*恋と病
今日は仕事はお休みゴホッゴホッ、酷い咳き込みが響く。
「じゃあ私、帰りますね。」
「…早く帰って。」
病人を、ましてやちゃんと寝るかもわからない者を一人残していくのは気が引ける。だが、芥辺ほどの人物でもひくような病なら別だ。どれだけの脅威を持っているかわかったものじゃない。
「夕飯は頼んでありますから動かないでくださいね!」
佐隈の言うことなど右から左へと流し、横柄に返事はしておけば、扉が閉まり静寂が訪れた。
静寂は心地よくもあり物寂しくもある。が、療養中とはなれば今は心地いいものだ。
だがそんな快適空間は長く続かない予感はしていた。クスクスと不快な笑い声と共に、扉が開かれた。予感的中。
「帰れ。」
「なんですか。貴方の世話を頼まれたからわざわざきたというのに。」
「テメエに世話されるくらいなら、舌噛みきって死んでやるよ。」
何が愉快なのか、薄気味悪い笑いを浮かべる青年の入場に頭を抱えてしまう。
結界がとけているのは弱った証。
それに優劣が逆であるこの状況は決して面白いものではない。
「ホラホラ。私を睨んでいないで寝ていたらどうです?」
晩御飯は任されてますから、と有無を言わせずに肩を押されソファへと寝かされてしまった。
抵抗しようとも、相手は悪魔。力は人間より遥かに強い。流されるままに作られた粥を食べ、何とか休息をとることが出来た。
「風邪で寝込むとは、かのアクタベ氏も無様なものですね。」
「るっせえ。自分で作ったもん食って帰りやがれ。」
くつくつと、それはそれは楽しそうな笑いを浮かべ乗りあがってくる。
「自分が作ったものなど、イケニエには入りませんよ。」
「…何が望みだ。」
「私が望むのはいつもイケニエ。おわかりでしょう?」
考えの読めない笑みを浮かべながら乗り上がってくる。普段なら蹴飛ばしてやるのだが、如何せん今力が入らない。忌々しい、と相手を睨みつけるのみである。
「台所漁ってさっさと帰れ。他にくれてやれるものはない。」
「あるじゃないですか。ホラ。」
ホラと言われても、困る。思いつくものなど持ってはいないのだから。
「貴方ですよ。」
何をバカなことを。声に出す間もなく塞がれる口。
「うつるぞ。」
「構いません。なんなら、その"風邪"をイケニエにしますか?」
「…いいだろう。」
その代わり、うつるまで帰さねえぞ。
上がった口角は下がることを知らない。
「で、べーやんまだ治らんのかいな。」
「うるさいですね。恋の病という奴ですよ。」
++++
芥辺さん受けって難しい
12.2.23
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