よんアザ | ナノ



ヒメゴト

※10000hit企画

気まずい沈黙が流れる。
いつもは絶えず続くはずの言葉が、今日に限り失われている。
空気を読んでいるのか読めていないのか、契約者からの呼び出しもない。何故こんな時に限って、そう愚痴を言ったところでまたすっとぼけたとした態度で誤魔化されるのであろう。

「べーやん。」

ああ、やっと動き出した。
沈黙を破ってくれたことは助かるのだが、これから何を言われるか、なんて容易に想像出来る。

「紛らわしいことしよってからに…」

ケータイを弄って目も合わせないクセに、アザゼルが口を尖らせる。一体何回聞かされたと思っているのだ。耳にたこが出来る、なんていう問題ではない。
舌打ちをされようが睨まれようが、自分のせいではない。

「私もそんなことになってた、なんて知らなかったんですから。」

「知らなかったもクソもないやろ。ワシがどれだけ心配したか……」

「心配?へえ、貴方も心配したのですか。」

茶化すベルゼブブと違い、アザゼルは真剣そのもの。荒々しくケータイを叩きつけると、普段とは違う真面目な顔で詰め寄られた。

「心配したのが悪いっちゅーんかい。」

「悪いとは言ってません。」

「せや。悪いのはべーやんやさかい。」

「私が?言いがかりはやめていただきたい。」

「べーやんのせいやろうが。べーやんが無神経やから!」

「無神経とはなんですか。貴方とは違うのです貴方とは!!」

「どういう意味やコラァ!!」

胸座に掴みかかり、ベッドへと倒れ込む。二人分の体重で軋むベッドだが、上質なソレは難なく受け止め安定する。
迫り来る拳が見え…たが、それは顔ではなくベッドに沈んだ。勢いよくきたわりに、力なく。

「ホンマに、死んだかと思ったやろ……っ」

アザゼルの顔を見ることが出来なかった。
鼻声に小さな嗚咽。自分が何をしたか、どれだけ心配をかけたかなんてわかっている。でも、まさか天使に自分のグリモアが狙われていただなんて。彼らにこれほど心配をかけていただなんて。思ってもいなかったことなのだから。

「すみ、ません、」

「すまんで済んだらケーサツいらんわい!」

「でも、ありがとうございます。」

「何感謝しとんのじゃ…」

ありがとう。本当にありがとう。
心の中で呟きながら、涙に手を伸ばす。

「……まさか涙を流すとは思ってもみませんでした。」

友人とはいえ、悪魔は悪魔。
所詮、仲がいいのは体裁だけであろう、と思っていた。
アザゼルは優しすぎる。
人のために涙を流し、心配までしてくれる。悪魔らしくはない、が、その優しさがむずかゆく心に響く時もある。

「当たり前やろ!……べーやんは、ワシのセフ、いや大切な友人やし。」

「お待ちなさい。何か言い掛けましたな。」

「な、なんでもないわ!」

「コイビト、でしょう?私たちは。そこは間違えてはいけませんよ。」

ああ、目から流れるものはきっと、少し、ほんの少し別れを想像してしまった心の汗。
いつか、その日がくるのだろう。
それは、ベルゼブブなのかアザゼルなのかはわからない。だが、必ずその日は訪れる。

「べーやん。」

いや、ぼーっとしている間に失言を犯した気がする。いや、確実に。
ニヤニヤとイヤらしい笑顔を浮かべるアザゼルがいい証拠。慌てて体制を整えようとするが、肩を抑えられては逃げ出せまい。

「もう言いませんよ。」

「べーやん。」

「言いませんったら。」

「認めてくれとったんか?」

「好きにとればいいじゃないですかっ!」

答えなんて聞くまでもないだろうに。それでも口から聞きたい、という意地の悪さは生きる故にの欲望というところだろう。

「べーやん。」

「止めてください。昼から盛らないでくれませんか!」

「好きやで、優ちゃん?」

幼い頃、たまに呼ばれていたその呼び名。二人きりでいる時にしか聞けなかった懐かしい呼び方を、何故今するのか。手が震え始めて体が沈んでいく。
背中に何とも形容し難い衝撃が走った。

「なあ、優ちゃんは?どうなん?」

「う…あ…」

「好き、やろ?な?」

鼻の頭がくっつき、額が合わさる。眩しいくらいの笑顔が目の前に迫り、堅く目を閉じた。

「嫌いなら、一緒にいねえよ馬鹿やろう!!」

一緒に突き出された拳と言葉は、アザゼルにクリーンヒット。潤んだ瞳は、何を映すのか。

「そうそう、素直が一番やで。そのほうが可愛げもあるしな。」

「うるせえ散れ。」

「う〜ん……そや、あと一つべーやんに言うてほしいことがあるんや。」

「は?」

「昔みたいに『あっちゃん』って呼んでえや。」

「…呼べるわけないでしょう。」

「なあ。」

ダメ元上等。暴力も上等。だが、これは譲れない。
顔をすりよせたのが効果的だったのか不快だったのか。少し顎を引き、上目遣いになり、小さな声で。

「あっ……ちゃん……」

屈辱的だ。そんな表情をしながらも、口だけは素直に動く。満足そうにニッコリ笑ったアザゼルと、その手に握り直された携帯。…携帯?

「お前…、もしや…」

「べーやんもさくに似て、素直よのぉ……。お願いしたら断らへんもの。」

「何したかって聞いてんだよ!」

「写メは流石に無理やったけどなー。」

慌てて奪おうとも、無駄に素早い動きに翻弄される。

「返せっ!」

「ええやんか〜録音してオカズにするくらい。それより今からヤろ?」

「それで誰が頷くと思ってる!返せ!」

「嫌や〜」

ひらりひらりと、どうしてこの手の輩は逃げるのがうまいのか。苛々して飛びかかろうとしたら、突然の浮遊感。どうしてここまで間が悪いのか。実は監視カメラでも付けられているのではないか。


「…さくまさん。」

「はい?」

「覚えていなさい。」

「何でいきなり不穏な事を言われるのです!?」

+END

++++
遅くなりました、10000hitおめでとうございます。
二つCPのみリクがあったので、どっちにしようか…と迷った挙げ句、二つ消化しました。
『アザベル』ということでしたが、右脳を絞り出した結果、こうなってしまいました。時間帯としてはアニメの後?

書き直しはリクを下さった方のみお受けします。

12.4.16

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