ててご | ナノ



一夜の過ち

※バイ囚×ノーマル写
※写×♀、ハンター×写の表現あり


 狭い部屋に閉じ込められた、逃げ道がなかった。急に襲い来る耐え難い欲情を発散する、最適な方法を選んだ、それだけだった。

 薬の効果で半端に欲情してしまった体の火照りを鎮めようにも、4畳ほどの隔たりのない部屋にあるのは、質素なベッドと囚人の男だけである。

「くそっ! 新しい道具の試作とは聞いていたが、精力剤とは聞いていないぞ!」
「はぁ、荘園の主も何を考えているのやら……」
「しかも、何故貴様と!」
「運悪く彼女と居合わせてしまったんだ。諦めるしかない」

 怒りで発散をしようとしても、収まるわけがない。力なくも余裕の笑みを浮かべる彼も憎らしい。
意識を操作する効果も入っているのだろうか。徐々に熱で意識すら霞んでいく。
 ベッドに力なく横たわり、発熱したかのような浮遊感にも襲われる。気持が悪い、キモチガイイ。堅くなる体を隠しては横になり、冷たいコンクリートの壁にへばりつく。
 無様など言ってはいられない。今すぐにでも体を擦り付けて楽になりたいくらいだ。しかし、さすがに人の前で醜態を晒せるほどは理性が溶けてはいない。深く咳き込みながらも熱を体外へ発散しようとしていたが、急に冷たいものが貼り付く髪を避けて額を包み込むのだ。

「冷たい……」
「水があったよ」
「きもちいい……」

 目を閉じてうっとりと彼のかさついた掌に、白い頬を擦り寄せる。
優しい手だ。とても、人を殺めるような囚人の手ではないと錯覚するほどに。

「貴方は、私に欲情できるかい?」

 唐突な問いに、反射的に頭が動いた。緩やかに横へ振られた幼い表情には、軽蔑も嫌悪もない。
異性愛者が同性に性的興奮を覚えるのは難しい、ただそれだけだ。それ以上の思いはない。

「私は貴方で欲情できる」
「男、なのに」
「元より性別という概念に視点を置いていないからね」

 ゆっくりと覆い被さり、両手首を頭上で押さえ込む。冷静さを欠いた頭では何が起きているかもわからず、目を瞬かせるだけ。追い剥ぎのように上着を開かれてはタイが目に巻き付いてきた。

「痛いならやめる。だから、目でも瞑っていてくれ」

 それ以上は何も言えなかった。ゆっくりと這い回る手が、敏感になった肢体を弄ぶ。
暗闇で急に下腹部の衣服を剥ぎ取られたと思えば、強く擦られて、生温かい狭い肉壁と唾液に包まれていた。薬の効果があるとはいえいつもよりも強い快楽に、情けない艷声が止まらない。
擬似の挿入体験で散々イかされたと思えば、急な圧迫感。ゆっくりと、入ってくる。萎えることのない芯のある欲望が無理矢理排泄用の穴をこじ開けてくるのだ。痛いに決まっている。
 だが悲鳴を上げようものなら性急な動きは止まり、弱いところをやわやわと刺激する。落ち着くまで、汗を拭ってはただひたすら待つのだ。泣き声が「大丈夫」に変わるまで。
何故ここまで愛しく思ったのかもわからない。動きを止めた彼に赦しを告げ、男の背中に手を伸ばしては奥へ、更なる奥へと導く。男女の営みの真似事をする必要が果たしてあったのか、だが確かに幸せではあった。
 彼は、ことが終わるまで一言も喋らなかった。



 愛のない行為は便利でもあり、虚しくもある。ああ、今日は部屋に招いたのだった。裸体が肌寒いのは朝になったからか。いつものように満足してから、後始末をして眠るまでの記憶がない。いつものように一連作業として体が動いたのだろう、ベッドからも不快な匂い一つしない。
気だるい体に鞭打ちながら、欠伸を噛み殺して隣で熱視線を送ってくる女を見つめた。

