ててご | ナノ



この理不尽で祝福されるゲームで・番外A

※小ネタをそれぞれのCPで掲載
※微妙な性描写が多くなる予定です

←前次→
狩写 / ポス写 /  庸写 / オフェ写




【狩写】


※裏表現少しあるので微裏


 浅ましい熱を慰めながら、1人ベッドに横たわる。
外には人の気配があるのだが、決して扉を乱暴に開いては侵入してくることはしない。ずっと、宝を守るように扉の前に座り込んでいるのだ。
黙するハンター、断罪狩人。
元より大人しい性格ではあるが、一度暴れ出した時の気性は、ハンターたちの中でも屈指の荒さである。動物や鹿たちと暮らしていたこともあり、少々人の常識が通じない時もあるのが困りものだ。
 Ωを前にしても、雄の性を剥き出しにして襲いかからないのは、彼がβであるという救いがあるからか。何を考えているのかわからない

「はぁ、はぁ、」

 ヒートでもないのにこの疼きだ。近くにαがいれば、どれほど気がおかしくなるのだろうか。想像もしたくない。
だが、そのために彼はいるのだろう。片時も離れず、だが姿を見せることはない。まるで、守れなかったものを悔いて、罪滅ぼしをするかのように。
 彼が写真家のことを守るようになったのは、偶然としか言えない。ちょうど、シーズンの境目である日に広間で居合わせた、それだけだ。互いに用事あったわけでもなく、無言の会釈を交わしてすれ違う時だった。体の異変を感じ取ったのは。
試合に関しては手を抜いていない。サバイバーたちも写真を使うトリッキーた戦法に慣れてきている、ということもある。運が悪く負け越してしまったことが原因だ。
 疼き始めた体を抱き上げ、視線を動かすことなく自室へと押し込められた。立ち上がることもできず、このままいいように弄ばれるのかと震え上がったほどだ。だが、彼は外側から扉を閉めると、蓋をするように座り込んだのだ。そして、そのまま安堵に気を失うように朝まで眠ったことを今でも覚えている。
 彼は、何も言わなかった。その日より、朝から傍らに立ち、扉の前を陣取っては夜を明かす。αが通り過ぎるだけで、獣のような低い唸り声をあげては威嚇をする。
 どうしてそこまで尽くしてくれるのかはわからない。身ごもった雌を守っている雄のようである。女扱いされるのは不快ではあるが、ありがたいのも事実。ヒートで思考が桃色に染まり、夜に部屋へ引きずり込もうとしたことだってある。それでも彼は無反応で、姿を見せない番人を続けたのだ。

「うっ……」

 もう、何ヶ月が過ぎただろうか。この荘園でのゲームの周期は数ヶ月である。そろそろこの忌々しい体質ともおさらばのはずである。それまで耐えればいいだけのことだ、ここまでうまくやってこれたのだから、大丈夫。
ここまで考えて、ふと彼の助けを甘んじて受け入れていることに気がついた。もし断罪狩人がいなければ、無理矢理番いにされていた可能性だってある。Ωの疼きが治ってから、しばらく彼に頭が上がらないだろう。プライドはよしとしていないが、恩義には報わなければいけない。
 ちらりと整頓された机の上を見やれば、赤い丸の書かれたカレンダー。そう、明日が来れば体質は元に戻る。あと数時間耐えればまた元の生活へと戻れるのだ。
でも、そうなれば彼も自然と離れるのだろう。当たり前である。自室もあてがわれているというのに、ずっと寒い廊下で過ごしてきたのだ、体調を崩してもおかしくないというのに。
 暖かい差し入れを女性陣からもらっているようではあるが、写真家は彼に一度もまっすぐお礼を言っていない。彼のことを、当然のボディーガードとして見ていたわけではない。気恥ずかしかっただけだ。眠った頃に布団をかけたこともあるが、外に充満するαの匂いに震え上がって、反射的に扉を閉めてしまった。
 もうすぐ、針が天井を指す。そうなれば調子が悪かったとはいえβにはなれるはずだ。
チクタクチクタク。早いはずの秒針が、ゆっくりと落ち着いた動きで時を刻む。まだかまだかと逸る気持ちを抑え、ゆっくりと扉へと歩み寄った。

「ねぇ、狩人」

 言葉は返ってこない。板を一枚挟んで背中合わせになると、構わずに一方的に口を開く。

「感謝、しているんだよ。私のことを、守ってくれて」

 素直になれるのも、気分が昂っているから。熱い息を小刻みに吐き出し、冷たい木の板に寄り添う。体温が奪われ、少し頭に冷静さが戻ってはきたが、根本的な解決にはならない。チクタク、と動く秒針の音が大きく響き渡るのだ。

「でも、もうすぐ私はこの忌々しい体質から解放される。お礼は休んでからするよ。部屋でゆっくりお休み」

 しかし、彼が動く気配はない。「ブルル」と牛のように鼻を鳴らしたが、これは抗議なのだろうか。びくともしない頑固な意思にため息が漏れるが、写真家だって人のことは言えないのである。こうなったら意地でも部屋に戻そうと、時計の進行具合を確認する。
時計が鳴れば気軽な外出も許される。そうなれば彼の背中を押してでも寝かしつけることができるのだ。時をすぎるのをまだかまだかと待つのはすごく久しぶりである。急く感情を沈めながらも秒針が時を刻む音が、一周を終えた音がやけにはっきりと頭に響いた。
 ボーン、ボーンと古い柱時計が低い音を立てる。日付が変わった合図である。ああ、これで忌々しい地獄から釈放される。はずだったのだが。

「な、んで……」

 数字とは残酷だ。マイナスの成績を収めてしまったことにより、αの匂いが鼻を刺激する。無慈悲にも変わらぬ疼きに胃液すら逆流をして、嗚咽が漏れる。
相対して、外から伝わる性のフェロモン強くなったではないか。これは、外にいる彼がαとなったことを示している。Ωが近くにいるが、手を出せないストレスを力にした結果だ、サバイバーたちに容赦のない一撃を加えながらも勝率を上げた彼は、文句のない成績を残していたのだ。
 まさか、守ってくれていた狩人と、獲物の関係になるとは思わなかった。震える体を抱きしめ、今にも暴走彼の鼻息に体を震わせる。脳に響く興奮しきった鼓動に、青ざめて再び喉へと上がってくる酸の味が不愉快である。
ガチャガチャと暴れ回るノブの音に「開けてはいけない」と冷静な声が警笛のように脳へと響く。だが、その警告は聞き入れられない。震えながらも小さな手は音源へと触れ、カシャンと軽い音を立てては侵入者を招き入れたのだ。
 体重のままに勢いよく内開きになった扉と、のしかかるように倒れ込んできた巨体。発情期の雄鹿が、小さな小鹿を押し倒しては作り物の鼻を押し付けてくる。フェロモンを嗅いでいるのだろう、フガフガと必死に行動に移る姿に、思わず愛おしさが湧き上がる。
 鹿の被り物をずらせば、唇で耳たぶを挟む。意外にも手入れのされている男の唇と体温に、体が震え上がっては熱ってくる。どんどん請求になるアプローチに、雌のような甘く誘う声が漏れ出てしまう。

