かカレーの材料の中に味噌やマヨネーズが置いてある始末。カレーの冒涜とかで怒るくせに、本人が冒涜してどうする。芥辺はそう突っ込みたくて仕方なかったが、流石は暴露。「隠し味ですよ、隠し味」という言い訳地味た返答が聞こえてきた。
そのよくわからない何か、は"アザゼル用"と書かれたタッパーに詰められ、重包装の挙げ句冷蔵庫へと消えていった。ご愁傷様である。
さて料理を始めようとしたはいいが、芥辺の手際がよいことに驚いた。包丁を使うのは慣れている、なんていわれたら何も言い返せなくなるし、冷や汗が止まらない。刻むまではよかった、そう刻むまでは。
「アクタベ氏、…何を作るのです?」
「カレー。」
「カレーに糸こんにゃく、醤油、砂糖はいりませんッ」
失敗する前提で作っているのかワザとなのか。平然とカレーのルールと一緒にぶち込もうとする芥辺に畏怖の念を抱いた。
食えたらいい、など普通に返されてはもう言い返すことも何もない。多分材料がどうあれ、彼の中では至高のレシピでもあるのだろう。自分も料理は出来ないのだから主人に従おうと思ったら。案の定これだ。
「何ですかこれ。」
「ジャガイモ。」
黒い固まり、もといジャガイモが姿を表したのだ。砂糖が周りにこびりつき、醤油のために真っ黒に染まり、なんか転がす度にゴリゴリ音を立てる。あぁいつの間に醤油と砂糖を入れたのか、とか鍋の中を見るのは怖いやら、ベルゼブブはその全ての言葉を飲み込んだ。
「ほら、アクタベ氏も出来ないじゃないですか!」
「上手く出来る時もある。それに食えないことはない。」
これでもまだ自らの敗北を認めないつもりか。酷い暴君っぷりを拝んだベルゼブブは二度と彼にカレーという名のイケニエを要求するまいと誓った。
身の危機は去ったのだが、腹の危機から逃れる術はなかったベルゼブブであった。
+END
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料理ネタktkr!とか思っていたら……んー?これ萌える要素ないよね!これは酷い!
優一君は愛故に頑張りました、口に色々ねじ込まれましたが、愛故に…
味噌は俺の料理のお供です、ハイ(^p^)
『料理が出来ないアクタベさんが、ベルゼブブさんを呼び出して飯を作れと要求。お坊ちゃんなベルゼブブが出来る筈もなく、二人仲良く料理という名のダークマター作りなアクベル』というネタありがとうございます!
11.8.23
修正:11.10.15
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