「噂通りお上手ですこと。何人の女を泣かせてきたのかしら?」
「一晩泊めてやったんだ。早く屋敷に戻れ」

 本名も曖昧な相手だ。特に未練もなくぶっきらぼうに言い放つが、相手も気にした様子はなく張り付いたような笑みを浮かべる。
 三大欲求は発散すると、確かに一時の満足感を得ることができる。だが、最近の無理な女遊びはそのような青い理由ではない。
ダメだ。足りない。何か。
どれだけ「気のせいだ」と言い聞かせて細く柔らかな肢体をかき抱こうが、満足することはない。疼いては、足りないものを訴える浅ましい体のことを察せられないよう、身なりを整えては彼女の衣服をかき集める。半裸の状態でも、まだ日が上がったところだから人もいないだろう。無遠慮に背を押すと、部屋から追い出しミネラルウォーターに口付ける。
生ぬるい喉に広がる熱と、後味の悪さが広がる。何をしているかはわからないが、自分が何を望んでいるかはわかっているつもりだ。ただ、忌々しい現実を嚥下するしかない。



 まるで魂を失くした人形のようだった。今日はゲームのない非番の日なのだが、ゆっくり眠ることすらできない。まだ太陽も昇りきっていないというのに、目はすっかり冴えてしまった。
部屋にはまだ昨日引きずり込んだ女も残っているだろう。フラフラと、行く宛もなく疲れはてた体を引きずり、ジャンクの積まれた露店へと足を運んでいた。
約束をしていたわけでもないのだが、そこには先客がいた。あの体の異変をもたらした日と同じように、ガラクタを吟味している丸まった背中。稚拙な鼻唄に誘われて、傍に寄ればすぐさまこちらへと気が付き、腫れた目を僅かに瞬かせた。

「バルサー博士」
「ん?」

 ゆっくりと振り返れば、無垢な瞳がこちらを見つめ、口角が弧を描く。「あの日の夜に何も起きなかった、いいね?」 と。
 忘れられるわけがない。火照る体の熱も、向けられた確かな情愛も。暗闇の中で享受するしか出来なかったが、それでも痛みもなく幸福を感じていたのも事実。
反射だった。ここで言わなければ、もう次はない。そう欲望が囁き、背中を押すのは必然だった。

「今夜、空いていないかな」

 普段は写真家のほうが頭1つ分ほど高い。だが、今はゲーム中ではないために、少し頭の高さはほとんど変わらない。汐らしく青い目を歪ませて視線を合わせれば、パチクリと無邪気な瞳が瞬く。
何を考えているかなんてわからないだろう。首を捻り、歌の代わりに単調な唸り声をしばらく上げていたと思えば、申し訳なさそうに頭を撫でてきたのだ。

「今日は非番だから、徹夜で作業を進めたいのだが……」

 失礼だと手を払う元気もない。ムスリと頬を膨らませてしばらく享受していたら、目を輝かせては壊れた豆電球を手に取った。
眉間にシワを寄せた理由は本人にもわからない。ただ熱を追いかけて頭へと手を乗せるが、余熱があるだけ。

「なら、いつならいいだろうか」
「昼では、ダメかな。夜の方が静かで作業が捗るんだ」
「昼は……」
「もしかして、夜戯お誘い?」
「!」

 図星をつかれて、体が過敏に跳ねる。男同士だ。恥ずかしがるようなことでもないのに、つい口を閉ざしては、視線も泳ぐ。無言は肯定。「ふぅん?」と鼻で笑うような仕草が憎らしいが、事実である以上言い返すことも出来ない。

「最近、女遊びが激しいようだけど、この前の後遺症?」
「そ、うなのだろうか」
「男に声をかけなくとも、貴方なら相手に困らないだろうに」

 確かにその通りである。だが、事実はそんなに単純ではなくなってしまった。

「抱かれ、たい」

 男として 抱くのではなく、女のように抱かれたいのだ。疼く原因は望む刺激がこないため。我慢ができなくなり、試しに自ら菊門に指を入れたこともあるが、予想以上の快感に驚いたものだ。