「やだ、ベイン、くすぐったいから……」

 この強い求愛の香り。嗅ぐだけで正常な思考を奪うこの匂いは、αのフェロモンの力だけではない。これは、番いの匂い。お互いに求めてやまない、運命の相手である証ではないだろうか。
他の者ならば御免被る。理性が決壊するまで、抵抗を示すつもりだ。だが、それもままならないほどに理性を壊す匂い。ゆっくりと、確実に心を浸食してきたと思えば、絡めとられて自ら歩み寄ってしまう。

「いいよ。君なら。番いになっても」

 断る理由なんてない。小さく、無邪気に笑いながら首筋へと唇が当たるように抱きしめるだけで、理性が溶け出す。言葉もなく請求に行動で示される愛情表現に、牙を通して首へと特殊な媚薬が注ぎ込まれるのがわかる。
αに噛み付かれたΩは更に特殊な体質となる。噛んだ狩人にしか発情しない囚われの獲物。愛撫を性的接触と捉えてしまい、どんどん体が熱くなるのだ。

「んん、はぁ……」

 まるで鹿が獅子の喉元に食らいつく、下克上のよう。発情したペットに襲われているような背徳感にも駆られ、被虐心と優越感がフェロモンとなり、更に興奮してしまう。草食動物かと思われた者からの求愛を感受し、目を閉じては熱く甘い息を断続的に吐き出す。頭をかき抱き、性欲の涎でズボンを濡らしながらも蕩けた表情を隠す余裕もない。
 豆と切り傷だらけの太い男の手が、体を這うを度に熱が集まってくる。人間の体に鹿の顔。歪なミノタウロスだが、まるでとある童話を連想してしまう。強く、優しい呪われた野獣王子と、姫の話を。

「ベッド、行く?」

 何度も1人で耐え忍んだシーツには、Ωの強い匂いが染み込んでいる。興奮して足が早くなる彼にしがみつくのがやっとだ。強く抱きしめられ、白くシワだらけの海へと沈められたが、すぐさま影が差して雲のような大男が波のように覆いかぶさってきた。

「いいよ……きて」

 両手を広げておねだりをすれば、唇を塞がれる。目を閉じて答えている間に、器用に服のボタンが外され、ぷっくりと膨れた胸の飾りが顔を出す。白い肌に映えるその桃色は、小さく可愛らしい花弁にも見える。狩人だって聖人ではない。今まで我慢していた分の感情が欠壊してしまう。性急に唇を寄せて味わおうと舌を伸ばせば、触れるだけで体を震わせるのだ。男ではあるが、慰みのために随分と弄った結果である。もう女と変わらない性感帯となっていた。

「やだ、胸ばっかり触らないでっ」

 それでも構わず吸い付けば、腰の砕けるような甘える雌の悲鳴が上がる。写真家の媚びた声音など希有というものではない。いつも気丈に、平然としていた彼の可愛らしい一面に、番いの性など関係のなくなるほどに惹かれるのだ。
チュウ、チュウと赤子のように乳を吸えば、母乳の代わりに出てくるのは蕩けた声。柔らかい頭を撫でながら腰を抱けば、嬉しそうに細く括れた臀部が揺れる。足同士を絡めながら、擦り付けるように雄を太ももへと押し当てて、せんずりを始めたから、慌てて首筋へと噛み付いて静止をかける。淫乱な顔に、心臓がうるさいほどに高鳴り始めた。

「フフ……ボク、もう我慢できなくなっちゃった……」

 何ヶ月も焦らされたこともある。火照り切った体が甘い悲鳴を上げ続ける。このまま獣のように襲いかかっていいものかと思案していたのだが、要らぬ心配だった。首へと回った手には自慢の怪力など一切なく、むしろ優しさすら込められていた。

「ねぇ、抱いて。無茶苦茶に」

 これは抗えない情欲に強要された発言か。否、本心からの子供のような無邪気なおねだりに、夢中で唇へと擦り寄った。相棒である鹿の頭を隔てて。
彼が正気に戻った時に言い訳として使うのは卑怯かもしれないが、今は直接触れるには勇気が足りない。先ほどキスをしたばかりではあるが、自らの気持ちを理解した今は触れることに躊躇われる。
 可愛い、2人目の子供のような存在。に触れれば、最も大切だった相棒であり子供でもあった荒々しい毛皮の感触。目の前には、正反対で滑らかで美しい存在。まるで飼い猫のように喉を鳴らしては、深い青色を称えた目を向けてくる。

「君との子供、ほしぃ、」

 男が引き締まった細い腹をさすりながら、孕むことを懇願する。普通では成しえない、だがこの荘園では可能である。ゆっくりとズボンのチャックを下ろすと、立ち上って涎を流す雄が顔を出す。ピクピクと震える様はなんとも卑猥で愛おしい。恥じらいもなく全ての衣服を脱ぎ捨てると、秘部を余すことなく晒すのだ。を赤らめ、自らの指を食みながらも腰をくねらせるという誘惑つきで。

「後ろからのほうが、いい?」

 誰に命令されるわけでもなく四つん這いになると、白く丸い尻を小さく淫らに振り始める。雌犬のように、浅ましく交尾を求めるだけの獣である。
だが、いつまで経っても断罪狩人は動かない。不信感を抱いて振り返るだけで我慢汁が白いシーツを灰色に濁らせる。青空のような瞳が不安に曇る様も、加虐心を刺激されて興奮作用にしかならない。なけなしの理性で耐え忍ぶことが返って裏目に出ている。もう我慢ができなくなった。

「ベイン、お願い……」

 のしかかっては腰の膨張した欲望を擦り付けると「あっ……」と切なくか細い喘ぎ声が上がる。ゆっくりと腰をゆすれば獣のように腰を掴まれては臀部の割れ目を雄がなぞる。何度も何度も、マーキングを繰り返しているうちに身も心も準備万端になる。だらしなく舌を垂らしながら、ハッハッと犬の呼吸を繰り返す。力が抜けていく腕は下がり、腰が高く上がっては股を開いてはブルンブルンと揺らすのだ。
 限界である。ゆっくりと首筋に舌を這わせると、再び牙を立てては吸い上げる。Ωを番いにすれば、他の雄に取られることはない。もう側から離れるつもりはないが、ずっと一緒にいられる。ずっと、ずっと。近いのように何度も牙を突き立てては赤い跡を残す。
嬉しそうに髪を振り乱しながら、ぱたぱたと純潔なシーツが汚れていく。達したことで崩れそうになる体を抱きしめては、狩人もゆっくりとズボンを投げ捨てて直接温もりを貪る。
 呆けた表情は、きっと元に戻ると見れなくなる。いつまで続くかわからない呪いに絡めとられながら、身につけた大切な子の首へ触れる。高ぶる感情は、己のものか獣のものか、もうわからない。

