賭をしよう
※♂佐・♀ベル
(今日こそ、さくまさんをおとしてみせる)
ベルゼブブは、意気込んでいた。
人間であり契約者である佐隈りんは、草食系男子であり、女性経験は0。
特にいいところもなければ、かっこいいわけではない。だが惚れてしまったことは事実、悔しいが認めるしかない。
だが、高貴なベルゼブブ家の者でありながら人間に一方的に想いを寄せるなんてプライドが許さない。そうなれば方法は一つ。
冒頭の意気込み『相手から告白させる』だ。
『一日目。』
「さくまさん、さくまさん。まだお仕事は終わりませんか?」
「まだですが、一人で出来ますから。」
一緒にいようとしてるのに、なんだその態度は。相手には思考など伝わらないから仕方ないことではあるのだが、怒りは理不尽な方へと向かう。
それを知らぬ佐隈は、パソコンだけを見つめて雑務に励んでいる。
「さくまさん、さくまさん……」
「なんですか?休んで頂いて構いませんよ。」
「膝の上に、乗ってもいいですか?」
一瞬ベルゼブブの問いがわからなかったのか、手を止める佐隈。パチクリと目を瞬かせ見つめてくる視線が、ベルゼブブには心地よかった。
「いいですけど…いいことありませんよ。」
「構いません。貴方の傍にいれたら、それで…」
「お茶は勝手に飲んで頂いて構いませんから。」
せっかくのアピールなのに、相変わらず視線はパソコンへ。興味がないのか、何とも思わないのか、佐隈がまたベルゼブブを映すことがなくなり落胆した。
小さく鳴いたのをどうとったのか、暖かい手が髪を滑る。慰めてくれているのか無意識なのか、どっちでもいい、とりあえず甘えておくことにした。
「ベルゼブブさんって、この姿の時は本当にフワフワして気持ちいいです。魔界の……えぇと、貴族のお嬢様でしたっけ?」
「見せてさしあげましょうか?私、魔界では美人と有名なんです。」
(そうしたら堕ちてくれます?)
「やっぱりベルゼブブさんは可愛いんですね。」
「ではなくて〜ッ」
興味を持ってくれないのか、と叫んでも心の中に響くだけ。
「確かに、興味がないと言えば嘘になります。」
「でしょう?」
「アクタベさんが許してくれませんから。」
最もだが、言ってほしくはなかった。希望を絶たれるこの言葉に、落胆するしかない。
「そういえば、アザゼルさんの魔界の姿も見ていませんね〜。見たくはないですが、気にはなります。」
「そ、そうですか…」
(今、他の男の話をしなくてもいいだろうがッ!)
天然で、空気も女心もわからないような童貞野郎なのに、好きになってしまった。この心地よい手に、いつまでも触れていたいと思ってしまった。
いっそ、彼を蝿にして傍に置きたいとさえ。
『二日目。』
「なんだと…?」
芥辺の突き刺さるような視線が、痛い。
だがここで引くわけにはいかない。小さな体を更に萎縮させて、躊躇いがちに口が開かれた。
「アクタベ氏。あの、その、…私の封印を解いていただけませんか?」
はぁ?怒気を孕む声音に、反射的に体が後退する。しかし、ここで引くわけには、これがベルゼブブの最後の勇気と魔法の言葉である。
「なんのために。」
「さくまさんの、お手伝いを…」
「今のままでも出来るだろ。テメエはアザゼルより使える。」
「お、お茶汲みは…大きいほうがいいのです。」
「ふぅん?」
疑われている。何か企んでいるのでは、と視線が詮索をしてきたと思えば、無言でグリモアを取った。パラリパラリと文字通り心を読まれ、冷や汗が浮かび体も震えてきた。
「ほう、」
一カ所にきて、芥辺の口が意地悪く弧を描いた。
多分、いや確実に、バレた。
今は誰も座っていない業務机とベルゼブブを交互に見つめると、ニヤリと笑った。
「いいだろう。ただし、今日でおとせない場合、明日から俺と契約してもらう。」
「なん…ですと!?」
「いい条件だろう?一緒に居たかったら、惚れさせてみせろよ。ベルゼブブお嬢様?」
翳された手と、光輝く体。ペンギンの姿に別れを告げ、現れたのは人の姿をした美しい蝿の女王だった。
「魔界ではモテたようだが、さて、うまくいくかな?」
「ばっ、バカにしないでいただきたい!!人間の一人や二人、今までも――」
「見た目だけじゃさくまさんがおちるとも思えねえなぁ?」
髪を払うように滑る手に、悪寒を感じた。ニヤニヤ笑う芥辺は、何かを確信している勝ち誇った笑みを崩さない。
「ならば、こうしましょう!今日1日でさくまさんをおとせなかった場合、貴方と契約しましょう。」
「覚悟を決めたか。」
「ただし!おとすことが出来たら、今後私の封印は解きグリモアを彼に渡していただきたい!!」
「強く言い切るじゃねえか…面白い。」
グリモアを閉じる音だけが大きく響く。これが開戦の合図であったことを、この時は知らない。
+END?
++++
続きそうで…続けない!
オチがアクベルかさくべーか決まらないので、気が向いたら
12.2.13
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