「疼いて仕方ないんだ……」

 恥ずかしげもなく服をはだけさせると、口を押さえられてそれ以上の言葉は封じられる。
どう足掻いても冷めない熱に振り回されるばかりだ。まるで、死の宣告を告げるかのような真剣な瞳に射ぬかれ、ゾクゾクと悪寒に似た快感が沸き上がる。

「ハンターたちではダメなのか」
「彼らは、粗暴と言うか、その、あまりヨくはなかった」

 何度か男のハンターを誘惑して床を共にしたのだが、自分本意な行為が多くて痛みが強く伴った。嫌悪感というものは沸かなかったが、快感を上回る憤りを覚えたものだ。

「ならば、薬のせいだろう。今私と寝たところでヨくなれるとも思えない」
「試さないとわからないだろう」
「私は気乗りしない」

 あの時は、どうかしていたと言えばそれまでだ。
薬と、置かれた環境と、一時の気の迷い。それでも確かに覚えている。満たされた幸福感と、耳から、腹から伝わる熱を。

「では、好き、と言えばいいか」
「女には通用するだろう」
「……好きだ」
「うん」
「ルカ。一晩だけでいいから」

 名前を呼んだところで心は変わりはしない。再びジャンク品を漁りだしたところで、引き戻すように背中に張り付いた。
 ここは一部の機械工作マニアしか使用しない店。元より人通りも少ないし、こんな早朝なら尚更だ。大胆な行動を取っても人目につく心配はない。悪戯に腹に指を這わせるのだが、振り返りもしない。色事には自信があるために、むかっ腹も立つというものだ。

「あれは一夜の幻だ。いいね」

 瞼にキスを落とされても、閉じた目はすぐに開かれる。だが、痺れのように瞼に残る感覚に、うっとりと目を閉じてしまう。
体に熱がこもる。人肌が心地よい。すがり付くようにと強めた腕が、強い力で引き剥がされようとする痛みを感じ、思わず体重をかけては倒れ混んでしまった。
幸い、頭からジャンクへ突っ込む惨事にはならない。頭を抑えながら立ち上がろうとする不満げな囚人と目が合うだけで、写真家はほくそ笑んだ。

「っ、デソルニエーズ卿……」
「今からでも、」
「そんな全身から女の匂いをさせている人を抱けと? 冗談じゃない」

 ぶっきらぼうに言い放ち、肩を押しては他人の香水から距離を置こうとする。不機嫌を丸出しにしている理由は、宝探しの邪魔をされたからではない。優位に立ったのは写真家である。ニヤニヤと口角を三日月状に釣り上げ、ゆっくりと腰を揺らしては四つん這いで距離をつめるのだ。

「妬いているのかな?」
「そんなバカな」
「フフ。可愛いところもあるじゃないか」

 胸に抱き込めば、反論もなく口をへの字に結ぶだけ。みじろぎ1つせずに地面を睨みつける彼の額にはシワが、には紅が指していた。

「一晩だけでいい」
「くどい」
「他の者ならば、男女問わず喜んで付いてくるというのに」
「他の者と一緒にしないでほしい」

 体だけの関係がお気に召さないというのならば、仕方ない。額に口付けると、固まる姿を尻目に手を握る。身を固くしていた為、近くにあったナットを左手薬指へと通すことは容易である。不格好な指輪ではあるが、彼にはお似合いである。

「私は、君にまた触れて欲しい。貴方が部屋に来てくれるまで、他の者は誘惑しないと誓おうじゃないか」
「……ずっと行かなければ、もう夜遊びはやめるのかな」
「そうなれば、私から貴方の部屋に行くとしよう」

 うっとりと目を細めては唇が弧を描く。得体のしれない女狐に、囚人はため息をつくだけ。

「気が向いたら、ね」

 いつ気が向くかはわからない。それとも、本当は準備ができている?
言い聞かせるような言葉に、素直に頷きクスクスと笑う。耳まで赤くしながら、熱視線を鉄屑に向ける彼を眺めるだけで楽しい。ますます赤くなるが伝染したのだろうか。体が火照り熱い吐息が漏れた。

「ルカ。好きだ」

+END

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◯◯しないと出られない部屋
バイ囚×ノーマル写の慣れ始め

20.12.1

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