++++
21.4.4





【ポス写】


※少しだけ裏表現あり


 この荘園に来てからどれだけの時が経っただろうか。義務として渡された日記に刻んだ日付が、意味をなさなくなったのはいつからだろうか。鍵がついた分厚い本を閉じると、窓の外へと目を向ける。レースの白いカーテンを透かして空を見上げ、ぼんやりと過去のことを思い出そうとはするが、靄がかかったように思い出せないのだ。
ここは、楽しい思い出話ができるような場所ではない。どちらかと言えば殺伐としていて、救いも名誉もなく彷徨う亡霊にでもなった気分である。過去も未来も奪われた場所。ここでは「ゲームで勝つこと」しか自由がないのである。
 こんなに億劫な気分になるのは、久しぶりに成績が下がってしまったから。先ほど渡されたばかりの朱印の押された文を、丁寧にゴミ箱へと押し込んでは深くため息をついた。βとなった体は、疼きはしないが劣等感に苛まれる。まるで弱者だと言われているようだ。弱者はいつ用無しになるかもわからない。生き残ることに必死なサバイバーと同じで、ハンターも存在を誇示しようと必死にならざるを得ない。

「はぁ」

 ため息が漏れるのも仕方がない。だが、反省ばかりしていてもどうにもならない。モチベーションの問題だ、持ち直して次勝てば今シーズンのミスもなかったことにしてもらえるだろう。
久々の休息の日と、満月の夜が重なったのもある。気分転換もあるし、気分が高揚して興が乗ったのだ。雰囲気に飲まれて「月下の紳士」の衣装を身に纏って外出をしたのも、ただの気まぐれ。
 外へと出た瞬間、予想以上に美しい月夜に感嘆の声がほう、と漏れた。雲一つない青黒い闇夜には白、赤、黄の星が点々と輝く。乾いた大地を踏みしめれば、砂がサクサクと軽い音を立てては足の形を地面に描く。自然と動く尻尾を振り乱しながらも夜道を歩いていた時だ。敏感になった嗅覚が、他の獣の匂いを感じ取ったのは。

「誰だ」

 1人の時間を邪魔されることほど不愉快なことはない。ギッと睨みつけてやれば、ガサガサと草むらが揺れて、隠れることすらせずに小さな丸い生き物が飛び出してきた。特徴的な丸いフォルムと鋭い牙は、犬である。この付近には野犬はいない。それに、このブサイクとも言えるブルドックには見覚えがあった。そうだ、サバイバーの1人であるポストマンの愛犬、ウィックである。
主人の姿が見えない、そう危惧して周囲を見回したのだが、すぐに後を追うように姿を現した。だが、いつものような赤い配達員の服ではなく、黒いタキシードをきていたのだ。一瞬彼だとはわからかず、思考が停止してしまった。

「その格好は……」

 月下の紳士と似た衣装、「亡霊」である。
まるで踊るように目の前に躍り出てきては嬉しそうに小さな尻尾を振る。ハンターを前にしても怯むこともせずに、駆け寄って抱きついてきて鼻を擦り付けてくる。まるで犬同士の求愛行動だ。
肩を強く押し返すことは簡単である。だが、動けないのだ。彼に嫌悪感どころか、好意的な感情を抱いているのである。拒絶する理由がないのだから。
 抵抗しないことをいいことに、彼は無邪気に尻尾をはちきれんばかりに振り続ける。側にいる垂れ目のブルドックも嬉しそうに、ピョンピョンと跳ね回っている。無邪気で可愛らしい2匹を見ていて、つい忘れてしまいそうになる。写真家とポストマンは相入れない関係性、狩る者と獲物であることを。
それでも、今はゲームの最中ではない。日常生活で馴れ合う事に対しては、ゲームに支障が出ないながらばとお咎めはない。別段、サバイバー個人に対しては恨みも嫌悪もない。貶める理由もないし、彼には少なからず「縁」もあるのだ。

「うん、似合っている。まぁ、その衣装を君専用に仕立てるように命じたのは私だからね」

 荘園の主人からの催しの一つだったが、仮装用の服を選ぶのは、サバイバーとハンターの意思だった。選ぶのはサバイバー、許諾するのはハンター。彼は、意外にも写真家の衣装を選んだのだ。あの時は驚きにあまりに、しばらく瞬きが止まらなかった。
断る理由もないし、何故ポストマンは自分を選んだのか、写真家としては興味が尽きなかった。二つ返事で了承をつけると、すぐに自らが監修して彼専用の衣装を設えた。
まだかまだかと首を長くして待っていた彼に、完成した衣装を届けた時の表情は忘れない。そう、ちょうど今のような口角を上げては、を満月のように丸くし、幸せそうな笑顔だったのだ。

「んっ、んっ!」
「そうか。君喋れないのだった」

 極度な人見知りである彼は、面と向かって人と口をきくことはない。親しくなったサバイバーとさえ、わざわざ紙に書いて意思疎通をすると聞く。声を聞いた者もいないらしいが、誰も気にすることはなかった。いちいち他人の性格や動向に興味を持つものなど、人を蹴落とし生き残ることが生業の、この荘園にはいないのだから。
 だが、写真家は彼の「声」に興味があった。年齢の割に大人の印象を受けるのは、寡黙なせいだろうか。それに、視線恐怖症とは風の噂で聞いたのだが、真っ直ぐ見つめていても怯える様子はない。むしろ近づいてくるし、しばらく目と目を合わせていると、ふいと顔を逸らすのだ。を赤く染めて。
よく視線が絡まると紅潮する者はいるが、彼との間に流れる空気は悪い気はしない。指を擦り合わせてはモジモジと煮え切らない動きを繰り返すのだが、可愛らしいと思えるのは彼の小柄な体躯のせいである。

「完全に喋れない、というわけではないのか」
「ん!」

 勢いよく縦に振られる首と百面相をする表情があまりにも必死で、思わず吹き出してしまった。だが、彼は喋ることはせずにポシェットから紙とペンを取り出してはサラサラと白の上を走らせては、美文字を作り出していく。
やっと手が止まったと思えば、丁寧に折りたたんで差し出してくる。まるでラブレターを渡す男子学生のように初々しく、そして意地らしい。手間のかかる茶番にも表情を歪めずに受け取ると、寸分のずれもない折り目のついた手紙を開いていく。
現れたのは、非常にシンプルな一文だった。

『貴方からいただいたこの服は、僕のお気に入りです』

 迷いなく書かれた世辞ではあるが、悪い気はしない。悪意を感じない彼の態度に免じて、鵜呑みにしようと思う。鼻を高らかに鳴らすと、自然と上がる口角はそのままに胸を張った。

「へぇ。君に、私の趣味がわかるというのか」

 高慢な返事ではあるが、即座に一心不乱に筆を取り、微笑みながらも紙の上へとペンを走らせる。サラサラ、と新しい感情が描き出され、再び同じ茶番が繰り返されるのを待つ。

『他にも衣装をもらいましたが、この服が一番好きなのです』
「ふうん」
『気高い狼の貴方に、本物の耳と尻尾がついているなんて、可愛らしいじゃないですか』

 2枚にも及ぶ感情の吐露に、ついいつものような冷淡な声が漏れ出た。彼の告白が嫌なわけではない、むしろ嬉しい。だが、聞き飽きた言葉を改めて見せられたことに、嫌気がさしたのだ。

「可愛い、と言われて嬉しいとは思わないな」
「ん!」
「私は男だ。女とは違う」

 容姿を褒められるのはいいが「可愛らしい」と言われるのは、男としては屈辱である。細身ではあるが、筋肉もついているし、立派なものだってついている。
不機嫌な顰めっ面に、冷や汗を流しながらも慌ててミミズのはったような達筆な文字を描いては、折り目も付けずに差し出してくる。そこには端的な謝罪文が書かれていた。

