*嫌いなのに、
嫌いなのに、
いつも、目で追ってしまう。
「はぁ」
あんな奴、殺したかったハズなのに。
(いつから、こうなってしまったのでしょう………)
芥辺は身勝手で高慢で、悪魔の事を道具としか思っていない男だ。
初対面から印象は最悪。
人の趣味愚弄した挙げ句、顔面にモップを突き刺してきやがったのだから。
「どうしたんべーやん?アクタベはん、今日は機嫌悪いわけちゃうで?」
「…わかってます。なんでもないですよ。」
(そう、なんでもないのだ…)
無意識のうちに目で追っていたことも、彼の事ばかり気になるのも、全ていつ降りかかるかわからぬ危険のため――
「ベルゼブブ。」
ふと、名を呼ばれた気がしたが、思案に耽るベルゼブブは気づけなかった。ただ、自分の脳裏に浮かんだ一つの単語を否定するため。
ふぅ、と呆れと諦めが息としてもれた。
「ベルゼブブ。」
「は、はい!?」
「仕事だ、行くぞ。」
頭を遠慮のない力で鷲掴みにされた。痛みよりも、恐怖と驚愕が駆け抜け自然と体が痙攣し始める。
こんなにも、身勝手、強引な男なのに。この熱くなりゆく頬は恐怖では説明がつくまい。
(これが、好きということでしょうか)
魔界に帰ってもこの事ばかり。
感情の"答え"を認めたくないわけではない。
明確な"答え"が知りたいのだ。
いつ好きなった?
どこで好きになった?
どうして好きになった?
何故好きになった?
彼でなくてはダメなのか?
時計の針は答えなど教えてはくれない。ただ無情に自分の仕事をまっとうするため、マイペースに時を刻み続ける。いつもは気にならないことなのに、最近そのことが大変腹ただしく感じるのだ。
(…止めだ)
答えが出ないのなら、一人時間を削るのは時計の思うツボだ。嘲笑うかのように丑三つ時を知らせる時計の音。苛立ちを覚えながらも脳は安心したらしい、睡眠を欲するかのように目蓋が自然と降りていった。
いつものように芥辺は召喚部屋に向かう。取る本は決まっている、ある色だけをターゲットに紅い目が動き…見つけた。黄色の本を。
普通に生きていくうちには縁はない言葉の羅列を紡ぎ、呼応するように魔法陣が光を放つ。
望みのモノはすぐに現れた。規則正しく動く胸に、伏せられたら瞼。正装ではなくゆったりした部屋着と、抱きしめられた枕。
控えめに響いた靴音が、止まる。
「今日も、進歩なしかよ。お前は。」
問いかけ?いや嘲笑い。跳ねた髪を指に絡ませ、はじく。
「早く、認めてしまえ。」
頬へと手を滑られると小さな声。聞き取れるか聞き取れないかわからぬ声量だが、確かに彼を呼んでいた。
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オンリー用のネタ1(過去形)
無理だと悟った
11.10.20
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