よんアザ | ナノ





前回のあらすじ。
ベルゼブブは、佐隈に恋をしてしまった。だが、自ら告白する勇気などなく、彼から告白するよう仕向けるために、芥辺とある賭をした。
『1日封印を解く代わりに、1日で佐隈をおとしてみせること。出来なければ彼との契約は無効。自分と付き合うこと。』




「さくまさん。」

「何です……か」

さあ今日も仕事だ。いつも通り頑張ろう、と佐隈が意気込んだ矢先の出来事。
聞き慣れた、ベルゼブブの声がしたから振り返ったはずなのに、そこにいたのは金髪美人。事務所には不釣り合いな高級なドレスが宙を舞った。
一応見惚れてくれたらしい、動きを止めた佐隈に勝利を確信しながら距離を少しずつ詰めていく。

「えー……っとベルゼブブさん?」

「はい。」

完全に理解の範疇を超えてしまったようだ。放心状態でどこを見ているかわからぬ瞳に、苛立ちと謎の敗北感を覚えてしまう。

「じゃ、頑張って。」

出かけ頭にニヤニヤと勝ち誇った芥辺を軽く睨みつけると、再び佐隈へと視線を戻す。どうやらやっと頭が働き始めたようだ。自身の頬を張り、ベルゼブブを真剣な眼差しで眺め始めた。

「これが、魔界の姿なんですか。」

「いえ、まだ完璧に、というわけではないですけど……」

「噂通り、可愛いですね。」

ニッコリと笑いかけられ、こっちが赤面してしまう。笑顔を見ていたいけど悔しい、複雑な心境に陥り、俯くと声を上げて笑うのが聞こえた。

「しかし、それではカレーは出せませんね……イケニエはどうしましょうか。」

言うことはそれだけなのか、そう問いてやりたい。女慣れしていないクセに、淡々とした態度をとられるなんて。その辺の女に劣る、というのか、誠に遺憾である。

「…口移しなら、汚れないです。」

「…そうですねぇ……うーん…」

これすら日常会話の如く受け流される。聞いていないのか、もしやキスは慣れているのか、得体の知れない男であることだけは確か。

「イケニエはカレーしか認めませんよ、ねえ……」

膝に乗り迫るが、視線が合うことも表情も変わることもない。

「じゃあこうしましょう!カレーパンを買って来ますからここで待っててください。」

「カレーしか認めない、と言ったでしょう?」

「うーん……でも口移しは正しい食べ方じゃないですよ?」

あくまでも逃げおおせる気なのか、それともただの天然か。
どっちにしろ、キスを拒絶されているのは事実である。

「ち、ちゃんと口は洗ってきましたよ?匂いも残っていませんし……」

「あはは、ベルゼブブさんは変なものを食べてますからね。」

これでは完全に避けられているではないか。
溢れた、涙が止まらない。

「何故、何故貴方はここまで鈍感――」

「最初からわかってました。」

当然だ、と答える佐隈に間抜けな声が上がってしまった。

「ベルゼブブさんは一人にすると寂しそうにこっちを見てるし、呼んであげると嬉しそうだし。自覚ありませんでした?」

「そ、そんなはず…」

「あるんです。現にそうだったんです。」

頬を上に軽く伸ばされ、赤くなる。あはは、と笑われ慌てて手をおい払った。

「そんなベルゼブブさんが可愛いのでついつい虐めちゃいましたが…まさか、こうくるとは思いませんでした。」

金糸の髪を指に絡め、解放する。くるり、くるり、柔らかい糸が宙を舞う。

「で、貴女は私に言いたいことがあります、よね?」

卑怯だ。何もかも知っていながら、それでも強要するなんて。遠回りをして遅刻した罰なのだろうか、それとも神を冒涜する自分への罰なのだろうか。

「な、何も……」

「アクタベさん、いつ帰ってくるかなぁ……洗濯が残ってるのに。」

芥辺、という単語に体が強張る。そうだ、期限は一日、正確には佐隈が帰る時。
ここで言わなければ、佐隈とは会えないかもしれない、会わせてもらえないかもしれない。最悪の結果ばかりが過ぎる。

「さ、さ…――」

声が出ない。嫌な汗も流れてきた。硬くなる拳に、震える足。ピイ、とお馴染みな悲鳴に佐隈の手が伸びてきた。

「深呼吸して、はい。」

抱きしめられ、座るように促されやっと呼吸が整ってきた。

「さ、くまさん。」

「はい。」

「好き、です。好き、なんです…」

「はい。」

「私と、お付き合いしていただけませんか?」

「はい。よく出来ました。」

小学校の教師のように、偉い偉いと褒められては涙が出て来てしまった。手を伸ばせば、抱き返される今度は払われることなんてなかった。

「やっぱり、カワイイなぁ。」

「さくまさんは…イジワルです…」

「どうせ、昨日は寝てないのでしょう?今日は特に仕事もありませんしゆっくりお休みなさい。」

安心すると、思い出したように襲い来る眠気。
さあ、疲れて眠ってしまった姫様に、優しく口付けを。






アクタベが戻ったのは、日が落ちてすぐだった。

「アクタベさん、お帰りなさい。」

「……なんだ、白状したのかコイツ。」

「ええ、言ったとおりでしょう?」

勝ち誇った笑みを芥辺に向け、膝を枕に眠るベルゼブブを優しく撫でる手を再開した。

「賭は、私の勝ちですね。優さんのグリモアは頂きます。」

「…チッ。プライド高いお嬢様なら自分から言わねえと思ってたのにな。」

「この人はツンデレですから。」

はめたのは、はめられたのは一体誰?
ただ勝者は二つの宝を手に入れた。

+END

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同人誌買ったら書きたくなったよ

12.5.18

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