『ごめんなさい』
「フン」

 彼が返事の一つで一喜一憂するのが面白いから、いっそのこと困らせてやろうと画策した。拗ねた振りをしては鼻を鳴らしてそっぽを向いてやれば、手で激しく慌てたジェスチャーを繰り返す。
手紙を書こうとしては失敗し、丸めては投げて、丸めては投げてと頭を抱えていると思えば「ワン!」と相棒が力強く高らかに鳴いた。その言葉にならない声から何を感じ取ったのだろうか。決意を秘めた表情にたじろいだのだが、追いかけるように両手で手を包み込まれては、真っ直ぐ告げられたのだ。

「貴方のこと、馬鹿にしたわけじゃなくて、その、好きです」

 初めて聞いたに等しい人見知りの声は、か細くも強い意思が込められていた。
だが意味はわからない。急に告白をされたとしても、接点など皆無に等しいのだ。共通の趣味もなければ話したことも初めてである。それに、彼は男だ、お互いにβ。情欲に流されたわけでもない。正常な思考で告げられた言葉は、紛れもなく彼の本心である。

「……初めて、声を聞いたな」
「はい。告白は、紙に書いたら失礼かと思って」

 気が弱いくせに変に真面目な性格だ。だがそんな殊勝な態度は好感が持てる。つい気を許してしまったのは一瞬である。だがその刹那でパーソナルスペースに入り込むと、許可も得ずに手を握りしめては「してやったり」口角を上げる。
大人しいタイプの人間ほど、何を考えているかわからないものだ。思わず警戒して身を引こうとしたが、すぐさま気弱な青年へと戻るのだ。乱暴に振り払えるわけがない。
 写真家が抵抗をしないとわかれば、ゆっくりと慣れない舌を動かしては言葉を選ぶ。紙面に書くときとは違う、思案したところで口にすれば取り消すことはできないコミュニケーション手段だ。どうしても尻込みしてしまう。それでも、ここは言わなければならないのだ。彼の顔を見て、まっすぐに。

「αになったら貴方に告白するつもりだった」
「君はβだろう?」
「まだβだけど。αになったら貴方の番になりたい」
「私がΩに堕ちるとでも?」
「堕として見せます。ゲームで勝てば、貴方が手に入るのなら、僕も頑張るしかありません」

 これではどちかが獲物かわからない。爛々と輝く無邪気な瞳ではあるが、奥には底知れない野望が見て取れる。気が弱いと思っていたのだが、随分と強い意志を持っているではないか。驚き、目を大きく見開いて瞬かせるしかできない。
写真家が動かなくなったのをいいことに、首筋へとゆっくり舌を這わせ、牙を突き立てる。ポストマンはβだ。いくら写真家がΩだとしても、βでは番いにすることはできない。
 それでも、ゆっくりゆっくりと肉へと食い込ませると、傷跡を残す。目的は番いとなり相手の尊厳を拘束するためではない。野生動物のように獰猛で、欲に呑まれたハンターたちから守るために、精一杯の威嚇。番にはなれなくとも、目に見えた跡に「先約がいる」とわかるだけで、尻込みさせることができるだろう。

「ジョゼフさん」
「もう、やめろ……っ」
「その蕩けた顔、可愛いです」

 痛みではなく、それすら超えた甘い痺れに口しか動かすことができない。唯一できる抵抗も、満面の笑みを浮かべる彼には無意味。妖しく、普段のオドオドした青年の姿はどこにもない。獲物を見つけた狼が、じわじわと墜ちるのを待っている。諦め、四肢を投げ出すまで。

「……おとなしいと思っていたが、悪趣味なやつ」
「だって貴方は、すぐ逃げてしまうから」
 
 その言葉を最後に、彼は固く口を閉ざした。最後に首筋を舐めたと思えば、唇へと軽くキスを落としては体を離す。寒さを感じたが、言葉にしてやらない。ムスリと不機嫌であるとアピールをしてみるのだが、嬉しそうに胸へと体を擦り付けるウィックのせいで、口元が緩んでしまいそうになる。

「くすぐったい……」
「耳は、直接生えているんですね。尻尾はどうですか?」

 許可も得ずに服へと手をかけるものだから、目くじらを立てては獣のように腕へと食らいつく。喉を低く鳴らしながらも首を振って食いちぎろうとするが、少し眉を寄せるだけで彼は怯みもしない。むしろ強い光を帯びた青い目が、真っ直ぐ心臓を射抜いては中を覗き見ようとするのだ。

「自分の体で確認したまえ!」
「見たいんです。貴方の体で」

 血の滴る白い首筋へと再び意識を情愛を向け、唇で愛撫を加えながらも燕尾服へと素早く手を入れる。どちらかを全力で死守すれば、片方の進行が早まる。最悪ないたちごっこが始まることが目に見えている今、下手に動くこともできない。ならば、とハンターとしての狩人の威圧感を視線に込めて「やめろ」と凄んで見せるのだが、抵抗せずに四肢を投げ出している今、ただの強がりにしか思えない。気の弱いはずのポストマンすら、まるで小動物を見る優しい目で微笑むのだ。やっと手の進行が止まったのはいいことではあるが、子供のような扱いは誠に遺憾である。

「本当に犬みたいで可愛い人ですね……」
「嬉しくない」
「Ωになったら、貴方はどれだけ扇状的になるのでしょうね」
「ふざけるなっ! 絶対に、Ωになんて……」
「いいえ。絶対に、堕として見せます。絶対に」

 ハンターに対する戦闘力もないくせに、どうしてそこまで豪語できるのか。彼の深い青を帯びた目には、決意と執念が宿っている。絶対なんて曖昧な言葉など、いつもなら嘲笑って一蹴するところである。だが、彼があまりにも真剣に、予言するかのように何度も反諾するものだから気圧されてしまった。

「そうか。ならば、楽しみにしているよ」

 「ん!」と口を閉ざしては指で円を作り、無邪気な笑いを浮かべる。意地でも手加減をするつもりはないが、この笑顔を守りたいという過保護心と、期待がある。果たして彼の願いが成就したときに、一体何が起きるのだろうか? 恐怖心と好奇心が入り混じった奇怪な感情に興奮しているだけだ、この心臓の高鳴りは。

『必ず、貴方は僕がもらいます。覚悟していてください』

 「これは手紙ではなく誓約書です」笑顔の裏に隠された牙が、ぎらりと月明かりの下で光る。挑戦状に記された端的な文字は、美しく迷いのない筆筋だった。



「して。まだ、君はαにならないのかね」
『貴方が手加減してくれないから』
「当然だ。愛故に私を蹴落としてくれるのだろう?」

 豪勢な天蓋の下がるベッドに、2人の影が蠢く。ベッドの中で、首筋を噛み合いじゃれ合っているのは銀狼たちだ。薄い銀色の体毛で覆われた肌を晒し、鼻をすり合わせては喉を鳴らす。
1匹はせっせと手紙を書き連ねる。普段は寝床にインクなんて持ち込めば大目玉ではあるが、彼のために専用のスペースまで設えさせたのだ。山のように積まれた肌触りのよい高級紙と、数々の文房具。それに、小さな犬が転げ回っても飛び出さない籠。
いつの間にか写真たちの前に置かれた必需品である。

「ふふ、待っているよ」
『だから、今夜はもう一度シたいです』
「仕方ないな……なら、ちゃんと私を満足させるんだ」

 のしかかってくる小さな体を抱きしめ、腰へと細い足を巻きつける。女のように細い体を月光の元に曝け出しながらも、うっとりと揺れる銀色の尻尾を見つめる。

「大丈夫です。気持ちよくさせますから……」
「君は番いにするという約束は守らないが、コチラの技術は信頼しているよ」

 腰を揺すりながらも恍惚の表情を向ける。ゆさゆさと動かしているうちに、一口にあてがわれた熱い尻尾。悦びに震える体を支えるようにベッドへと横たわらせ、一気に腰を押し進める。

「ん……っ」
「イイぞ、そのまま……」
「はぁ、奥まで、行きます……」

 先ほどの行為もあり、難なく奥へと潜り込む。痛がる素振りも見せないが、彼はれっきとした男でありαである。ここまで体の相性のいい相手は生涯見つかるかも疑問である。写真家にいいように仕込まれたこともあるが、いつも受けて側は彼。いくら彼好みに教育されたとしても、受け入れる男の体に負担を与えずに事に及べるのは運命といっても過言ではないだろう。

「もう、番いに拘ることもないだろうに」
「いやですっ! 貴方と子供を、作りたいっ!」
「ほう。そのような邪念で動いていたとは……んっ」

 ウィックを起こさぬよう、唇を引き結んでは布団で全身を覆う。ギシギシと軋む音はかき消せはしないが、空気の読める相棒は耳を動かすだけでピクリとも動かない。

「いい、だろうっ! この荘園で君が消えるまで、私は待つとするよ……」
「絶対に、貴方をっ!」

 一体どれだけ前に渡された誓約書なのかは忘れてしまった。額縁で眠る古びた紙は、笑う双子の隣にかけられていた。

+END

++++
狼は生涯番いは1人だけ以下略

21.5.24





【傭写】


※写庸描写あり



 コツ、コツ、コツ。廊下を叩くヒールの音と、アルトの鼻歌が広く豪奢な屋敷が響く。闇の奥へと続く赤い絨毯の上を、金の刺繍を施された美しい衣を纏った貴族がまかり通る。
 今日の試合も、誰も逃すことのない完勝。苦悶で呻きながら絞り出されたサレンダーの言葉を思い出しながら、写真家はお気に入りの写真を回して鼻歌を口ずさむ。腰と共に青いコートが左右に揺れ、女性のように体をくねらせる。糸くずが纏わりついた剣を振り払い、美麗な顔を怪しい笑いで歪めるのだ。
 勝利とは完備なものだ。しかも、ゲームの報酬として面白いものまで手に入れた。機嫌だって鰻登りである。腕の中で絶えず呻き声を上げて丸くなる緑色の布は人形ではない。豆のような見た目をしているが、立派な青年、傭兵である。
勝利の余韻に浸って屋敷へ足取り軽く帰路へつこうとした時だった。彼がゲートの外で蹲っていたのは。
溢れ出す、砂糖をふんだんに使った菓子のような甘い香りに、彼がΩであることはすぐにわかった
 いつもなら、ゲームが終わった瞬間に人形の姿を捨てることになる。だが何か不具合か、何度も痛めつけすぎたせいか、一向に戻る気配がない。ならば勝利の報酬として持ち帰るのも一興である。邪気すら感じる満面の笑みで抱き上げると、鼻歌を口ずさみながらゲートを後にした。これが顛末である。
 一歩、一歩と進んでいくうちに鼻を擽る甘い香りに思案から我に返った。仲間を身を挺して守る彼は、必然的に皆の敗北を肩代わりする。その為に何度もΩを経験している傭兵は、この衝動にも慣れている。そして、この地獄の期間で何人の愛人を作ったのだろうか。考えるだけで笑いがこみ上げてきた。

「さて、せっかくの余興だ。楽しませてもらおう」

 普段はΩであっても男には手は出さない。女に困ることもないし、この特殊な環境はゲームがメインとなる。ゲームに集中する為にも、性欲が強まる頻度が落ちている。だが、生き残ることに貪欲になるこの荘園には特殊な「性」を植え付けられる。写真家もただでさえ年齢の影響で性欲は薄い方であるが、αになるとどうしても高揚してしまう。
普段は歯牙にもかけない彼が気になるのは、写真家は今のシーズンは優等種のαであるから。αとΩはお互いの感情に関係なく、惹かれてしまう。欲情し、子をなすために互いを求めてしまうのだ。
 強気に睨みつけてくる彼の姿を見ていて、加虐心に火がついた。サバイバーを勝手に連れ帰ったことがバレると咎められはしないが、悪事というものは暴かれなければいいのだ。暗く枯れた木々に挟まれた雑木林を越えれば、やっと赤い屋根の豪奢な洋館が見えてきた。
もうすぐでお楽しの始まりだ。そう舌舐めずりをした時だった。目の前に立ち塞がった門の影から、黒い羽が舞ったのは。

「写真家様。何をしているのですか」

 この、感情のなく力強い音色はナイチンゲールである。凛と門の前に立ち塞がり「通すものか」と威圧感をかけてくる。
基本的に対戦相手にあたるサバイバーやハンターを、自らの屋敷へと連れ込むのはご法度。だが「看病だ」という名目を告げると、ナイチンゲールの鋭い視線を交わした。面倒な説教が来る前に、早足でエントランスの門を閉めると、無言の諦念のため息をつかれただけ。きっとハンターたちの機嫌を損ねないようにと、大目に見られたのだろう。
 もし、静止の声がかかっても誰にもこの蠱惑的な賞品は奪わせない。歩くという一般的な動作が起こす冷たい風ですら、熱った体には快感を与える。まだ目が覚めていないのに強く目を閉じ、歯を食いしばりながらも耐える姿がまたそそられる。我慢できずに臀部を撫でるだけで、漏れ出る喘ぎ声とΩの蠱惑的な匂いが強く大きく膨れ上がる。すると、廊下を通るだけでαの特質を持つ狩人たちの、ギラついた目が突き刺さるではないか。
我慢できずに壊すように開かれたのは、周囲の壁に爪痕が走る、リッパーの部屋の前を通った時だった。ずるりと細く長い腕が扉の隙間から這い出て、闇を具現化したような異形の姿が現れたのは。

「おや、これはこれは、ナワーブ君じゃないですか」
「私への挨拶を蔑ろにするとは、いい度胸だ」
「おやおや、ジョゼフさんもいたんですね。これは失礼」

 特に傭兵はリッパーのお気に入り。やはり目の前に近づいてきては、発情する雄犬に手を伸ばしてくるのだが、素早くはたき落として睨みつける。勝ち誇って口角を上げると、第二波が真空派となって襲いかかりそうになったが、それはもみ上げを数本吹き飛ばして壁に傷跡を残した。

「彼は私が捉えた獲物だが」
「そんなこと、奪い取ったもの勝ちでしょう?」

 仮面の奥で欲望の光を滾らせ、彼は笑う。何度も何度も、まるでゾンビのように鋭い爪を伸ばしてくるが、その都度にサーベルを抜き放っては払い除ける。カキン、ガアンと金属のぶつかり合う音が響いて、熱にうなされながらも目を開けた傭兵を守るように抱き抱え直すと、リッパーの表情の読めない顔が歪んだ気配がする。
狙った獲物は誰にも渡さない。特に、誰かが狙うものなら尚更、だ。腕の中で目を閉じる彼を見やれば、「ん……」と鼻の抜ける脳を溶かす吐息が響いた。

「ちょうどいい。彼に決めてもらおうじゃないか。どちらを選ぶか」

 耳元で囁けば、ぶるりと震える体。うっすらと開いたくすんだ青い目を、4つの瞳が弧を描きながらも覗き込む。
周囲を見回し、自分の置かれた状況を理解するより先に、全身で感じる危機感。2人のαに取り囲まれたαなど、袋の鼠もいいところだ。抱き抱えられている故に逃げ場もなく、気絶から目覚めた状態など体も動くわけがない。

「姫が起きたようだよ」
「ナワーブ君。貴方はどちらに抱かれたいですか?」

 起き抜けに囁かれたのは、絶望の選択肢。紳士的で見目もいいと2人ではあるが、如何せんサディスティックな性癖を持つハンターたちである。どちらを選んでも玩具のように扱われるのは目見に見えている。

「ざ、けんな」
「ほう?」

 やっとのことで絞り出されたのは弱々しくも雄々しい拒絶だ。勢いよく痰で汚れのない絨毯を汚すと、2人は顔を見合わせて楽しそうに笑うのだ。下衆びた表情で。

「ならば、このまま私が連れ帰ろうではないか」
「待ちなさい」
「なに、終わったら貴方の元へ送るさ」

 しばらく考えていたリッパーだが「寝取りのシチュエーションも好きだろう?」と囁かれると、大人しく引くのである。奪われるのは我慢ならないが、その後に奪い取れるなら関係ないらしい。ひらひらと手を振るのだが、傭兵にとってはありがた迷惑である。中心人物に当たるのだが、納得はしていないのだから。
 だが、逃げ出す力を養う前に、豪奢な金の装飾を施された写真展示室へと連れ込まれ、天蓋の垂れ下がるキングベッドへと投げ入れられた。客や愛人を扱うには雑すぎる態度である。そのまま体勢を立て直す前に体を乗り上げて覆い被されば、苦虫を噛み潰した表情で睨み返すのだ。

「ふふ、可愛い」

 抗おうと言うのか。小さなプライドのために、この強く色欲の衝動から。普段は雄々しい傭兵の姿が、これほどにまで可愛らしく見るなど夢にも思わなかった。
 彼に対して恋愛感情はない。ただ、遊んでいて楽しい玩具という認識しかない。Ωの匂いに気分が高揚してしまう。だが、感情のままに動いては獣と同じである。楽しみはより長く、首に噛みつかぬように愛撫を施し、できるだけ長く苦しめる。そう簡単に楽にしてはやらない。

「ジョ、ゼフ、てめえっ!」
「おっと。劣等種の君には私に逆らう権利はないよ」

 タイを咥えながら外す様に、男の色気が滲み出る。現れた白い喉も、動く喉仏も、滴る汗も。彼の整った顔立ちを映させるための道具にすぎない。性急に豪奢なコートを脱ぐと、投げ捨てるようにベッドの桟へとかける。シャツのボタンを一段、また一段と外す度に傭兵の顔色がみるみるうちに赤くなるのがわかる。
 これから犯されるという状況に興奮を覚えているのは間違いない。思ったよりも細い輪郭へと指を這わせ、うっとりと恍惚の表情を浮かべては舌を唇へと這わせる。

「大丈夫。怖い事なんて何もない……さぁ、私に身を委ねて……」

 必死で股座を隠している手を退けると、大きく膨らむボクサーパンツ。それでもまだ可愛らしく抵抗を見せるものだから、体を強く押しては四つん這いになって覆いかぶさり、退路を断つことにした。まるで赤子を慰めるようにさわさわと細い指でコブを撫でると、雄の低い喘ぎ声が広い部屋に響き渡る。美麗な貴族の部屋ではなく、淫靡な娼館に迷い込んでしまったようだ。
 必死になって身を捩っても、ベッドの端へと後退をしても無駄である。広い天蓋の張られたベッドは、みじろぎした程度では倒れもしない。

「さて、楽しませてもらおう」

 舌舐めずりをして、服を完全に取り去ろうとしたときだった。長針と短針が12で交わったのは。
カチリ。いつもは意識すらしない時計の針の音が、やけに大きく響いた気がした。そして、すぐに襲いかかるのは体の異変。内側から何か、得体の知れないものが湧き上がってくるような、抑えきれない欲望が湯水のように湧き上がってくるのだ。我慢ができるわけがない。

「あ、れ」
「やっと、終わったかよっ」

 今回の周期が終わりを告げ、やってきたのは体に重くのしかかる呪いの疼きである。体を抱きしめて後ろに座り込むが、体の震えが止まらないのだ。
浅ましく熱い息をつきながら、写真家は身震いする。まさか、Ωになるとは思ってもいなかった。対して目の前から流れてくる匂いは、αのもの。抗えない衝動に歯を食いしばり、睨み上げるのだが相手は強気な笑みを浮かべるのだ。
傭兵がαに、写真家がΩへと変異したのだ。先ほどと立場が真逆である。

「へっ! こうなればこっちのもんだ!」
「さ、触るな!」

 それほど力は強くないのだが、急な行動に思考が働かなかったのと困惑から、容易にベッドへと押し付けられてしまった。

「やめろと言っている!」
「劣等種は逆らう権利はないんじゃないのか?」

 血走った目は、焦らしすぎた弊害だ。獲物を前にした凶暴な野犬に、たじろぎ冷や汗が止まらない。
既にはだけた上着をずらすことなど、造作もない。白い肌を外界へと晒せば、傷一つない美しい裸体が現れる。男らしい、筋肉のついた体だ。だが、今は胸の頂点が興奮で赤くぷっくりと腫れ上がっては、まるで果実のように存在を主張する。

「あの写真家が、随分と可愛らしいじゃねーか」
「う……はぁ、ん」
「触ってほしいのか? 女みたいに胸で感じるのか?」

 意地悪く、片方の胸は唇で吸い上げ、空いた方は指で何度も往復して弾くだけで、あられもない甲高い悲鳴が上がるのだ。
先ほどまでいいように言葉で詰ってきた彼の痴態を嘲笑いながら、チロチロと指先で赤い果実を弾いてやる。しばらく歯を食いしばっては耐えていたのだが、先ほどお預けを食らったこともあり、欲望も堰き止められていたものが一気に溢れ出したのだ。

「いい、イイよっ! 指がガサガサしていて、気持ちがいいっっ!」

 ついには恥も地位もかき捨てて、欲望のままに喘ぐ姿に惹かれない男はいない。「あっ、あっ!」と随分と気持ちが良さそうに快楽に身を委ねては、素直に足を開いては勃ち上がった立派な雄を布越しに見せつけてくる。
もう少し早ければ、この凶悪で魅力的な巨塔が内臓を押し上げていたのだろう。そう考えるだけで顔は真っ青に、体は熱くなってきた。

「……てめえだけが気持ちよくなるのも納得いかねえ!」

 傭兵もムキになって自らの雄を取り出し、擦り付けるのだが急に視界が揺れた。
劣等種ではあるが、元の力は写真家の方が強い。ついに限界を迎えては、衝動のままに押し倒してきたのだ。目を白黒させていると、見下ろしながらも青い瞳は欲情に飲まれて赤く揺れている。口から垂れる涎を拭いながら、前触れなく股間で燻っていた雄へと食らいつけば、今度は傭兵から甲高い悲鳴が上がるのだ。

「ん……、おっきくなってきたよ……」
「ぐう、やめろっ」
「可愛いね……ほら、一緒に気持ちよくなりたいだろう……?」

 味わうように必死に舌を動かしてしゃぶってくる姿に、快楽と怒りの混ざる悲鳴がひっきりなしに上がる。流されてなるものか。そう最後の理性で踏みとどまろうとはするのだが、男のツボを得た的確な愛撫には抵抗ができないのだ。

「あっ、くう、やめ……っ!」
「ふふ……私も、我慢ができなくなってきた……」
「うっ、」
「可愛い君にご褒美だよ……挿れてみないかい?」

 ぢゅぽん、と淫靡な音に耳すら犯される中、臨戦体制となった雄が姿を現した。うっとりと物欲しそうなΩの目と香りに当てられながら「それでもまだ」と無駄な抵抗を続けていたのだが、ついには理性を壊す作戦に出たのだ。女にしかないはずの股座の唇を指で開き、軟肉を見せつけると腰を小さく振る。
くぱぁと開いた卑猥な口から視線をそらすことができず、喉もなってしまう。これ以上、我慢するには性欲が膨張し過ぎた。煩悩のままに肩を押さえつければ、愉しそうに女の顔で笑うのだ。まだ余裕を見せる姿が、悔しい。

「泣いてもやめないからな……っ」
「ふふ、泣くほどヨガらせてくれるのかな?」
「その余裕も長くは続かせねぇ……」

 傭兵が乱暴に唇を奪えば「そうじゃない」と舌を優しく絡めとっては写真家がリードする。こういう時は年上面するところも気に食わない。だが、αの性か元から蓋をしていた感情のせいか、この高慢でサディスティックな貴族様が、とても愛おしくて麗しく見える。腰をかき抱き、足を掴んでは性急に肥大化した想いを押し当てて、鼻息が荒くなる。

「いいよ……いつも応えてくれるとは限らない仲間に尽くしているご褒美だ、挿れてごらん……」

 ぷちゅん、と難なく入り込んだ先端と、使い込んでいる気配はないものの、柔らかく包み込んでくる雄。そして、長い腕にも抱きこまれて意識が獣のような衝動に飲み込まれていくのがわかる。
言いなりになるのはごめんだが、依頼されたら応えるのが傭兵である。わがままで身勝手な貴族のご機嫌とりのために腰を打ちつけると、甲高くご満悦な悲鳴が響き渡った。

++++
オネショタ。ツンデレ。頑張って耐えようとするから可愛い。タガが外れたらすごいがっついてくる。でも可愛い。

21.8.7





【オフェ写】




「ヘレナ、逃げろ!」

 背中に伝わる衝撃に「またあの男がきたのか」と心の中で悪態をつく。フェンサーを嗜み、鍛えている男の体を易々と突き飛ばし、椅子から数メートル離れた壁へと勢いよくぶつける。「ガハッ!」吐き出された痰が地面へ吹き飛び、手に持っていた風船の紐を離してしまった。勢いよく地面に叩きつけられそうだった心眼の小さな体を、滑り込んできた傭兵が抱えてはゲートへと駆け出す。しかけてきた本人、オフェンスが殿を努めながらも、3人は一目散にゲートへかけていくのだ。
慌ててカメラへ手をかけるが、時すでに遅し。1人、また1人と脱出したことを告げるブザーを聴き、全員がいなくなったところで力が抜けてへたり込んだ。
 最近、こんな調子でオフェンスと出会うことが多い。その度に予測できない力業に圧倒され、サバイバーを逃してしまうことが増えた。直近の勝率は褒められたものではない。
ただの筋肉バカだ。知性の欠片もない彼のことは、そう見下していたのもあり、屈辱も膨れ上がる。怒りで赤くなる顔を抑え、立ち上がろうとした時だった。

「おー、あったあった」

 明るく低い男の声に顔をあげると、今頭の中を占領している憎い男ではないか。ガサガサと箱を漁ってはボールを取り出し、笑顔で小脇に抱え込む。1人でラグビーでも始めるつもりなのだろうか。見たくもない道具が視界に入り、写真家は再び顔を顰めた。荒廃した教会には派手な金の刺繍と、美しい青の生地はよく目立つ。長い草の近くではあったが、すぐにオフェンスはハンターの存在に気がついた。先ほどは斬りあい、激突しあいと攻防を繰り広げられていたが、終われば意外にも気さくなものだ。ゲーム外ではサバイバーを殺害してはいけないこともあり、オフェンスも警戒心なく仲間と対話するように自然体で接してくるのだ。

「ん。まだいたのか」
「貴方はどうして戻ってきたんだい」
「ゲームが終わった後にボールを取りにこないとさ。忘れて寝ちまうんだよ」

 筋肉バカだとは思っていたが、どうやら間違いではないらしい。大切そうにボールを小脇に抱えて、逞しい胸筋を見せつけるように胸を張る。誇張された胸部につい目が止まってしまうが、どれだけ大きくとも男であることには間違いない。
それよりも気になることがある。この汗とは違う、強烈な匂い。間違いない。この男からであり、荘園でしか嗅ぐことのない特殊な香り。これ以上ここにいてはいけない。相手はα、優等種である。劣等種であるΩに万が一でも勝ち目はない。

「なんだ? 足、挫いたのか」
「うるさい。構うな」
「意固地になるなよ。屋敷まで運んでやろうか」

 座り込む写真家の思いを知るわけもない。無邪気に近づいてくるが、ハンターすら手篭めにする力に思わず息を飲む。本能的な恐怖を感じて思わず後ずさると、子供のように無垢さで首を傾げては、再びガタイのいい体躯でのしのしと近づいてくる。
あとは手を伸ばすだけで触れられる、そんな距離にきたところでやっと体が動き出した。

「触れるな!!」
「もしかして折れたか? 大丈夫か??」

 パシィン! と大きな音が鳴り響いては手を叩いて拒絶する。善意からの行動であるのはわかる。だが状況が悪い。Ωが他人に気を許す材料が少なすぎるのだ。とっさに距離を置いたのはいいが、背中に当たる冷たく大きな箱に息を飲んだ。普段サバイバーたちが身を隠すためのロッカーである。こういう時にまで、この無機質な鉄の檻は邪魔をするというのか。
追い詰められ、サーベルに手をかけようとするがうまく力が入らない。彼が近づく度に、力が抜ける。目と鼻が触れるほどの距離になり、やっとオフェンスもこの状況を理解したらしい。「迫っているのはαで、今追い詰められている麗人はΩである」と。

「ジョゼフお前、黙ってるとやっぱり綺麗だよな」
「ヒッ!」

 無言で押し倒されて、血の気が引くのがわかる。この甘く惹かれて止まない匂いに抗えない。それに元より頭ひとつ分ほど負けているのだ。上品な上着に錆がまとわりつくほどに身動ぎをするが、抜け出すことはできなかった。ハンターとしての力を持ってしても、突き飛ばされるほどの力がある屈強な肉体。覆いかぶさられるだけで恐怖を覚えてしまう。
恐怖より上回ったのは、αを前にした高揚感である。
 何も言わずに鍛えたスポーツマンの胸に顔を埋め、目を閉じるだけで力が抜ける。番いではないのに、惹かれて止まないこの感情は争いようのない衝動である。

「エリス君。君は男前だとよく言われるだろう」
「お、おう」
「だからこそ、男として節度を持って紳士的な行動をしたまえ……!」

 人としての情に訴えかけて諦めさせようとはするが、まるで発情した獣を相手にしているようだ。スポーツをしている者や武人は溜まりやすいとは聞くが、これほどとは思っても見なかった。押し返そうと足掻く手首を捻り、抑え込んではあろうことか指先に噛み付いてくる。獲物を味見するかのような動作に恐怖を覚えたが、何よりも余裕のない雄の匂いに貞操の危機を感じるのだ。男であっても、逃れようのない力差を前に。

「これが、Ω……はぁ、はぁ」

 乱暴に首筋に牙が突き立てられ、獣のように荒々しく血管をなぞるように唇を這わせる。遠慮なく噛みつくものだから、まるでヴァンパイアに噛まれたように4つの跡が刻まれて、血が滴り落ちる。その血すら「勿体ない」と赤い道を下でなぞるが、そのザラザラとした感触にすら快感を覚えてしまった。
 「このまま流されてはいけない」と律しようとする意思とは別に、新たな性により作り替えられた体が反応を示して期待の涎を流す。その愛液の匂いを感じ取ったのだろうか。近くにあったロケットチェアへと無理やり写真家を座らせ、オフェンスが覆いかぶさるのだ。影が落ちた雄の表情と、これから行われるであろう行為に、残りわずかな理性が警笛を鳴らし、汗を流す。

「いたっ!」
「やっぱり、お前、可愛い」
「こ、ここでするのかい!?」
「椅子があるから、背中は痛くないさ」
「外でするなど、ケダモノと変わらない!」
「でも、お前も我慢できないだろ……?」

 低く男らしい甘い声が脳に直接響く様だ。ゾクリと背筋が粟立ち、下半身に衝撃が走る。声だけで腰砕きになるなど、恥もいいところだ。だが、もう立ち上がることはできないほどに痺れが走る。だらしなくて下品に、ズボンを濡らしてしまうほどに。
許可も得ずに上着を脱ぎ捨て、ピッチリとくっついているユニフォームを手間取りながらも取り去っては、乱暴に足元へ叩きつける。性急な行動に目を白黒させていたが、それよりも目を見張るのは彼の肉体美だ。鍛えている男の割れた腹筋と、丸太の様な二の腕についた筋肉。女だけではなく、男からも羨望の眼差しを向けられるであろう鍛えあげられた体は、上半身だけではない。ゴクリと唾を飲み込んで、期待に視線を下へと滑らせれば、幕を張るテント。ズボンの上からもわかる大きさに、カッと顔が熱くなる。

「そ、その下のモノを! 鎮めたまえ!!」
「お前を見てたら我慢できねえ……」
「そんな大きいモノは入らない!」
「穴があるならいけるだろ」

 なんともいえない脳筋な発言に、熱ではない目眩を覚えた。体に穴が開くどころか死んでしまうかもしれない。命の危機すら感じて抵抗を開始するが、ビクともしないのだ。
「嫌だ」という感情は不思議とわかない。それよりも強い恐怖に取り憑かれる。特別な力を行使することが許されるのはゲームの間。それ以外では厳罰の対象となる。だが純粋な力のみでは硬い胸板を押しただけではびくともしない。再び腕を掴まれてはもう動けなくなる。観念しては目を閉じて唇を引き結べば、睫毛が震えてはパサパサと乾いた音を立てる。

「私の言うことを、聞け!」
「無理だ……脱がすぞ」
「だから、待てと!」

 身分など気にしない、遠慮のない態度に「蛮族だ」と罵る余裕もない。もう発情しきったオスの暴走を止める術も思いつかず、嬉々としてスラックスを脱がしにかかる彼の無邪気な表情を見つめるのみ。急に大人しくなった気難しく我儘な写真家の様子に、驚くことなく素直に喜ぶオフェンス。上品なズボンを背後に投げ捨てたのを合図に動きが早急になり、黄金のボタンすら乱暴に引きちぎるのだ。止める間も無く無残な姿になるシャツと強張る体を守るように腕を巻きつける。

「……上着はやめろ」
「服を着たままスるのが趣味か?」
「服を雑巾にされたくないのでね」

 これ以上無防備な姿を晒したくなかった、それが答えだ。だが、「性癖か」と考えてもいなかった言葉で煽られてしまえば意識もしてしまう。カッと熱くなる体と咄嗟に首へと叩きつけられる踵。懐かない猫の弱々しい一撃をやすやす受け止め、無理矢理足を開かせると体を割り込ませて無理矢理体を押さえ込む。男の硬い体には酷であるが関係ない。無理な姿勢を強要されたことにより悲鳴を上げる背骨であるが、布越しにあてがわれる巨根に絶句し、そして全身粟立ち、匂いだけで快感を覚えてしまった。

「じゃあ、下を全部脱がすぞ」
「止めたところで無駄、だろうね」
「それはお前もだろ? 勃ってるじゃないか」
「番にならなければこんなことには!」
「うんうん、そうだな」

 馬耳東風、雑な返事をしながらも唇を奪い、唾液を流し込まれるだけで頭がぼんやりしてきた。まるで神経毒のように全身を巡る快感に、体が動かないどころか理性が蕩けて消えていく。アヘアヘと情けない息をつきすがりつく細い腕を、オフェンスは手繰り寄せては抱きしめる。あくまでも優しく、抱き潰さないように。

「番にならなきゃ、こんな想いを抱かなかったのかもな」
「……知るわけないだろう!」
「まぁいいや。それは次に性が変わればわかるか」

 少し冷静になったと思えばこれだ。再び容赦のなく押さえつけられ、力で屈服させられる女の恐怖を感じる。
諦めたわけではない。だが雄らしさを全力に押し出してくるタイプの人間には抵抗するだけ無駄であるし、酷い目に合わされるのは御免である。身体はもう服従の意を示して大人しくなってしまったし、一度だけなら無礼を許してやろうではないか。写真家はあくまでも高飛車な態度を崩さない。

「私がαになったら覚えていろ……」
「じゃあ今のうちに楽しませてもらうさ」

 もう一度首筋に吸い付けば、顔を歪めながらも細い手で隠そうとする。強気な態度は崩さないところが、伯爵の地位を持つ彼らしい。無理やり手首を捻っては頭の上で束ねてやれば、酷く怯えた表情を見せる。
力でハンターを組み伏せるのも、妙な優越感にかられるものだ。オフェンスも例外ではない。赤い跡を残すほどの力とは裏腹に、優しく唇を落とせば、人形のように青い瞳を伏せるのが見えた。

++++
22.1.14

[ 104/115 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -